27杯目「小田商店」

住宅街のオアシス

令和元年の10月から始めた東灘区の角打ち巡礼だが、令和2年の正月をまたいでしまった。気のせいかすごく長かった気がする。その東灘の角打ち巡礼を締めくくるのが、JR甲南山手駅から西へ徒歩10分ほどの住宅街(本山第三小学校の西)にある小田商店である。

そもそも小田商店を知ったきっかけは、冊子「神戸立ち呑み巡礼」の復刻版を発行した2018年11月にSNSだったか直接のメールだったか、おそらく小田商店に通う常連の方からの貴重なお知らせだった。いろいろ探してみたが、そのお知らせを見つけられず気になって仕方がない。記録しておくことは非常に大切である。もしこの記事を見られたら連絡をして欲しい。

さて、小田商店は先代が半世紀以上前の昭和40(1965)年8月26日に創業し、現在二代目の小田雄二さんと奥様の代里子さんが暖簾を守っている地域密着の酒屋である。

東灘区は地車(だんじり、以後だんじりと表記)で有名なところであるが、角打ちとは直接関係がなかったので話題にすらしなかった。本山地区の”だんじり”は8区に分かれ、小田商店が属するのは中野地区。ご主人の雄二さんは中野地区の役員を長く務められ、退任した現在も5月の祭礼など事あるごとに顔を出している。そんなこともあって小田商店には”だんじり”に関わるお客さんが多く集うという。
中野地区の祭礼のとき、宮入りするのは中野八幡神社であるが、その上位に保久良神社が位置し、5月4日、5日は例大祭に当たる。

角打ちの魅力の一つに、地域との出会いがある。小田商店では”だんじり”を軸にしたコミュニティーがすでに形成され、地域の文化である”だんじり”がごく自然に継承されていくのだろう。とてもすばらしいことである。

小田商店で角打ちできる場所は3カ所あって、まずカウンター(現在は物置になっているとか)、酒売り場内のテーブル席、そしてVIPルームと呼ばれている奥の小部屋、いずれも椅子があって高齢者に優しい。合計して15人は入れるだろう。

まずはテーブル席にてサッポロラガー赤星で乾杯し、取材開始である。時計を見れば午後5時前、やがてお客さんが増え始める。ついには普段物置のはずのカウンターも埋まったのであった。

店内を見渡すと、お客さんがキープした名札付のボトルがぎっしりと並ぶ棚が壮観である。冷蔵ケースに目をやると、そこにもキープされた日本酒が収まっている。そんな酒の中から”保久良山 灘の一つ火”というラベルの酒を発見したのだった。

”保久良山 灘の一つ火”は太田道灌の名前で知られる太田酒造に製造を依頼した小田商店のオリジナルブランドで、本醸造酒と季節により”にごり”がある。ボトルのラベルは小田さん夫妻が考案したものとか。

ここで保久良山(ほくらさん)について記憶を辿ってみた。神戸の西に住んでいる筆者は身近な山と言えば旗振山や高取山の名前が浮かぶのであるが、神戸の東側に住む方には摩耶山と同じくらいに保久良山はポピュラーであるようだ。最初に保久良山の名前を知ったのは中島らも氏のエッセイ「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」であった。もっともその記憶は消えていたのだが、思い出させてくれたのが平民金子氏による神戸市のサイトに連載されたWEBエッセイ「ごろごろ、神戸3」の第8回の記事だった。この中で保久良神社のことや石灯籠「灘の一つ火」が、かつてこの辺りを通る船の目印となった灯台の役目を担っていたことにも言及している。おそるべし平民金子(笑)ちなみに「沖の舟人 たよりに思う 灘の一つ火 ありがたや」という古謡がある。
もうおわかりですね。小田商店のオリジナル酒”保久良山 灘の一つ火”は小田さん夫妻の地元へのオマージュなのでしょう。

さて、VIPルームに移動することにする。ご主人が用意した炭が赤々と燃えている。いい風情である。この”かんてき”設備はご主人のお友達が7、8年前に製作したもので、ダクトの作りを見ると素人にはできない代物であることは明らか。

炭火には焼き鳥が似合う。ご主人が自ら仕入れた鶏肉に包丁をいれ、串に刺した逸品。しかもご主人が焼いてくれる。角打ちでこのごちそうは至福の極みである。筆者らは取材に忙しく今回は最初に飲んだビールのみ。こんな日もあるさ、ケセラセラ。

常連客の女性に話を聞いた。「お父さんもお母さんも優しくて親切。なかでもこの炭火で焼くアテが最高ですね」と笑顔があふれた。

”保久良山 灘の一つ火”を何度もお代わりしている男性客は「初めて来たときに同じ席になった常連さんに親切にしてもらいました。お父さん、お母さんもだけど、みんな親切で和気あいあいとしていて、また来たくなります」と。

取材日は冬の風が強く寒い日だった。炭火の温りを囲んで酒を酌み交わす光景に角打ちの良さを再発見した。18杯目の榊山商店のところで書いたことを採録する。
~角打ちは人との出会いが待っている。店主や偶然隣り合わせたお客さんとの会話が楽しい。おごりもへつらいも不要で、話すのが楽しいから話すのである。他にも地域との出会いもある。昭和の雰囲気をたっぷり残した店内で、店主に店やその地域の歴史など、よもやま話を聞きながら飲む酒は格別である。~

このVIPルームには”だんじり”のDVDやポスター、グッズ等が置いてある。モニターでDVDを映し出すこともできる。プロ野球シーズンなら阪神タイガースの試合も見ることができる。東灘区の角打ち巡礼の締めくくりとして最高の角打ちに出会えた気がする。

最後の〆に、「ご主人にとって角打ちとは何か」を聞いた。
「本来なら自分から出掛けて行って見たり聞いたりしないといけないのに、お客さんがいろいろな所から情報を持って来てくれます。ありがたい商売やなあと思います」

角打ちながら魚料理にこだわりがあると聞いていたが、この日は魚の仕入れを忘れたそうである。魚を目指してきたお客さん、そしてアテにありつけなかった筆者らも再訪問決定である。

