15杯目「世界長直売所本店」

若い女性客に人気&マグロが名物の立ち飲みの元祖

赤ひげ本店の次は少し南に下り、「立ち呑みの元祖」と呼ばれる世界長直売所本店を目指す。途中、左手には「元町ヱビス」が見え、その先には派手な看板の「魚河岸居酒屋えびす大黒」ができている。さらに「立ち呑み処大勝」、老舗の「八喜為」、「立って呑んでね福の神」と続く。

「東の浅草、西の新開地」とうたわれた街には、つくづく立ち飲みが似合うと思う。阪神淡路大震災を経て街の賑わいに陰りがないと言えば嘘になるが、ボートピアの手前のうどん屋の角を右に折れてしばらく歩くと世界長直売所本店がある。
創業したのは昭和42(1967)年1月15日、かれこれ半世紀以上になり、切り絵作家の成田一徹氏による「神戸の残り香」にも登場した名店である。

店主の岸田耕治さん、奥さん、息子の修志さん夫妻で店を切り盛りする。入り口の世界長と書かれた暖簾、震災にも耐えた馬蹄形のカウンターが老舗の看板。カウンターは創業以来何も手を加えていないという。腕の確かな大工さんの作ならではのことであろう。
午後4時に入店したのだが、すでに満席に近い状態で、さすがの人気。たまたま空いていた馬蹄形のカウンターの孤を描く処に席を取った。

刺身、焼き物、煮物、揚げ物と肴は何でも揃っていて値段も手ごろ。知り合いの神戸中央卸売市場の専門店から仕入れるマグロがこの店の名物である。運がよければまぐろハンバーグに出会うこともある。他にホルモンミックス焼き、(国産牛使用の)スジコンや豚足、冬場なれば牡蠣や〆に粕汁がオススメである。千円超えるものに黒毛和牛炙りがある。

まず大瓶ビールとマグロの串焼きをオーダーする。たまには麒麟を、と注文したがアサヒビール専門店と知る。マグロもよく出るようで串焼き、すき刺は売り切れ、というわけでマグロのフライを揚げてもらい乾杯する。

新開地の飲み処は、近くにボートピアがあるので、店内のテレビは常時、競艇を映し出していて、この店とて例外ではない。競艇がある日には約30人収容できる店も満員の状態で、お客さんの対応にきりきり舞いとうれしい悲鳴を上げているそうだ。

さて、昨年(2018年)、天満天神繁昌亭に次ぐ上方落語の定席の一つとなる神戸新開地・喜楽館がオープンした。その効果のほどを岸田さんに聞いてみた。「お客さんが増えたように思いますが、桂文枝師匠を始め落語家さんが来てくれるようになったのはうれしいですね。ほかにも若い女性客が多くなったことも」と店主の顔に笑みが溢れた。

ビールも空いたのでホルモンミックス焼きと看板酒の世界長を冷やで追加した。このホルモン焼きと世界長が見事なハーモニーを奏でてうまい。筆者は一年中あるおでんから豆腐と大根を、カメラの福田さんは、近くのお客さんが美味しそうに飲んでいたチューハイセットを更に追加。

焼酎と氷が入ったジョッキと地元の兵庫鉱泉所が製造しているマスコットがカウンターの上に差し出された。ホッピーのようにジョッキにマスコットを注ぎステアして飲むのである。味は如何だったか、出来合いのチューハイと違うに決まっている。

お客さんに聞いてみました。「有名やし何でも美味しい。東山市場を歩いてると大将に出会うので、つい声をかけてしまう。ここは本当にええ店や」と。奥さんにも昔の話を聞いてみました。「おばあちゃんが愛想は要らないと言ってお客さんを選んでましたわ。この辺り、ガラ悪かったしね」と懐かしそうに創業時のことを話してくれましたが、今は新開地まちづくりNPOなどの努力が実り、女性も安心して来れる街になったように思われる。

実際、ある日に立ち寄ったところ、新開地まちづくりNPOが主催した新開地夏の社会見学会の女性10人限定「夜も楽しいザ・シンカイチツアー」の一行と出会った。店主こだわりの澤の鶴「吟醸ひとはなぐらす」とマグロのトロに舌鼓を打っていた。新開地の立ち飲みが華やいだ一瞬である。1人では入りにくい女性にも楽しんでほしいと門戸を開く店主の心意気がいい。

「いい酒とマグロ料理を召し上がって下さい。今日のオススメは何かと声を掛けて下さい」と、一見さんにも優しい店主岸田さんが待っている。ぜひとも新開地の立ち飲みを味わって欲しい。

「世界長直売所本店」
神戸市兵庫区新開地3-4-29
TEL:078-575-4757
営業時間 平日 15:00~21:00
土曜、祝日 12:00~20:00
日曜休

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14杯目「立呑み赤ひげ本店」

ゴリラのモニュメントが目印

湊川公園から新開地商店街に入り上崎書店などを眺めながら下って行きます。途中、中島らも+小堀純著「せんべろ探偵が行く」(集英社文庫)に掲載されている赤ひげ姉妹店の前に出る。この店は“座り”なので今日の目的の店ではない。やがて広い道路(多聞通)に出て信号が青になったので渡ると、立呑み赤ひげ本店がある。

