25杯目「さかなでいっぱいプラス」

さかなと女性客がいっぱい

JR住吉駅の南側に魚が美味しい立ち飲み屋があると聞いて出掛けたのが昨日のように思い出される。17年前の平成14(2002)年に開店した店を切り盛りするのは、30年近く魚屋を経営していたオーナーの柳修一さんと若いオネエサンたちだ。
店名は柳さんがお世話になった居酒屋の女将さんが名付け親。「魚がいっぱい(沢山)」と「魚で一杯飲む」等の意味があるそうで、ネタは魚ばっかりの店だった。

初めて訪れたとき「7年前、しっかりした立ち飲み屋はなかったから、飲食系の立ち飲みの走りやったね」と、柳さんは振り返った。当時出版した「神戸ぶらり下町グルメ決定版」に登場していただいた。あれから10年、立ち飲み屋を取り巻く環境もネット環境も随分と変わった。

柳さんの店も2013年11月に住吉駅南の住吉南町から駅北側の住吉本町に移転し、店名の「さかなでいっぱい」に「プラス」を追加した。プラスにはテーブル席のプラス、メニューに鍋料理などをプラスの意味が込められているそうだ。移転後も基本は立ち飲みだった。店の外の看板に「立ち呑み処さかなでいっぱいプラス」が残っているのがその証であろう。

ところが、世の中は立ち飲みがメジャーになってしまい、本来の立ち飲み屋の姿でなくなってしまったという。典型的な住宅地である住吉。店に来られるお客さんの中には、立ち飲みではなく座って飲みたいというグループ客も目立ち始めた。そんな要望で3分の2くらいを立ち飲みにして、残りに椅子を入れた。しかしその後は立ち飲みと座って飲めるテーブル席の比率をめぐるせめぎ合いで、行きつ戻りつの試行錯誤の末に現在の形に落ち着いたと言う。つまり1人なら立ち飲みコーナーへ、グループならテーブル席へという具合である。

前置きが長くなってしまった。お客さんも来店し始めたので立ち飲みのカウンターに席を取った。とりあえずの生ビールで乾杯である。アテは”さかなでいっぱい”だから迷わず”おまかせ刺し身4種盛合せ”(580円)を注文した。福田さんが注文したカキなど4種入ったものも届いた。刺し身は大きく分厚く、プリプリ感も半端ない。値段も”さばきずし”(280円)、”キハダまぐろ刺し身”(380円)といった具合に200~300円台と安い。元魚屋としての誇りに違いない。

壁に目をやると、お店からのお願いが貼ってある。曰く、「お1人様ドリンク2杯以上のご注文をお願い致します」「混雑時は2時間以内でお願い致します」と。ごく当たり前のマナーと思えるが、昨今はSNSが普及して、どこの店でも料理の写真を撮ってネットに投稿するお客さんが少なくない。こうなると酒類をほとんど注文しないお客さんも当然のことながら増える。

酒のための料理、あるいは料理のための酒かも知れないが、酒と料理はバランスよく注文したいものである。ちなみに酒類は珍しい焼酎や季節ごとの地酒がある。ボトルキープもでき、名前を存じている蕎麦打ち名人でもある大学の先生の名前を見つけ、親近感を覚えたものだ。

生ビールが無くなったので角ハイボールと”たこ天ぷら”を追加した。天ぷらは自分で揚げるのは油の処理に困るし、高齢者には危険である。やはり店で食べる天ぷらは旨い。
そうこうしていると立ち飲みカウンター席も男女の別なく人が増え賑やかになってきた。立ち飲みの気安さでお隣の方に話を聞いてみると、こういう場所でなければ出会うことのない能楽師の方だった。能楽師と聞いて、近くにある凱風館の館長で思想家の内田樹さんの奥様もそうだったことを思い出した。そんな話もできたのは”袖振り合うも多生の縁”かと思う。

ただ昨今はSNSの影響により、店で隣り合ったご縁で友達になるケースが減り、店を飛び越えてSNSで知り合うことが多くなっていると聞く。どういうことになるかと言うと、あの人が来る店だからとリピートするのではなく、SNSで情報交換してあちこちと渡り歩くのである。ここと決めた店2、3軒に通ってもらいたいものだ。それが店の存続につながるはずだ。

カウンターからテーブル席を眺めると、若い男女7、8人のグループが集っていた。グループだと特典もあるそうだ。例えば土、日、祝限定で一人3300円以上の飲食で5%引き、さらにキャッシュレス支払いなら5%還元である。グループでなくとも火、木は3杯以上の注文で生ビール、焼酎、チューハイが何杯飲んでも100円引きである。なんともうれしいサービスであるが、みんなもっと酒を楽しもうという店主からのエールだと思う。

魚のことも書いておこう。活きのいい魚の仕入れ先は神戸市中央卸売市場だが、仕入れ具合によってその日のオススメメニューが決まるそうだ。メニューを見ながら注文していたが「毎日来られるお客さんもいるので、LINEで本日のオススメ情報を流しています」と柳さんがスマホの画面を見せてくれた。筆者はスマホが壊れてからガラケーしか持たないのだが、情報弱者であると思い知らされる。やはりスマホは持ったほうがいいのだろうか。

そんなことを思いながら日本酒も飲みたいなあと菊正宗の熱燗と鯖の箱寿司をもらった。気が合ったのかカメラの福田さんも菊正宗をチョイス。酒は利き酒に使う正一合のぐい呑みで出してくれたので一層味わい深かった。おいしい魚と酒、酔い夜を過ごすことができた。

最後に柳さんに一言をお願いしたら「肩肘張らず、店に合わせて楽しんでもらいたい」とのことである。
お読みいただきました皆様、一人でもグループでも、魚が美味しい”さかなでいっぱいプラス”にぜひ。そして気に入ればご贔屓に!

「さかなでいっぱいプラス」
神戸市東灘区住吉本町2-17-2
TEL078-854-3718
営業時間 17:00~23:30
定休日 無休

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