ひとまず東灘区の角打ち巡礼を終え、次回から角打ちの聖地・長田区に移動する。

「小田商店」
神戸市東灘区本山中町2丁目5-27
TEL078-431-0897
営業時間 10:00~23:00(月曜~土曜)12:00~23:00(祝日)
定休日 日曜

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26杯目「かこも」

皆で囲んで楽しく飲む

かつて、「神戸ぶらり下町グルメ決定版」にて、「JR住吉駅前界隈、ラーメン店、カレー屋や魅惑的な立ち飲みが急増中で、平成21(2009)年6月8日に開店した”かこも”もそんな立ち飲み屋のひとつで、お洒落な店構えである。」と紹介してから10年ぶりに店の前に立つ。目の前にバス停があるのでバスを待つ人で行列ができているのはわかる。ところが、午後5時前にかこもの前にも人が並び始めたのには正直驚いた。人気の証と言えようか。

さて、店名の「かこも」の由来を店長の中嶋基晴さんに聞くと「皆で囲んでわいわいがやがやと楽しく」ということだそうだ。午後5時ちょうど、店のスタッフがワンコインサービスの看板を置くのを合図に、行列の常連さんが店に入る。入った順番で奥から詰めるのがルールのようだ。開店から10分経過したところでお客さんの人数を数えてみると若い男女や高齢者らが10人。その数分後には少し高めのカウンター席が満席となる繁盛振りである。

珍しい日本酒や焼酎の取り揃えに加えて、アテが充実している。例えば焼酎では天の刻印、龍宮、泰明、中々、銀の水、久保、兼八と言った具合。アテも、くみあげ豆腐や小芋のポテトサラダからクリームチーズとマグロの酒盗などが100円台から300円台と値段も創業時とあまり変わっていないようだ。

驚きは開店から午後6時半までのワンコインサービスだ。好きな飲み物、しかも銘柄は店に置いてあるものほとんどからチョイスでき、これにアテ三種が付く。原価を割ることもあるのではと心配してしまうが、これも店長中嶋さん流、客の心のつかみ方なのだろう。まずワンコインサービスから始めることにした。酒は生ビール。アテ三種もなかなかの内容だ。

カメラの福田さんが思案の末、日本酒発祥の地といわれる奈良にある今西家の”春鹿純米超辛口”の熱燗に”手羽元と大根の煮物”、”太刀魚と野菜の天ぷら”を追加した。するとスタッフの方が「天ぷらは少し時間がかかります」と丁寧に説明をしてくれた。安心して料理の到着を待つことができる心配りがいい。このスタッフの方、注文を順番に聞いてくれたり、席が空くと詰めてもらうようにしたりと動きがテキパキとして気持ちがいい。

手羽元と大根の煮物はよく煮込んであり、柔らかくて美味しい。天ぷらもうまい。福田さんは「レベルが高い」と唸った。

うまい料理に酒が進む。燗酒が”かんすけ”で提供されたことにいたく感動したのである。木枠の温かみが和やかな雰囲気を醸し出し、錫製のちろりで猪口に注いで飲むのは至福の極みである。さらに新潟県の真野鶴も味わった。

女性客の一人は「酒も料理も安くておいしい」と人気の秘密を明かしてくれた。また「日替わりメニューに当たるといいよ。ハモと松茸の土瓶蒸しは最高でした」と付け加えた。
その隣の男性客も「刺し身がおいしい。たとえ他の店と値段は同じでも鮮度がまったく違う」と絶賛した。いいものを安く提供したいと考える中嶋さんの思いが、見事にお客さんのハートを捉えているのだろう。

最後にいただいた料理はアンコウの肝で、酒は福田さんが黒木本店の芋焼酎”きろく”、筆者はレモンチューハイで〆たのだった。
ほろ酔い気分で周囲を見渡すと、女性客が随分と多いことに気が付く。どの顔にも笑顔があふれ、今宵も住吉の夜は更けてゆく。

大阪の北浜で5年前に”かこも北浜店”が開業していることを付記しておく。

「かこも」
神戸市東灘区住吉宮町4-4-1 KiLaLa住吉南側1階
TEL078-841-5576
営業時間 17:00~24:00(月曜~金曜)16:00~23:00(土曜)
定休日 日曜
ホームページはこちら

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25杯目「さかなでいっぱいプラス」

さかなと女性客がいっぱい

JR住吉駅の南側に魚が美味しい立ち飲み屋があると聞いて出掛けたのが昨日のように思い出される。17年前の平成14(2002)年に開店した店を切り盛りするのは、30年近く魚屋を経営していたオーナーの柳修一さんと若いオネエサンたちだ。
店名は柳さんがお世話になった居酒屋の女将さんが名付け親。「魚がいっぱい(沢山)」と「魚で一杯飲む」等の意味があるそうで、ネタは魚ばっかりの店だった。

初めて訪れたとき「7年前、しっかりした立ち飲み屋はなかったから、飲食系の立ち飲みの走りやったね」と、柳さんは振り返った。当時出版した「神戸ぶらり下町グルメ決定版」に登場していただいた。あれから10年、立ち飲み屋を取り巻く環境もネット環境も随分と変わった。

柳さんの店も2013年11月に住吉駅南の住吉南町から駅北側の住吉本町に移転し、店名の「さかなでいっぱい」に「プラス」を追加した。プラスにはテーブル席のプラス、メニューに鍋料理などをプラスの意味が込められているそうだ。移転後も基本は立ち飲みだった。店の外の看板に「立ち呑み処さかなでいっぱいプラス」が残っているのがその証であろう。

ところが、世の中は立ち飲みがメジャーになってしまい、本来の立ち飲み屋の姿でなくなってしまったという。典型的な住宅地である住吉。店に来られるお客さんの中には、立ち飲みではなく座って飲みたいというグループ客も目立ち始めた。そんな要望で3分の2くらいを立ち飲みにして、残りに椅子を入れた。しかしその後は立ち飲みと座って飲めるテーブル席の比率をめぐるせめぎ合いで、行きつ戻りつの試行錯誤の末に現在の形に落ち着いたと言う。つまり1人なら立ち飲みコーナーへ、グループならテーブル席へという具合である。