壁にゴリラが登っているようなモニュメントがあるので目立っているはずだ。角打ちの定義からは外れるが関西で言うところの立ち飲みも、今回の巡礼では扱うことにする。
店をオープンしたのは18年前の平成13(2001)年秋のことである。以来「地域で一番安くて、おいしいものを提供する」をモットーに頑張っている店である。

赤ひげの店名の由来がわからなかったので、店長の森上丈一さんに聞いてみたことがある。「亡くなった先代の社長が付けたのですが、作家山本周五郎の青ひげをもじったのではないでしょうか。黒ひげというのもありますし」ということで長年の疑問が氷解したはずだった。今回、改めて調べたところ(店長には申し訳ないが)山本周五郎の作品にずばり「赤ひげ診療譚」がある。どうやらこの作品から名付けたのではないだろうか。

さて、立呑み赤ひげ本店と言えば串カツの店と思っていたが、それは先入観だった。
「人気の秘密は一番に刺身やね。それからべっぴんのスタッフが3人もおることかな」と店長は胸を張った。「べっぴんさん」と言う店長の声が常連さんの耳にも届き、常連さんがすかさず「べっぴんさんおらんようになったら、この店も終わりや」と応酬するのが、なんともおかしい。

メニューを見れば、一串60円からの串カツはもちろんあるが、100円台からの刺身、焼き鳥、冷奴、枝豆、ポテトサラダ、だし巻きなど居酒屋メニューがオンパレードである。しかも安いなあ。

店長イチオシのタイのつくり(250円)、マグロぶつ切(350円)に瓶ビールをもらって飲み始めた。(前の店を含めて)40年通っている常連さんが「安い、うまい。店長にも会いたいから来る」と言うのに偽りはなかった。

次はやはり串カツが食べたいので盛り合わせをもらった。なんと340円とびっくり価格、しかも11年前と同じ値段。壷に入ったソースに漬けるのであるが、もちろん二度漬け禁止はお約束である。味は看板通りで、揚げたては美味しい。ビールとよく合う。ビールの次に麦焼酎の水割りももらったなあ。

途切れなくお客さんがやって来る。「いつものビール?」と店長は声をかける。聞けば常連さんの150人くらいは最初の酒がわかるとのことである。恐れ入りました。
ガラスケースの中は、毎日来るお客さんもおられるのでと、少しずつ品を変えているそうで、こう言う心使いも魅力の一つなのだろう。

店長から「ゴリラの顔見てみる?」と店の3階に案内してもらった。ゴリラのコンタ君と初対面、立呑み赤ひげ本店がオープンする前からいるらしい。ちなみに赤ひげ関係者以外に見せるのは今回が初めてのことで光栄だった。1階に下りてから、焼き鳥盛合せ(280円)、ムール貝(190円)やチューハイ(240円)などを追加。いくら飲み食いしたのかもう記憶の外であった。やはり安くて旨いせんべろ酒場となれば仕方ないですね。

店をやっていて嬉しかったことはと問うと、「客層が良くて、いいお客さんに恵まれています」と店長の顔がほころんだ。まさに店長やスタッフも明るい方ばかりで、本当にオススメのB面の街・新開地の立ち飲み処だ。そう感じる理由は、別の常連さんが教えてくれた。「わしは食べたことないけど、賄いが凄いで」の、”まかない”にもあるのかも知れない。地域一番の安い店をいつまでも続けて欲しい。

(筆者注)レコードの表面(A面)にヒット曲が収められているのに対して裏面(B面)は付けたしであった。このレコードの表裏の関係になぞえて、B面の神戸こそ味わい深いもので本当の神戸がある。

「立呑み赤ひげ本店」
神戸市兵庫区新開地3丁目4-17
TEL:078-577-4429
営業時間 11:00~23:00
月曜休(祝日の場合は営業、翌日休)

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13杯目「公園前世界長(佐藤商店)」

酒の見識の高さに加え、ホーローのバットに盛られた肴が旨い

先週から、かつて「ええとこええとこ新開地」とうたわれた湊川新開地に来ております。酒のシマダを出て南下すると2019年8月13日に開業した兵庫区役所の新庁舎が見え、湊川公園に繋がります。

湊川新開地は、1905年(明治38年)、旧湊川を埋め立てた跡地に生まれました。そのため湊川公園から南へ続く商店街は、なだらかな坂になっています。一大歓楽街となった新開地のその繁栄ぶりは、林喜芳著「わいらの新開地」(神戸新聞総合出版センター出版)に譲ることにして先に進みます。

湊川公園の傍に古びた建物があります。どうやらホテルだったようで、その一階に立ち飲みの聖地・新開地を代表する世界長はあります。大きな字で世界長と書かれた暖簾に老舗の歴史を感じます。湊川公園の前に位置することから、いつしか公園前世界長と呼ばれるようになったと思われます。

