9杯目「西脇商店」

角打ちの原風景

原酒店を出て、もう1軒、大開通にある西脇商店に寄ることにする。JR兵庫駅から北へ、あるいは神戸高速大開駅から南に下ると角打ちの原点と呼ぶにふさわしい西脇商店がある。後述の理由により看板がないので通りすぎるかも知れない。

初めて訪れたのは一昔前のこと、まだ朝も早い午前9時前だった。
この時間に立ち飲みができるとは、うれしいものがある。美人の女将さんと娘さんが快く向かえてくれた。燗酒と雲丹くらげをもらい、ゆっくりと味わいながら店のことを伺った。

「祖父が20歳の時に西脇から出てきて酒屋を開きました。99歳で亡くなって13年経ちます」と女将さん。逆算すると103年ほど前の大正5年ころ創業の老舗ということになる。
筆者はずっと西脇出身の西脇さんだと思っていたのだが、今回訪問してみて娘さんから兵庫県揖保郡龍野町(現たつの市)と改めて聞き、ここに失礼をお詫びする次第である。

初めての訪問時の続きになるが「昔は大工さんなどの親方が職人さんを連れてこられ、この広い店が、それはそれは賑やかでした。車も店の前に停められましたから」と女将さんは懐かしんだ。

店内はカウンターの他に、いくつかのテーブルがあり十分広く、「飲むほどにDRY辛口、生。」のアサヒビールポスターを見るにつけ、昭和の香りがまだ残っていた。アテは乾き物か練り物が主体ではあるが、立ち飲み価格表には、ビール、ウィスキー、焼酎、ワインときめ細かく書かれており、店主の律義さが滲み出ている。十余年を経た今も、お互い歳を重ねた以外は何も変わってはいない。

他店と同様に、焼酎のお湯割りや水割り、缶ビール、発泡酒はよく出るが日本酒は65歳以上の人しか飲まないのでさっぱりだと言う。しかしながら昔は、姫路の龍力や山崎町の山陽盃を売っていたそうだ。たつの市は姫路や山崎に近いから、初代は西脇ではなく揖保郡龍野町出身と確定できる。地図を貼っている角打ちが多く、地理や歴史が学べるのも角打ちの良さと変に納得できるのである。

今回、ここでもビールをもらったが、日本酒(銘柄不詳)を追加した。歳のせいか、酔いが回るのが極めて早いと実感。ほどほどに。
いつ店をたたむかわからないからと、リカーショップと書いた看板を2008年4月に取り外したと聞いていたが11年後の今も変わらず営業していて、その有難さに涙する常連さんもいよう。

朝の早くから夜遅くまで開けてくれる西脇商店には、仕事帰りの方の他、近所の常連さんが多いように思う。そのような人にとって異業種交流の場として無くてはならない存在のはずである。

「お母さんは商売熱心で、寝てても店のこと心配するんです。店があったから、それが元気の素になっているんです」と娘さんが言う。これを励みに、少しでも永く営業を続けて欲しいと願う。今度は朝の時間に来て、久しぶりに女将さんと話がしたい。

「西脇商店」
神戸市兵庫区大開通8丁目1-24
TEL 078-575-2790
営業時間 9:00~12:00 16:00~20:00 (土曜日は16:00~16:30)
定休日 日曜、祝日、正月、お盆休

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