前置きが長くなってしまった。お客さんも来店し始めたので立ち飲みのカウンターに席を取った。とりあえずの生ビールで乾杯である。アテは”さかなでいっぱい”だから迷わず”おまかせ刺し身4種盛合せ”(580円)を注文した。福田さんが注文したカキなど4種入ったものも届いた。刺し身は大きく分厚く、プリプリ感も半端ない。値段も”さばきずし”(280円)、”キハダまぐろ刺し身”(380円)といった具合に200~300円台と安い。元魚屋としての誇りに違いない。

壁に目をやると、お店からのお願いが貼ってある。曰く、「お1人様ドリンク2杯以上のご注文をお願い致します」「混雑時は2時間以内でお願い致します」と。ごく当たり前のマナーと思えるが、昨今はSNSが普及して、どこの店でも料理の写真を撮ってネットに投稿するお客さんが少なくない。こうなると酒類をほとんど注文しないお客さんも当然のことながら増える。

酒のための料理、あるいは料理のための酒かも知れないが、酒と料理はバランスよく注文したいものである。ちなみに酒類は珍しい焼酎や季節ごとの地酒がある。ボトルキープもでき、名前を存じている蕎麦打ち名人でもある大学の先生の名前を見つけ、親近感を覚えたものだ。

生ビールが無くなったので角ハイボールと”たこ天ぷら”を追加した。天ぷらは自分で揚げるのは油の処理に困るし、高齢者には危険である。やはり店で食べる天ぷらは旨い。
そうこうしていると立ち飲みカウンター席も男女の別なく人が増え賑やかになってきた。立ち飲みの気安さでお隣の方に話を聞いてみると、こういう場所でなければ出会うことのない能楽師の方だった。能楽師と聞いて、近くにある凱風館の館長で思想家の内田樹さんの奥様もそうだったことを思い出した。そんな話もできたのは”袖振り合うも多生の縁”かと思う。

ただ昨今はSNSの影響により、店で隣り合ったご縁で友達になるケースが減り、店を飛び越えてSNSで知り合うことが多くなっていると聞く。どういうことになるかと言うと、あの人が来る店だからとリピートするのではなく、SNSで情報交換してあちこちと渡り歩くのである。ここと決めた店2、3軒に通ってもらいたいものだ。それが店の存続につながるはずだ。

カウンターからテーブル席を眺めると、若い男女7、8人のグループが集っていた。グループだと特典もあるそうだ。例えば土、日、祝限定で一人3300円以上の飲食で5%引き、さらにキャッシュレス支払いなら5%還元である。グループでなくとも火、木は3杯以上の注文で生ビール、焼酎、チューハイが何杯飲んでも100円引きである。なんともうれしいサービスであるが、みんなもっと酒を楽しもうという店主からのエールだと思う。

魚のことも書いておこう。活きのいい魚の仕入れ先は神戸市中央卸売市場だが、仕入れ具合によってその日のオススメメニューが決まるそうだ。メニューを見ながら注文していたが「毎日来られるお客さんもいるので、LINEで本日のオススメ情報を流しています」と柳さんがスマホの画面を見せてくれた。筆者はスマホが壊れてからガラケーしか持たないのだが、情報弱者であると思い知らされる。やはりスマホは持ったほうがいいのだろうか。

そんなことを思いながら日本酒も飲みたいなあと菊正宗の熱燗と鯖の箱寿司をもらった。気が合ったのかカメラの福田さんも菊正宗をチョイス。酒は利き酒に使う正一合のぐい呑みで出してくれたので一層味わい深かった。おいしい魚と酒、酔い夜を過ごすことができた。

最後に柳さんに一言をお願いしたら「肩肘張らず、店に合わせて楽しんでもらいたい」とのことである。
お読みいただきました皆様、一人でもグループでも、魚が美味しい”さかなでいっぱいプラス”にぜひ。そして気に入ればご贔屓に!

「さかなでいっぱいプラス」
神戸市東灘区住吉本町2-17-2
TEL078-854-3718
営業時間 17:00~23:30
定休日 無休

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24杯目「立ち呑み処まる」

元魚屋の店主が営む、魚が安くてうまい立ち飲み

神戸角打ち巡礼は今回で24杯目になります。順調に進んでいるように見える巡礼ですが、住宅地である東灘区に入ってから、その困難さが目立ってきました。「神戸立ち呑み八十八カ所巡礼」を出版してから11年、この間の酒屋を取り巻く環境の変化と店主やお客さんの高齢化が一層進んだということを思い知らされる日々であります。

どういうことかと言いますと、住宅地に多く見られるアテが乾き物か缶詰主体の角打ちには、ほとんどお客さんが来なくなりました。例えば魚崎の大木酒店や阪神住吉のアワノ商店が該当します。また青木の永田屋のように面識のある店主が亡くなり代替わりした店も取材そのものが難しくなっています。筆者とカメラの福田さんが、元気なら100店を目指そうと思っているところに暗雲が垂れ込め始めています。

悩んでいると、このコラムの読者であり、阪神電車公認パートナーブロガーである”ぱぱりんさん”から「阪神住吉駅前に元魚屋の店主が営む、ええ立ち飲み(*)がある」と教えていただき、今回の訪問となりました。有難いことで、渡りに舟とは、このようなことをいうのでしょう。

前置きが長くなりました。この「立ち呑み処まる」ですが、筆者が神戸ぶらり下町グルメでお食事処ことぶきを取材していた10年以上も前に発見して気になる存在ではありました。

現在、まるを経営する元魚屋の窪田雄大さんに話を聞きました。「18年ほどこの店を経営していた先代から、店を継いでくれないかと打診されたのです。でも50代になってからの飲食店経営なので不安はありました」と経緯を説明してくれました。店を引き継ぎ2018年12月18日に開店、ほぼ1年が経ちました。

窪田さんが店で提供する日本酒や定番メニューは先代のものをほぼ踏襲し、これに加えて元魚屋として仕入れルートがある魚メニューを充実させている。酒は白鶴と菊正宗のそれぞれのブランドに、ビールと焼酎その他チューハイやハイボールもある。気になる魚料理は本日のオススメに書いてあるが、刺身盛り合わせ6種、活けタコ3種盛りが480円とお値打ちだ。鳥取産松葉カニボイルハーフ2,400円と、立ち飲みなのかと疑うようなものもある。