大阪で仕事をしていた若い頃に立ち飲みは経験していますが、筆者が神戸で最初に入った立ち飲みの店が、おそらくこの世界長だと記憶しています。
天気予報の通り、雨が降る午後6時、店に灯りがともります。シャッターが開き、マスターが看板を定位置に置き、暖簾を掛けました。この瞬間を待っていたかのようにお客さんが店に入ります。筆者らもそれに続きます。開店してまもなく、店内は埋まりました。

さて、大阪出身で東京在住の知人と、新開地立ち飲みツアーをやったことがありました。4、5軒ハシゴしましたが「酒、肴、雰囲気、建物、ロケーションのすべてにおいて公園前世界長が一番良かった」と知人は絶賛しました。料理が大皿ではなくバットに盛られていたことも、たまらなく良かったそうで、バットに盛られたナポリタンを注文しなかったことを今でも悔やんでいます。彼にとっては、このバットは新開地の立ち飲みの象徴となっています。

神戸在住の筆者は幸いなことに気が向けば、いつでも公園前世界長に来て、ホーローのバットに盛られた品々を味わうことができます。これは考えてみれば、大変幸せなことであります。

酒は日本酒、ビール、焼酎と揃っています。マスターは酒に対する見識が高いことで常連客から一目置かれています。

まずアサヒスーパードライの瓶ビールと大根の煮物をもらった。福田さんが蓮根を追加した。名物ナポリタンがなかったのはちょっぴり残念であるが、それは贅沢というものであろう。10年以上前になりますが、酒のシマダに寄った際に、お隣の常連さんと親しくなって、他にどこへ行くかと問うと「鮪のトロを食べに下の公園前世界長まで行きます」と返事が返ってきました。酒だけでなく肴(料理)に対してもこだわりがある店で、今度はトロを注文してみたいと思ったものでした。

奥の冷蔵庫の扉の上に酒の銘柄を書いた紙を貼っているので、今回はその紙が見えやすい場所に立ったのでした。筆者は名前が覚えやすい岩手県喜久盛の「北上夜曲 生原酒」、福田さんは群馬県高井の「巌  特別純米ひやおろし」をチョイス。北上夜曲の瓶はレトロ感溢れるラベルで、ちょっと酸が強くすっぱい、しかも原酒なのですぐ効く感じでした。この酒は復刻版でラベルはイラストレーターの吉岡里奈さんが手がけたとか、奥が深いなあ。一方、巌はフルーティーですっきりした味わいで何杯でもいけそうで怖いですね。

料理ですが、鰯のフライが登場したので迷わず追加。福田さんは「日之出桃太郎」や「なす」も頂きましたかね、記憶が怪しくなってます。
たまたまお隣に二人連れの常連さんがおられたので公園前世界長の魅力について伺うことができました。

「手に入り難い酒がリーズナブルな値段で飲めるほか、酒に合った料理も楽しめます」と。一言でいうと「オリジナルのリズムがある」と付け加えられました。いやあ、随分と通っておられる風で、的を得た言葉、すべてを包含していると感じました。

神戸の立ち飲みの店の壁にはなぜか世界地図や日本地図が貼ってあります。この店も例外なく貼ってあります。旅する者への羅針盤の役目なのだろうかと世界地図に目をやった。

両親の後を継いだ仲のよい兄弟が、伝統を守りながらひっそりと経営している、こういう店はそうはあるまい。日本酒好きには堪らない名店です。
酔いもまわってきました。新開地商店街沿いの店の巡礼を続けましょう。

「公園前世界長(佐藤商店)」
神戸市兵庫区新開地1-3-26
電話不詳
営業曜日、時間
火曜日 16時~20時50分
水曜日 18時~21時
金曜日 16時~20時50分
日曜日 16時~20時50分

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12杯目「酒のシマダ」

湊川新開地の名角打ち

兵庫区東山に朝から賑わう角打ちがある。神戸地下鉄山手線の湊川駅を出て北に数分、酒のシマダと暖簾が呼んでいる。店内には日本盛や白鶴の古い看板があり、これを見るだけで歴史のある店とわかる。

二代目の嶋田諷さんによれば、現在地での営業は昭和29(1954)年からである。それ以前は荒田町に店があったが詳しいことはわからない。荒田町時代から通算すれば、嶋田さんは三代目や四代目ということになる。
かつて嶋田さんは「酒小売と立ち飲みは分離しています。保健所の営業許可も取ってアテを大事にしています」と言っておられた。

その嶋田さんが引退して大櫛隆司さんが店を引き継いだのが平成24(2012)年のことである。大櫛さんは学生時代、酒のシマダでアルバイトをしていた経歴もあって、嶋田さんから店を代わりにやってくれないかと相談された。そしてサラリーマン生活をやめて引き受けたとのことである。酒屋を取り巻く環境が悪化している状況での決断に拍手を送りたい。

まず、しまだ名物牛煮込み豆腐+ドリンク(生中)をもらった。これで500円はうれしい。なんとお代わりもOKらしいですよ。

お客さんは神戸市内はもちろん、名古屋以東から来ることもあるとか。また東京にお住まいで神戸に里帰りのついでに立ち寄る方もおられる。その方は東京で飲めなかった酒がシマダに来て偶然味わうことができたと喜んだそうだ。