ぱぱりんさんの友達も揃ったところでサッポロ赤星で乾杯。大ビンは500円とうれしい価格です。料理は本日のオススメから、まず刺身盛り合わせ6種をもらった。次いで活けタコ3種盛を追加した。ビールも進む。さらに播州産カキフライ450円とビールも追加しました。他にも注文しましたが失念しました。

ビールばかりお代わりしていたのですが、日本酒好きの福田さんが白鶴まるを注文した。この店の名前にもなっている”まる”(白鶴まるとは無関係と聞いたが)を初めて飲んだ福田さんは「昔の日本酒の味がする」と。

店主の窪田さんは言う。「元魚屋なので魚の目利きはあるし仕入れルートも確立している。でも料理人ではない」。料理に一抹の不安があるかのように語っていたが、この日味わったカキフライや出し巻き玉子はおいしかった。冬に欠かせないおでんもうまそうだった。料理が良いのに日本酒が2銘柄しかないのはもったいない。もうちょっと増やして欲しいと願う常連さんもおられるのではないだろうか。

店内はテーブルが2つにカウンターが3ヶ所あります。午後5時に開店しますが仕事帰りのサラリーマンですぐいっぱいになるようだ。先代の店では土曜定休にしていたが、それはもったいないと土曜日も午後5時から開けるようにしたそうである。

取材時は30分早めに開けていただいた。ところが我々より先に店に入るお客さんの姿を目撃してしまった。この日は30分早くから開くとどこかで知ったのかと思ったのだが、そうでもないようだ。このお客さん、開店を一刻も早くと待っていたのかも知れない。人気の証である。

窪田さんからはご苦労も聞きましたが割愛させていただき、お客様へのメッセージを最後にお伝えします。
「元魚屋としてお安く提供しお客さんに喜んでいただいてます。来店されたお客さんが他の人を紹介してくださるし、店に来られる客筋が良くてトラブルもありません。わずか1年の経験ですが、ありがたくて、うれしいですよ」と。この言葉の中に、元魚屋としての矜持がよく表れている。魚好きな方はぜひ足を運んでください。

なお、”まる”の隣で予約のみの魚屋、魚処将丸も営んでいることを付記しておきます。

(*)筆者注
「酒屋の一角で酒を飲む」と言うのが本来の角打ちの定義ですが、前にも説明したように、今回の「神戸角打ち巡礼」ではゆるく関西で言うところの立ち飲みも含めます。

「立ち呑み処まる」
神戸市東灘区住吉宮町1丁目6-11
TEL078-811-5517
営業時間 17:00~22:00
定休日 日曜、祝日

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23杯目「松屋酒店」

店主は元フレンチのシェフ

濱田屋から東へしばらく歩くと覚浄寺交差点に差し掛かる。長い間気がつかなかったのが不思議だが、魚崎郷を示す立派なモニュメントが見える。なんと筆者の知人である女性デザイナーの手によるものと、最近になってわかったのだが、平成10(1998)年7月に設置されたものだ。

銘板には「魚崎まちなみ委員会」の名前で”このまち”に誇りを持って次代に引き継げるよう魚崎郷地区・景観形成市民協定締結の意義について書かれている。歴史ある酒蔵の町と住宅地である”わが町”への愛があふれているモニュメントだ。

さて覚浄寺交差点の信号を北に渡ると松屋酒店が目の前に現れる。昭和45(1970)年の創業で、二代目店主の澤田真琴さんが震災後に父親から受け継いだ。店内の様子は「神戸立ち呑み八十八カ所巡礼」取材時のままのようだが、釣りを楽しむ店主の写真や日本地図は増えたメニューに取って代わられたようだ。

今回は開店と同時に店に入ったので、まだ他のお客さんの姿はなく、面白い話が聞けた。なんと松屋が創業した日に来店した方が、ご高齢になった現在も毎日来られるそうだ。ほどなく48年も通う常連さんが現れた。ご近所にお住まいでうまい酒と料理が迎えてくれる店があれば自然とそうなったのだろう。
「店主がこんなに小さかった頃から見守ってますねん」とご常連さんは目を細めた。
まず小ビールで喉を潤し、日本酒2杯と料理で〆るのを日課とされている。松屋酒店の良さを語る上でこれ以上の話はあるまい。

久しぶりに澤田さんとの会話を楽しみながら、まず人気の瓶ビール赤星をもらった。アテは目の前に見える”里いもと手羽元の煮物”この季節では珍しい”竹の子”をチョイス。外は寒いけれど冷たいビールが喉を通るときの心地良さは格別だ。

創業以来通う常連さんが入店してから続々と仕事帰りらしいお客さんが来られ、あっと言う間に満員になり、店は一段と賑わいを見せた。

酒屋だから酒は売るほどにあり、壁におすすめの酒が書いてある。灘の酒はもちろんだが、地方の銘酒も置いている。一例を挙げると道灌純米一つ火、道灌絞りたて生酒、道灌特別純米無濾過生原酒、道灌純米灘の生一本、道灌活性にごり酒、雪彦山純米生原酒、桜正宗純米焼稀と言った具合だ。そこで、筆者は道灌の純米酒、カメラの福田さんが”にごり酒”を注文すると、酒器に入った酒とガラス製の猪口が出された。ガラス製の猪口は涼しげで、いい味わいの冷酒だ。

松屋酒店のもっとも松屋らしいのは、フランス料理出身の店主の造るアテだろう。ある日のホワイトボードには、釣り好き店主自ら釣ってきた淡路は岩屋沖の天然真鯛の造り、本マグロ幼魚のタタキ、毛ガニ、イタヤ貝柱などの魚貝類、荒びきソーセージ、若鶏ハート串焼き、宇和島じゃこ天があるかと思えば、意外なことにトコロテンがあったりする。

「毎日来られるお客さんが多いので、料理は2日に1回は変えるようにしています」と店主澤田さんは事も無げに話す。料理とお客さんへの愛が感じられる言葉である。

この日は徳島産天然カンパチの造り、生ホタテ貝柱造り、サワラの自家製スモーク、カキの湯引き等があったので、カンパチ造りを注文した。さらにカキの湯引きを追加。日本酒も追加(筆者は奥丹波純米、福田さんは雪彦山純米酒か)したが記憶があやしくなっているので間違いがあるかも。