大櫛さんは日本酒の品揃えとそれに合うアテに力を注いでおられ、「いろんなお酒が飲めると言ってもらえるのが励みになってうれしい」と話す。問屋を通して仕入れることが基本だが、一方、蔵元から直接仕入れることもある。そしてお客さんには「お酒を楽しんでもらいたい」と言う。

繰り返すが、酒屋を取り巻く環境は年々厳しさを増している。安く近所の常連さんが集うだけというのは時代に合わない。じっとしているだけでは人は集まらない。そこには仕掛けが必要である。土曜、日曜、祝日の酒の肴の持ち込みOKにしたのはお客さんとの会話の中から誕生した賜物だ。毎月第一土曜日とその次の日曜日の日本酒の飲み放題1時間1500円というのも驚きである。筆者ももう少し若ければ注文したいところである。

生ビールも無くなり、普通のハイボールと焼酎ハイボールを追加した。カメラの福田さんは播州壷坂酒造の雪彦山と酒屋の松前漬けだ。酒が進む。

店内でのライブを始めとするイベントの開催も、もう一つの仕掛けである。嶋田さんから引き継いだ大櫛さんは、先代にはなかった、このような攻めの営業を怠り無く行っている。これからの角打ちのあるべき姿かも知れない。
客の立場に立ったいい店主のいる良い店が、ますます繁盛することを願って止まない。

「酒のシマダ」
神戸市兵庫区東山町3丁目7-11
TEL 078-511-0278
営業時間
月曜~金曜
11:00~14:00
16:00~22:00
土曜 11:00~22:00
日曜・祝日 11:00~20:00
定休日 第3水曜

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11杯目「石本商店」

「賑やかだったころの新開地に思いを馳せて」

兵庫区は中道通から大開通に戻ります。かつて西脇商店で教えてもらった川崎酒店と石本商店が今も大開通で営業しています。まず近い方の川崎酒店に伺って取材の許可をもらいます。取材日も決まって安心していたら、ケータイに着信音が鳴り響きます。なんと川崎酒店の女将さんから断りの電話でした。「息子が写真アカン言うてますねん」と。汚れて見えても写真に撮ったらレトロ感が溢れていい風情ですよ、と言っておいたのだが、無理は禁物、引き下がるしかありません。

こう言うこともあるさ、ケセラセラ。と言うことで今日の石本商店訪問となりました。
11年前のある日のこと、著名な百人の作家が出品している「音箱展」が新開地のアートビレッジセンターで開催されていました。音箱展を見終え、新開地から大開通の散策をしている途中で、神鉄ビルの南側、冷麺が美味しいと評判の宝楽の手前の石本商店で角打ちしていることを発見したのが、そもそも石本商店との出会いでした。

その一週間後の早い時間に再訪問させていただいた。創業が戦前からなのか戦後なのか、女将さんもよくは分からないとのことであったが、今回確認してみると昭和31(1956)年か32年らしいことが判明しました。60年を超える老舗になります。店名に商店がつくことから分かるように酒販売とタバコ販売を営んでおられます。

店はご主人の石本仁さん、奥様のさち子さんのお二人で切り盛りされています。いつもながら感じるのですが、酒屋を取り巻く環境が劇的に変化をし、業務店への配達は継続されていますが、個人宅はほとんどないとのことです。

街の小さな酒店の角打ちにお客さんが押し寄せることなく、一日が過ぎてゆくようです。40~50代のお客さんが多いそうで、「健康のため、規則正しい生活のために店を開けているようなものです」と女将さんは笑います。若者が酒を飲まなくなり、商売あがったりと嘆いても何も始まりません。新開地が賑やかだったころの話をしていただきました。

新開地と言えば本通にチャップリンの帽子を模したゲートがあるように映画の街でした。石本商店の近くにロマン座という映画館があり、映画を見終えたお客さんが帰りに立ち寄られ、真夜中の2時ころまで店は繁盛したそうです。三角公園のところにリリックという画家や文化人が集まるバーかカフェのような店がありました。その店のことを尋ねるとご主人は覚えておられました。この店のほか24時間営業の公園食堂もあったようです。

時は移り、市役所が移転し、神戸の中心が三宮になった頃から新開地の没落が始まります。ご主人は「街には多少とも闇の部分が必要で、それが賑わいを誘う」とも言います。現在進行中のモトコーの立ち退き問題と重ねると共通する部分が多いように思います。

さて、女将さんは、かつて地元のサンテレビの「ハロー神戸」に出演した思い出を語ってくれました。「ハロー神戸」は阪神淡路大震災の後、無くなりましたが桂小米朝さん(現、五代目桂 米團治)がMCをしていましたので年配の方にはご記憶にあるかも知れません。女将さんは話題豊富な方で退屈することはありません。