新鮮な素材を使って、注文を聞いてから料理するとなればうまいに決まっている。これらのアテとおいしい酒を求めて連日、仕事帰りの常連さんでダーク状態の人気店である。常連さんの中には、剣菱や桜正宗などの蔵元の杜氏の方がおられたりするのは、灘五郷・御影郷のお膝元たる所以だろう。

松屋酒店は立ち飲みだけではなく、店の奥に座敷があり4名以上でコース料理が楽しめる。立ち飲みとは違った料理を楽しめるのも人気の秘密。取材した日も、予約客がカウンター横の通路から奥座敷へ吸い込まれていった。気になる予約状況は残念ながら半年以上先まで詰まっているとのこと。

最後に澤田さんから「いいお客様ばかりで、和気あいあいとして、ありがたいです」とメッセージをいただいた。いい店主といいお客さん、このコラムを読んでくれたあなたもぜひ松屋酒店に足を運んでみてください。何かいい事があるかも知れない。

かつて、ある常連さんが松屋酒店、大木酒店、濱田屋の3店を「魚崎のトライアングル立ち飲み」と呼んでいた。時は過ぎ、大木酒店の現在を記しておく。店主は87歳になった。今も仕事帰りの時間帯だけ店を開けているが「いつ止めるかもわからん」とのことである。

「松屋酒店」
神戸市東灘区魚崎南町8丁目1-17
TEL078-441-4820
営業時間
17:00~22:00
ラストオーダー21:45
定休日 日曜

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22杯目「濱田屋」

アルコール研究所がある老舗酒屋

濱田屋は酒蔵の町「魚崎」の玄関口、阪神魚崎駅にある。今回、数年ぶりに訪ねた。現在の店主が四代目であるから創業百年は優に超えていると思われるが、店主の濱田栄司さんに聞いても正確なところはわからなかった。

濱田屋が震災前に扱っていた酒に、灘で最も小さい蔵である菊千歳があった。小さいながらも独特のうまい地酒の作り手だった。惜しいことに震災で全壊し再建はならなかった。

震災を機に、濱田屋の主力の酒は大黒正宗になった。濃い目の酒ではあるが、蔵元が大量生産から手造り少量生産に転換して造っている酒で、とてもおいしい。濱田屋では大黒正宗を始め、泉酒造、灘千代田蔵、神戸酒心館、浜福鶴など灘の酒を中心に、もちろんワインも豊富に扱っている。

濱田屋の一角に、近くの常連さんによく知られた濱田アルコール研究所と名づけられた別室がある。しかもこちらのコーナーは喫煙可で、筆者も何度か利用させてもらった。濱田屋のうれしいところは、小売価格で購入した酒を店内でいただけるシステムを採っていること、もちろんボトルでもOK。

筆者らも生ビールとアテ(厚揚げ、サラダ)を買って濱田アルコール研究所に入った。この日は予約が入っているので束の間だけ利用させてもらった。

濱田アルコール研究所に入ると「濱田アルコール研究所 四規則」と書いた掟がある。
 曰く
 一、コップ食器類は返却棚(入口横)に返却すべし
 二、研究終了後はきれいにかたづけて帰るべし
 三、大声、奇声は慎み、静かに研究すべし
 四、喧嘩したる者百年間出入りを禁ず
この規則は、すべての立ち飲みの店に共通するものである。

予約客が来店されたので、濱田アルコール研究所の西棟の一部を模様替えした”みみずくホール”に移動することにした。こちらは丸いテーブルと矩形のテーブルに加え椅子が入っており、しかも禁煙だ。よって基本は座って飲むコミュニティーサロンのようなものだろうか。

かつて濱田さんに聞いたことがある。「最近はグループで1本買いをして研究される方も多いので、このような形にしました。またグループ研究の予約も受け付けます。月水金は魚をメインに、火木は焼き鳥をメインに研究できます」と濱田さん。
「大吟醸や高価なワインも割り勘で研究すれば安く上がりますし、種類も楽しめます。ワイングラスもテイスティングに適したものに変更、希望があれば、さらに良いワイングラスをレンタルする事を検討しています」と付け加えた。(現在、研究できるテーマ等が変更になっているかも知れないのでお店で確認願います。)

”みみずくホール”に移動したものの飲み物もアテも無くなっていたので、レジカウンターまで行き調達した。筆者は大黒正宗と酒蔵パン、カメラの福田さんも酒は大黒正宗、アテはジャガイモ、人参、肉を煮たもの(ひょっとして肉ジャガかも)、そして飛び入り参加してくれた友人は仙介のSHIROKOJIという日本酒と豪華な刺身だ。フルーティーな日本酒とともに、海外への輸出や女性ファンが増加しているのは喜ばしい。

ところでレジカウンターから”みみずくホール”までは距離があるので、グラスにぎりぎり酒を入れるとこぼす恐れがある。これは濱田屋に来る回数を増やして訓練するしかないなあ。

さて、この日もグループで来られたお客さんで、あっと言う間に”みみずくホール”が満席になった。はるばるやって来たのに満席だったら大変だ。そこはITに詳しい濱田さんのこと、スマホからアクセスできる”みみずくナビ”なるものを開発してインターネット上に設置した。空き状態の検索ができる優れものだ。濱田屋に来る際にはぜひ活用して欲しいが、電話で事前予約が手っ取り早いか。

酒屋を取り巻く環境が厳しい現在、何か取り組んでいることがあるのではないかと聞いてみた。
「酒ごとのキャッチコピーを考えて陳列棚に貼っています。試飲もできますので、購入の際の指針にしていただくといいですね。また酒蔵の方を招いての濱田屋シンポジウム開催や、利き酒講習会もやっています」とのこと。

最後にお客さんへの一言をお願いしたら「兵庫県にはおいしい酒がたくさんあります。それを知って飲んでもらいたくて、店をしています」と希望に満ちたメッセージが返ってきた。
濱田さんは随分前から飲酒主義共和国(会員制)を主宰し、花見大会やバーベキュー大会、音楽祭、忘年大会、もちつき大会などなど積極的に開催している。濱田屋に行けば、何か面白いことに出会うに違いない。