そうこうしていると40年来の常連さんが姿を見せました。勝手知ったお客さんのこと、黙っていても酒かビールが出ます。筆者とカメラの福田さんもビンビールとゆで卵を貰います。常連さんとも気軽にお話ができましたが、やはり角打ちは地域の歴史や情報が分かっていいなあという結論に達しました。

震災後に店を改装し、酒小売スペースの左手の比較的狭い場所が立ち飲み空間となっています。立ち飲みの看板酒は白鶴、アテはどれも200円と安く明朗会計です。11年前に来たときにカウンターの奥にノートパソコンが見え時代の象徴だと思ったものです。機種は違えど今もノートパソコンが置いてあります。

閉店間際に石本商店に行ったことがある友人によれば「どうぞどうぞと店の中に招いてくれ、こんなものしかないけどと、片付けていた惣菜をまた出してくれた」そうです。

こういう話を聞くにつけ、いい店の姿が浮かび上がって来ます。ワンコインで気軽に立ち寄ることができる店は、そう多くはありません。新開地に行かれたら、ぜひ一度覗いてほしい店です。

「石本商店」
神戸市兵庫区大開通1-1-3
TEL 078-575-5626
営業時間 7:00~20:00 祝日営業
定休日 日曜

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10杯目「リカー&フーズむらかみ」

「From KOBE」情報発信の心意気は今も

兵庫区大開通には西脇商店のほか、7丁目の川崎酒店や1丁目の石本商店があります。また神戸高速大開駅を降りて西へ向う途中にも芋田酒店がありました。いつしか廃業されていました。順序が前後しますが先に中道通9丁目にあるリカー&フーズむらかみを訪問することにします。

リカー&フーズむらかみの創業は昭和元(1925)年で、ご主人の村上裕一さんは三代目に当たります。
店は震災で甚大な被害でしたが見事に再生されました。その奮闘記は「むらかみ」のホームページに詳しく書かれていました。村上さんはかつてホームページで次のように思いを綴っておられました。

「もっと街が復興してほしい」「もっと神戸に人がきてほしい」という思いから、ホームページのテーマを「神戸の地元の商品をもっと知ってもらいたい!<From Kobe>にしました」。地元にありながら、意外と知られていない商材や、規模は小さくともいいものを造っている蔵を紹介し、そして何よりも、「お客さんに喜んでもらいたい」という思いで日々商いをしております。

「神戸の地元の商品をもっと知ってもらいたい」とホームページで情報発信されている姿に、同じ神戸で生活する者として元気をもらいました。そして11年前、筆者はこういうお店の取り組みが神戸に賑わいをもたらしてくれる気がしますとコメントしました。

村上さんが「From Kobe」に込めた思いは、現在神戸市が進める「BE KOBE」のさきがけだったのではないでしょうか。

今回訪問する際に、あのホームページがないことに気づきました。その理由を聞くと「もう、そう言う時代ではなくなりました」と奥様が小さな声で呟きました。個人の店がホームページを作成するための言語であるHTMLを覚え、タグという命令を打ち込み、魂も注ぎ込んだ情報発信の時代ではなくなったということに衝撃を受けました。なお現在ホームページはありませんが、facebookはあります。

わずか10年ほどの間に、物の販売も大手のネット通販にのみ込まれ、今やスマホで電子決済する状況になっています。酒屋を取り巻く環境が激変してしまったのです。嘆いていても解決しません。このコラムの目的は(消え行く運命にある)角打ち文化を知ってもらい、角打ちがある間に楽しんでもらいたい。それがお店の存続につながれば、ということなのです。

むらかみの配達先には業務店が残っていますが、個人宅はほとんどないそうです。一方、神戸はお好み焼き文化が今なお息づいている街で、地ビールならぬ地ソースの会社が少なくありません。むらかみでは今もブラザーソース、ばらソースを地方の業務店に送り続けており、「From Kobe」をしっかり守っておられます。

さて、最近はあちこちの店で見かけますが、むらかみでもワンコインサービスがあります。まずは生ビールとアテのセットいただきます。今日のアテは、たこ焼きをメインにしたもので洒落た感じです。

アテは、奥様手造りの本日のオススメ、冷たいもの、一品もの、揚げもの、その他(めざし、エイヒレ、するめ等)とホワイトボードに書き切れないほど沢山あります。もちろん、乾き物もあります。時々子供さんが姿を現します。街の駄菓子屋として機能しているのだと納得します。

かつての高齢なお客さんが持ち込んだ椅子が残っており、椅子ありの立ち飲みですが、近所の常連さんや、仕事帰りの方が立ち寄られます。時代とともに、高齢者はトコロテン式にいなくなり、お客さんもすっかり入れ替わったそうです。

筆者らは開店とともに入ったのですが、時間が経過するとともにお客さんも増え賑やかになってきました。長田から引っ越してきたお客さんから、六間道の角打ち永井酒店が再開したとの情報をいただきました。角打ちは人との出会い、地域との出会いの場であるとつくづく思います。そしてお客さんの後ろの壁に兵庫県の地図と日本地図が張ってあります。神戸の角打ちならではの風景と思われます。

日本酒に移りましょう。酒屋さんには看板酒があって、むらかみでも太田酒造の道灌を扱っておられました。それも昔の話で、今は全国の銘酒を置いてます。その中から筆者は香住鶴の夏の涼風 生酛純米、カメラの福田さんは特別純米棚田(長野の蔵元)をチョイス。冷酒はフルーティー、美味しいですね。

酒に合うアテとしてクリームチーズ酒盗(200円)とチジミ(280円)を追加します。いずれも美味です。この日は後の取材がなかったので、ついつい長居をしてしまい、しそ焼酎ソーダ割り、芋焼酎ラオウまで飲んでしまいました。

リカー&フーズむらかみですが、極秘情報を入手できました。ここでオープンにしちゃうから秘密でもなくなってしまうのが残念です。
月に一回、日本酒サービスデーがあり、高くて手が出なかった銘柄が安く飲めるそうです。日は決まっていなくて大体土曜日が多いそうですが、常連になると早く情報が得られそうです。また5のつく日は生ビールや樽ハイボールが安く提供されます。

村上さんに今後のことをお聞きしました。「あと何年できるかなあ。どこかと戦う気はまったくないです。今つながっている業務店や角打ちに来てくれるお客さんを大切にしたいですね。若い方の中にも角打ちに興味を持ってくれているのが嬉しいです」と。
創業百年まであと少しです。その日が迎えられることを祈っています。

「リカー&フーズむらかみ」
神戸市兵庫区中道通9丁目6-5
TEL 078-575-8018
営業時間 16:00~20:00頃まで
定休日 日曜、祝日休

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9杯目「西脇商店」

角打ちの原風景

原酒店を出て、もう1軒、大開通にある西脇商店に寄ることにする。JR兵庫駅から北へ、あるいは神戸高速大開駅から南に下ると角打ちの原点と呼ぶにふさわしい西脇商店がある。後述の理由により看板がないので通りすぎるかも知れない。

初めて訪れたのは一昔前のこと、まだ朝も早い午前9時前だった。
この時間に立ち飲みができるとは、うれしいものがある。美人の女将さんと娘さんが快く向かえてくれた。燗酒と雲丹くらげをもらい、ゆっくりと味わいながら店のことを伺った。

「祖父が20歳の時に西脇から出てきて酒屋を開きました。99歳で亡くなって13年経ちます」と女将さん。逆算すると103年ほど前の大正5年ころ創業の老舗ということになる。
筆者はずっと西脇出身の西脇さんだと思っていたのだが、今回訪問してみて娘さんから兵庫県揖保郡龍野町(現たつの市)と改めて聞き、ここに失礼をお詫びする次第である。

初めての訪問時の続きになるが「昔は大工さんなどの親方が職人さんを連れてこられ、この広い店が、それはそれは賑やかでした。車も店の前に停められましたから」と女将さんは懐かしんだ。

店内はカウンターの他に、いくつかのテーブルがあり十分広く、「飲むほどにDRY辛口、生。」のアサヒビールポスターを見るにつけ、昭和の香りがまだ残っていた。アテは乾き物か練り物が主体ではあるが、立ち飲み価格表には、ビール、ウィスキー、焼酎、ワインときめ細かく書かれており、店主の律義さが滲み出ている。十余年を経た今も、お互い歳を重ねた以外は何も変わってはいない。

他店と同様に、焼酎のお湯割りや水割り、缶ビール、発泡酒はよく出るが日本酒は65歳以上の人しか飲まないのでさっぱりだと言う。しかしながら昔は、姫路の龍力や山崎町の山陽盃を売っていたそうだ。たつの市は姫路や山崎に近いから、初代は西脇ではなく揖保郡龍野町出身と確定できる。地図を貼っている角打ちが多く、地理や歴史が学べるのも角打ちの良さと変に納得できるのである。

今回、ここでもビールをもらったが、日本酒(銘柄不詳)を追加した。歳のせいか、酔いが回るのが極めて早いと実感。ほどほどに。
いつ店をたたむかわからないからと、リカーショップと書いた看板を2008年4月に取り外したと聞いていたが11年後の今も変わらず営業していて、その有難さに涙する常連さんもいよう。

朝の早くから夜遅くまで開けてくれる西脇商店には、仕事帰りの方の他、近所の常連さんが多いように思う。そのような人にとって異業種交流の場として無くてはならない存在のはずである。

「お母さんは商売熱心で、寝てても店のこと心配するんです。店があったから、それが元気の素になっているんです」と娘さんが言う。これを励みに、少しでも永く営業を続けて欲しいと願う。今度は朝の時間に来て、久しぶりに女将さんと話がしたい。

「西脇商店」
神戸市兵庫区大開通8丁目1-24
TEL 078-575-2790
営業時間 9:00~12:00 16:00~20:00 (土曜日は16:00~16:30)
定休日 日曜、祝日、正月、お盆休