「濱田屋」
神戸市東灘区魚崎南町4丁目15-13
TEL078-441-1101
営業時間
10:00~21:00
祝日 13:00~19:00
定休日 日曜
HPはこちら

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21杯目「御影旨水館 立呑み処 銀狐」

阪神御影駅前の立ち飲み御三家のひとつ

阪神御影駅界隈は、かつては串かつ屋台「いくちゃん」や「ライオン堂」、「大黒」、駅南の角打ち「美よ志」と味のある飲み処が少なくなかった。「いくちゃん」が店を畳んだ現在、2012年8月創業と歴史こそ最も浅いが、御影市場の旨水館内にある「立呑み処 銀狐」と「ライオン堂」、「美よ志」が立ち飲みの御三家ではないかと筆者はひそかに思っている。

今回はこの銀狐に開店時間の午後4時半に訪問させてもらった。銀狐とはどのような立ち飲みなのか、店のホームページを引用させてもらうと
《毎日が昼網。和食の板前とフレンチのシェフの美味しい競演。灘の御影郷と魚崎郷の日本酒とワインから海外ビールまで様々なジャンルのお酒。活きの良いお魚を揃えて美味しいお酒を飲みながら旨い和食と創作料理を楽しんでいただける「たちのみ」を目指していきますのでどうぞよろしくお願いします》
と言うことだ。

JR住吉駅前でカフェとバーも経営しているオーナーの寺島信子さんに、立ち飲みの店を開いた動機を聞いてみた。 「市場に立ち飲みがあれば、大人には面白い場所になるのではないかと思ったんです。市場に近い人たちが気軽にハシゴ酒をしたり、立ち飲み文化に触れたりして楽しむことができるのではないか」との思いからだと言う。

開店から一時間半まで注文できるワンコインサービス(ビール、樽ハイ、ハイボール、グラスワイン、焼酎・日本酒の一部、ソフトドリンクの中から一杯と、おまかせ三種)で、まずは乾杯することにした。今回は盛り上げるために駆け付けてくれた友人と寺島さんも一緒にテーブルを囲んで賑やかなスタートである。
多少寒くなったとは言え、冷たい生ビールはうまい。おまかせ三種には刺身も付いて、いい塩梅だ。

時間の経過とともにお客さんも増え始める。年齢層は若い人から年配の方まで幅広く、立ち飲み初心者や女性客が入りやすい雰囲気を醸して出している。実際、女子会にもよく利用されると聞く。閉店時間が遅いので、残業があるような日でも立ち寄ることができる利便性もある。

隣のテーブル席の女性二人連れに銀狐の魅力を聞いた。「おいしい、安い、酒の種類が多い。そして高齢になっていても来やすい」と絶賛した。銀狐はお洒落な佇まいの立ち飲みなので、若い人向けと思われがちだが、かつて若者だった人も来やすいというのは、とても重要な意味を持っている。

友人が来てくれたのでビールが進む。もう3杯はお代わりしただろうか。和食の板前さんとフレンチのシェフが腕を競うおいしいアテを追加しよう。刺身三種盛り、アボカドスライス、鯛のカルパッチョと立て続けに注文、どれもおいしい。

和食の板前さんとフレンチのシェフにも話を伺った。「酒が主役。難しいものは避けて皆さんがよく知っているメニューをお出しするように心掛けています。おいしいと言ってもらえると、やはりうれしいですね」と二人は口を揃えた。

地元の酒を取り揃えている銀狐で日本酒を飲まない手はない。筆者は仙介を、友人は道灌のにごり酒を追加した。カメラの福田さんは写真撮影に忙しいが、ちゃんと酒は楽しめただろうか。
時間もかなり経過し、お客さんも随分と多くなった。そして酔いも回ってきた。無事に帰宅できるか心配でもある。

最後に寺島さんにお客さんへのメッセージを頂戴した。「御影郷、魚崎郷のお酒をぜひ楽しんでいただきたいし、お酒が飲めなくても料理を楽しんで欲しい。ここで知り合った飲み友達と、よその店に行ってもいいんです。銀狐がその中の1軒になれば」と話す。

自分の店だけが繁盛すればいいなんてけちなことを言わない。これも銀狐の魅力の一つだろう。この姿勢は店内や近隣のお店と一緒に行うイベントにもよく現れている。訪問したときは第5回御影バルの直前だったが、寺島さんはそのイベントの実行委員長の大役もこなして多忙な毎日だった。お客さんや同業者からの信頼が厚いことの証と思われるが、益々の繁盛を祈って止まない。

来週からは魚崎郷のある阪神魚崎駅周辺に移動する。これからも乞うご期待!

「御影旨水館 立呑み処 銀狐」
神戸市東灘区御影本町4丁目12-17 御影市場 旨水館内
TEL078-855-7727
営業時間
月曜~土曜 16:30-23:30 (L.O 23:00)
日曜 15:00-22:00 (L.O 21:30)
定休日 なし

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20杯目「美よ志」

立ち飲みの提灯が呼んでいる

阪神御影駅の南、すぐの信号を渡ると、多角経営で知られる酒屋の三好商店がある。もともと酒屋の2階で立ち飲みを永らくやっていたが、お母さんが階段で転んでけがをしたことが契機となって一旦閉めたと聞いた。
ところが馴染み客の再開の声が届いたのか、場所を1階に移して、立ち飲み「美よ志」を再開したのが、2006年のことである。

ソムリエや唎(きき)酒師、焼酎アドバイザーの資格を持つ三好成和社長は、「美よ志」を軌道に乗せた後、2階にバー・タルタルーガをオープンさせた。そして2店目の立ち飲み処を阪急六甲駅前に開店し、その名も「粋酔(すいすい)」と粋な名前を付けた。時は過ぎ、バー・タルタルーガと粋酔は自らの手を離れたようだ。

と言うわけで現在は、ここ阪神御影にある「美よ志」一筋である。今回、何年ぶりかで訪問させてもらったのだが、街も店も人も静かに移ろうのがわかる。かつての角打ちは、木の香りが残る良い雰囲気を醸し出しており、酒売り場とは別で7、8人も入ればいっぱいだった。