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8杯目「原酒店」

街の酒屋さん

JR和田岬線に乗って終着駅である兵庫駅に到着した。もっとも和田岬から兵庫駅の間に駅は一つもないのだが。この兵庫駅の北側にも、かつて角打ちが点在していたが、この十余年の間に街の様子も少しずつ変化をしている。酒屋経営の洒落た洋風居酒屋だったタヴァーン・ザ・カネサもいつの間にか廃業していた。 
そのカネサがあった場所から道路を隔てて同じ兵庫区塚本通の七丁目に、いかにも街の酒屋さん風情の原酒店がある。

創業は昭和46(1971)年と比較的若い部類に入る酒屋さんであるが、もうすぐ半世紀を迎えるので老舗と言っても差し支えはない。二代目の原栄治さんが大学生の時に店を継いで二十年になる。「神戸立ち呑み八十八カ所巡礼」に登場した店主さんでは最も若い層だった。

立ち飲みは創業時から、しかも朝もやっていたが、時代とともにお客さんも変り、午後5時から9時までの営業となっている。ご近所にお住まいの方や仕事をされている5、60代の男性のお客さんが主流を占めていたのだが、年齢層が年ごとに若くシフトして、現在は40代中心になっているそうだ。立ち飲みスペースは、それほど広くはないがお客さん同士のサロンとしての役割が大きい。

原酒店と聞けば関西でホッピーがあまり知られていないときから、その普及に努めていたことを知る常連の方も少なくない。神戸市内では長田の水笠通にある森下酒店と原酒店くらいしか置いていなかったように記憶する。おそらく神戸で一番か二番目の、早くから扱っていたのだろう。

このホッピーという飲み物はビールが高くて飲めなかった時代の産物と聞いたことがある。ジョッキに焼酎を入れ、次いでホッピーを注いで飲むのだが、焼酎を「中」、ホッピーを「外」と言うようになれば、みなさんも十分なホッピー愛飲家だ。

話を聞いている間に、SNSで知り合った常連さんが姿を現した。世間は狭いものだ。原さんは「お友達のSNSで知って来られる方が増えています」とのことで、高齢者が多かった角打ちも徐々に若い方に受け入れられていると感じた。

せっかくなので常連さんに原酒店の良さを訊ねてみた。「店に来るというより店主さんに会いに来る感じ」「原さんは酒にすごいこだわりを持ってらっしゃる」「酒が日々刻々と変化をすることなど、楽しみ方を教えてくれます」と酒の強み弱みを教えてくれる店としての、“原酒店愛”がひしひしと伝わってきた。

暑い日だったので定評のあるキンミヤ焼酎をホッピーで割ったものとイワシ煮をもらった。カウンター上にはお母さん手造りのアテや缶詰が置いてあるので好きなものを選ぶことができる。ホッピーの飲み心地であるが、ビールのようであり、そうでもない。気になる方は原酒店に足を運んで味わっていただきたい。

酒屋を取り巻く環境は一段と厳しくなってはいるが、手をこまねいてばかりでは未来が開けない。原さんは焼酎ブームの世の中だけど、日本酒を飲んでほしいと、灘の中堅どころの大黒正宗の販売と普及に力を入れている。現在は大黒正宗のほか、雪彦山、池月、東長、白鷹悦蔵なども取り揃えている。

ということでホッピーの次は原さん一押しの大黒正宗を飲んでみた。最近の日本酒はフルーティーでいくらでも飲んでしまいそうで怖いなあ。

最後に、店をやっていて良かったことをお聞きした。「いろいろな方とお会いすることができます。お客様、蔵元などの良い出会いがあり財産になっています」と、特にプロレス団体「ドラゴンゲート」のプロレスラーの方とは家族ぐるみのお付き合いに発展しているそうだ。袖振り合うも多生の縁という言葉があるが、筆者も原酒店がお客さん同士を繋ぐ場になればと願う。

「原酒店」
神戸市兵庫区塚本通7丁目4-12
TEL 078-577-0495
営業時間 17:00~21:00(立ち飲み部)
8:00~21:00(販売部)
定休日 日曜
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7杯目「ピアさんばし」

企業城下町の角打ち

木下酒店を出て、もう一軒ということで、笠松通りに向かいます。ご存知のように地下鉄海岸線にある和田岬駅は、神戸を代表する大企業の城下町にあります。この大企業や関連会社の終業を告げる午後五時過ぎ、一軒の大箱の酒屋の立ち飲み屋が混みだします。

その酒屋とは、丸亀の三橋村出身の先々代が創業した「ピアさんばし」です。現在は三代目の店主である三橋敏弘さんが暖簾を守っています。三橋さんは、神戸の酒文化を発信しようと、平成20年11月に結成した山手倶楽部の代表も務めています。

創業年を問うと「1925(大正14)年です」と明快な答えが返ってきて驚きました。その後、単なる個人商店では限界があると平成2年に株式会社化しますが、界隈の店と同様に三菱とともに歩んできました。


店名のピアとは、船着場を意味し、店の入り口には巨大な灯台のモニュメントがあります。
横浜と神戸を運行したジャパニーズドリーム号の設計者に意匠してもらったと聞く店内は、船舶のキャビンのイメージが漂います。