今回の訪問で気がついたのは、酒売り場に広めのテーブルが二つ置かれ、立ち飲みスペースができていたことである。まだ午後4時過ぎなのに、お客さんも増えてきたので冷蔵庫の上をカウンター代わりにして、まずは瓶ビールをもらって三好社長から話を聞いた。
酒売り場に立ち飲みスペースを設けたのは3年前のことで、従来の角打ち部分は喫煙可、こちらのテーブルのあるスペースは禁煙にしているそうだ。前者は1人で来られる高齢者が多く、店のお母さん方との会話も楽しんでいる。一方、後者はグループのお客さんや女性客で、おのずとすみ分けができているようだ。

店内には蔵元の看板やレトロなポスターが数多く掲げられているので、三好商店の創業はかなり古いことは分かっていた。今回改めて聞いてみると、古い書類綴りを引っ張り出していただき「大正10年」と判明した。この年は和田岬の木下酒店の創業と同じで、あと2年で百年を迎えることになる。

従来の角打ちスペースはキャシュオンデリバリーであるが、テーブル席の方は、後でまとめて支払えばいいとのこと。注文もお母さんが取りに来てくれるので利便性もいい。そこでよく出るという”鯖のいしる焼き”をオーダーした。しばらくして焼きあがったものが運ばれてきた。「ご飯か日本酒が欲しくなりますよ」と三好社長。確かにそんな味で美味しい。

日本酒と言えば常温または燗酒に適した灘の酒のほか、全国の冷酒を揃えているのが美よ志の強み。冷蔵庫の上のカウンター越しにウィスキーの名品が並んでいる。バーに卸しているうちにこの状態になったとか。角打ちは酒を量り売りと相場が決まっていたが、なんとボトルは別途料金を払うと、その場で飲めるとか。グループで来たときに重宝できるなあ。

酒売り場に馴染んできたが、今度は”おっちゃんたち”の憩いの場に移動することにする。こちらはメニューが壁に貼ってあるので見やすい。メニューの多さに圧倒されるが、どれも美味しそうで、しかも安い。60円のベビーチーズから高い刺身でもせいぜい400円台、中心は2、300円台とうれしい。

ビールの次は日本酒ということでカメラの福田さんは辛丹波、筆者は桜正宗を常温で飲むことにする。肴は目の前のガラスケースの中にある”きびなごの刺身”を選んだ。日本酒に刺身、ベストチョイスと思う。

福田さんが撮影で忙しくしている間に筆者はハイボールと牛ミンチオムレツを追加。オムレツなどは注文の都度、お母さんたちが調理してくれるので熱々でうまい。

朝から大阪の西成まで飲みに行っていた常連さんに美よ志の魅力を聞いてみた。「1番目は酒の品揃えがいい。2番目は安い。3番目はお母さんたち」と絶賛した。狭い空間だが、ええ味わい。お母さん達の顔も、いい味わいですばらしい。

 筆者「いつから勤めていますか」
 常連「100年前から」
 筆者「お化け?」
 お母さん「そう、かわいいお化けよ」
 こういう何気ない会話のキャッチボールも店の味、魅力なのだろう。

別の常連さんに立ち飲みを見つける秘訣を聞いたところ、食べログやブログではなくYouTubeだった。中畑商店でも同じことを聞いたが、YouTubeに立ち飲みのスターがいるとのこと。これはしっかりメモしておこう。
筆者はレモンサワー、福田さんは桜正宗の朱稀を追加し、最後に具沢山とん汁も。安いのでよく食べ、よく飲みました。

酒屋だから酒は売るほど、何でもある。ワインはもちろん、ホッピーやハイボールもある。近くには灘五郷の御影郷があるので、仕事帰りの蔵元の方と出会うことがあるかも知れない。
最後に三好社長に立ち飲みへの思いを聞くと「お安く飲んでいただき、喜んでいただけるのが一番うれしい」とのこと。さあ、”立ち飲みの提灯”を目指して阪神御影に行こう。

「美よ志」
神戸市東灘区御影本町2丁目15-18
TEL078-851-6581
営業時間 15:00~20:00
定休日 日曜、祝日

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19杯目「立ち呑み家ライオン堂」

店主は元パティシエ、料理も酒も豊富で安い

ほろ酔いと言うより、すっかり酔っ払って榊山商店を出て次の店に向かう。駅前に行くつもりが逆の方に歩いていて途中で気がついた。やっぱり酔っている。向かうべきは駅前の立ち呑み家ライオン堂である。

神戸市内で今でもブレイクしている立ち飲みスタイルの店を挙げるとすれば、阪神御影駅前の立ち呑み家ライオン堂をおいて他にはないだろう。創業は平成18(2006)年5月。おしゃれ立ち飲みの元祖的存在で、早いもので12年目になる。店主の山口誠さんがイタリアン、パティシエ、バーテンダーを経て、この店を開いたのがつい昨日のように思われる。

ある日、寄ってみるとアイリッシュパブ風な佇まいのカウンターを三重に取り巻くお客さんで沸き返っていた。幸い少し早めに着いていた友人が席を確保してくれていたおかげで事なきを得た。何年ぶりかの午後5時半ころに寄ったこの日も、すでに満席状態であった。
左手の奥、女性2人連れの手前に席を取り、まずはワンコインセットを注文した。好きな飲み物にアテがつく。迷わず生ビールを選んだ。アテはにぎり寿しと串揚げ、うまい。

かつて、山口さんに立ち飲み屋を出した理由を聞いたことがある。「もともと、こういう店を出したかったんです。お客さんとの距離が近いのが一番です」ということだった。だが今は、その近い距離感なのに、オープンキッチンで忙しい山口さんと話をすることはほとんど不可能になってしまった。

このようにライオン堂は、和気あいあいと酒を楽しむお客さんでダーク状態(*)に陥っている。
メディアに頻繁に出ているが、最近は全国誌で紹介されることも増えた。また飲食業を営む店主さんらが様子伺いで、こっそりのぞきに来るなど話題は尽きない。