場所柄、三菱重工、三菱電機のお客さんが9割を占め、ほぼ毎日常連が来店します。このため飽きられない工夫を随所に凝らしているようです。お客さんが店に入ってくると三橋さんは「お帰り」と声をかけます。家族の一員として迎えるわけです。「重工、電機のお客さんは、身元がはっきりしていて、安心。質が高いですね」と三橋さんは笑顔で話を続けます。

神戸でも一、二を争う大箱の立ち飲み店で、60~70人は収容でき、貸切のパーティにもうってつけです。ピアさんばしでも、ビールや焼酎がよく出るとのことで、焼酎は一升瓶で50本はキープになっています。


アテは陳列しているものを勝手に取るシステムで、まず生ビールと天麩羅をもらいました。次に注文したのが、「おさんぽジャパン」という番組で来店した国分太一さんが飲んだ白鹿山田錦です。すっきりした味わいの酒です。

更にあちこちの酒場で流行っているハイボール。おお、濃いなあと思ったらグラスにはウィスキー90ccが入っているとか。そらあキツイなあ。ちょっと飲みすぎました。

三橋店主にこの仕事をしていて嬉しかったことを聞くと「お客さんの美味しいという声。薦めた酒が旨かったと言ってもらえること。そして次の人を連れて来てくれると嬉しい」と相好を崩しました。
ピアさんばしの常連さんが、この店の初心者を、すぐ話の仲間に入れてくれたのは、さすがにお客さんのレベルが高く嬉しいものです。

立ち飲み屋の話からヴィッセル神戸、はたまたメディアの話と話題にはこと欠きませんでした。結局、同じテーブルを囲んだ若い二人づれに和田岬線に案内してもらって無事帰途につくことができました。ありがとうございました。

「ピアさんばし」
神戸市兵庫区笠松通7-3-4
TEL 078-671-2690
営業時間 16:30~20:30
定休日 日曜、祝日

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6杯目「木下酒店」

国宝級の哀愁漂う角打ち

角打ち巡礼のルートは決まってはおらず、まずは神戸の中心からと、中央区の店から始めました。神戸駅界隈から三宮に戻ろうとして小さな角打ち山下酒店に伺いました。ご夫婦とも健康上の理由で店を安定して開けることに自信がないと、掲載には至りませんでした。残念ですが、このような情報もお伝えしていきます。


という訳で一気に和田岬に飛びました。和田岬へのアクセスは地下鉄海岸線、あるいはJR兵庫駅前から和田岬線(朝と夕方以降のみ運転)に乗る方法があります。健脚な方なら兵庫駅前から徒歩で行くことも考えられます。

今回、往きは地下鉄、帰りに和田岬線を利用することにしました。
和田岬駅に到着しました。近くに、その名も「みつびし」という飲み屋を発見。 さすがに神戸を代表する大企業の城下町です。


こちら日本の心を伝える「木下酒店」、昭和レトロか大正浪漫の角打ちに驚きます。店内は広くはありませんが一枚板の重厚な看板が目を引きます。しかも文字は右から左へと読むのですから、戦前の年代のものでしょう。天井を見れば電線が剥き出しで碍子も見えます。


三代目のご主人である木下正さんにお話を聞きました。大正10(1921)年の創業で今年98年を迎える老舗酒屋です。ちなみに神戸三菱造船所が発足したのが明治38(1905)年のことで、社名が三菱重工業株式会社と変更になったのが昭和9(1934)年ですから、ほぼ三菱さんと歩んできたことになります。

昔は、停電が多くこんなものを使ってましたとご主人に見せてもらったのは、ガス灯でした。今は使うこともないでしょうが、使用可能だそうです。棚も今は見ることもないような頑丈な造りです。こういう古いものが残っている木下酒店は国宝級の立ち飲みと呼んでもおかしくはありません。


場所柄、お客さんの殆んどは三菱重工の関係者です。このため店内に三菱重工の職人さんが作った造り酒屋のジオラマが置いてあります。出来具合もすばらしい。さすがは日本の技術を支える企業城下町のことはあります。午後4時過ぎ、ご近所の隠居さん達が集まり始めます。その後、午後5時を過ぎると三菱にお勤めの方が現れ、一層にぎやかになります。

国産コンピュータの草分け時の富士通に池田敏雄氏がいました。彼はコンピュータの巨人IBMに果敢に挑戦した天才技術者でした。その池田氏が部下を引き連れて作戦を練ったとんかつ屋が東京の大岡山にあった「あたりや」です。


業種は違えど、ここ木下酒店でも技術立国を支える技術者のコミュニケーションの場としての陰の役割を果たしてきたのではないかと思うと、感慨深いものがあります。ちょっと大袈裟すぎましたか。それも立ち飲み酒のせいかも知れません。


最後に店の将来のことをお聞きすると「子供達はそれぞれ仕事を持っているので角打ちは私で最後です」と。うーん、としか言いようがありません。皆様も気になる店がありましたら早めに足を運んで楽しんで欲しいですね。

「木下酒店」
神戸市兵庫区上庄通2丁目2-13
TEL 078-671-1269
営業時間 15:00~20:00(土曜日は15:00~18:00)
定休日 日曜、祝日

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