ワンコインセットが空になったのでトマトチューハイとハマチ造り(190円)を追加した。カメラの福田さんはハイボールだ。

ライオン名物のキングサイズビフテキ(390円)ももらった。柔らかくておいしいステーキである。300円台でステーキが食べられることに幸せを感じざるを得ない。

その後、福田さんが飲んでいたハイボールを注文した。一口飲んでみると他のハイボールと違って濃くてうまい。その理由を聞くと「ウィスキーをガッツリ楽しんでもらいたいから」と山口さん。ああ、よく飲んだなあ。たまにはいいか(笑)。

これだけの集客力のあるライオン堂の魅力は何なのだろう。午後6時までのワンコインサービス、加えて100円台からある安くておいしい肴の数々、蔵元が近くにある立地条件からくる日本酒、焼酎、ワインの品揃えの良さ、洒落れた雰囲気。こういったものが相乗効果を生んで、老いも若きも、さらには女性客をも虜にするのだろうか。社会学の研究対象にすると面白いかも。

この日は若干男性客が多かったが、女性スタッフが迎えてくれるしゃれた立ち飲みなので、女性客も安心して入れて、立ち飲みデビューに最適の店である。前述のように立ち飲み処が多い場所柄「あら、先ほどは・・・」という場面に遭遇することも少なくない阪神御影界隈である。筆者の近所にも欲しい店の数々だ。

※筆者注「ダーク状態」
並んだ客がカウンターに対して身体を斜めにして立つこと。客のその形が一世を風靡した男性コーラスグループ「ダーク・ダックス」に似ていることから言う。

「立ち呑み家ライオン堂」
神戸市東灘区御影中町1-6-3
TEL:078-842-3229
営業時間 17:00~23:30
定休日 日曜

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18杯目「榊山商店」

櫻正宗の看板が燦然と輝く

日本を代表する酒どころの灘五郷、その一つである御影郷がある阪神御影駅に数年ぶりで降り立った。改札を出て南方面を見渡すと灘の酒蔵の案内図が見える。案内図の上に「こちらの地図看板は2019年8月31日(土)に新しい地図データに差し替えます。灘の酒蔵活性化プロジェクト実行委員会」の張り紙があるがまだ更新されていないようだ。

さて阪神御影駅の界隈は、美よ志、大黒、ライオン堂などの立ち飲み処がひしめくことで有名だ。駅の北側に出ると御影の風物詩”いくちゃん”の串かつ屋台が見えたものだ。その”いくちゃん”が五十余年の営業を終えて1年以上が経過し、駅前に寂しさが漂っているように思えるのは筆者だけだろうか。

その阪神御影駅の北側の高架下に沿って東にしばらく歩く。突き当りで左手の信号を渡ると榊山商店がある。商店と名が付く店に立ち飲みの名店が少なくないが、榊山商店は元々、米屋だった。

店内に入ると燦然と輝く桜正宗の看板が目に付く。この看板は、酒樽がレリーフになったものでお見事、文化財級である。看板の下に昭和七年という文字が見える。創業年はわからないが、昭和よりずっと前、おそらく大正からの営業と見てとれる。また「男は元来ご飯好き」という古いポスターにも目がゆく。酒屋の前に米屋だった証であろう。

店主の上野晃さんは三代目で、初めてのお客にもやさしい。熱燗は福寿、アテは乾き物と缶詰と由緒正しき角打ちである。もちろん神戸ならではのコンビーフの缶詰や6Pチーズ、トコロテン、玉子豆腐なども安い。プラカップ入りのつまみもある。

レジカウンターのほか、事務所の小型スチールテーブルを利用したと思える小さなテーブルが5つか6つあり、椅子もある。前置きが長くなってしまったが、とりあえずビールはやめて、たまには高いタカラCANチューハイとウインナーソーセージをもらった。

カメラの福田さんも奮発して白鶴生貯蔵酒と鯨の大和煮の缶詰だ。それぞれが違うものを注文して乾杯。

最初に訪問した日は雨だったが、この日も雨が降りそうな天気である。震災前やその後もしばらくは店が一杯になるほど多くの常連さんが集まった。ところが震災で中小の企業が廃業したことが大きく響く。高齢化による客の自然減に加え若い人が酒を飲まなくなったこともお客さんが少なくなった理由という。これはどこの角打ちも抱えている悩みである。解決策がすぐ見つかるほど事は簡単ではない。

懐かしい雰囲気の店に出会える機会を提供し、あるいは立ち飲みを知らない方、入ったことがない方には角打ちの楽しみを知ってもらいたい。そして他の誰かに、メッセージを伝えて欲しいと始めたこの角打ち巡礼の企画が少しでも酒屋の賑わいに役立って欲しい。今回の榊山商店訪問で、その思いはいっそう強くなった。

かつては自転車で通う立ち飲みの達人や遠く垂水から立ち寄るお客さんもおられた。雨が降りそうな気配であるが、徐々にお客さんが増えて「酒屋の立ち飲みは九州では角打ちと言いますねん」などと話が弾んだ。チューハイも空いたので福寿の燗酒を追加し、エイのヒレを炙ってもらった。福田さんはキリン氷結を注文したようだが、酔いがまわり記憶があやしくなる。

ご主人も女将さんも気さくで、初めて訪れた10数年前には「櫻正宗のすばらしい看板の写真を撮りたい」との希望を聞いてくれましたね。

五つ玉の算盤があって、裏を見れば桜正宗の刻印、明石の赤松酒店でも見ました。ご主人に著書を見せながら話していると、常連さんが、その本を持ってますと。それがきっかけとなって元町にあった焼き鳥の名店・一平、明石の立ち飲み・たなか屋や三国酒店など共通の店の話題で楽しい話に花が咲きました。しかも、元町の立ち飲み「凡太呂」さんの常連さんの名が挙がったときにはびっくり仰天でした。

角打ちは人との出会いが待っている。店主や偶然隣り合わせたお客さんとの会話が楽しい。おごりもへつらいも不要で、話すのが楽しいから話すのである。他にも地域との出会いもある。昭和の雰囲気をたっぷり残した店内で、店主に店やその地域の歴史など、よもやま話を聞きながら飲む酒は格別である。

「榊山商店」
神戸市東灘区住吉宮町6丁目4-1
TEL:078-851-3834
営業時間 9:00~20:00
定休日 日曜、但し祝日は営業

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