14杯目「立呑み赤ひげ本店」

ゴリラのモニュメントが目印

湊川公園から新開地商店街に入り上崎書店などを眺めながら下って行きます。途中、中島らも+小堀純著「せんべろ探偵が行く」(集英社文庫)に掲載されている赤ひげ姉妹店の前に出る。この店は“座り”なので今日の目的の店ではない。やがて広い道路(多聞通)に出て信号が青になったので渡ると、立呑み赤ひげ本店がある。

壁にゴリラが登っているようなモニュメントがあるので目立っているはずだ。角打ちの定義からは外れるが関西で言うところの立ち飲みも、今回の巡礼では扱うことにする。
店をオープンしたのは18年前の平成13(2001)年秋のことである。以来「地域で一番安くて、おいしいものを提供する」をモットーに頑張っている店である。

赤ひげの店名の由来がわからなかったので、店長の森上丈一さんに聞いてみたことがある。「亡くなった先代の社長が付けたのですが、作家山本周五郎の青ひげをもじったのではないでしょうか。黒ひげというのもありますし」ということで長年の疑問が氷解したはずだった。今回、改めて調べたところ(店長には申し訳ないが)山本周五郎の作品にずばり「赤ひげ診療譚」がある。どうやらこの作品から名付けたのではないだろうか。

さて、立呑み赤ひげ本店と言えば串カツの店と思っていたが、それは先入観だった。
「人気の秘密は一番に刺身やね。それからべっぴんのスタッフが3人もおることかな」と店長は胸を張った。「べっぴんさん」と言う店長の声が常連さんの耳にも届き、常連さんがすかさず「べっぴんさんおらんようになったら、この店も終わりや」と応酬するのが、なんともおかしい。

メニューを見れば、一串60円からの串カツはもちろんあるが、100円台からの刺身、焼き鳥、冷奴、枝豆、ポテトサラダ、だし巻きなど居酒屋メニューがオンパレードである。しかも安いなあ。

店長イチオシのタイのつくり(250円)、マグロぶつ切(350円)に瓶ビールをもらって飲み始めた。(前の店を含めて)40年通っている常連さんが「安い、うまい。店長にも会いたいから来る」と言うのに偽りはなかった。

次はやはり串カツが食べたいので盛り合わせをもらった。なんと340円とびっくり価格、しかも11年前と同じ値段。壷に入ったソースに漬けるのであるが、もちろん二度漬け禁止はお約束である。味は看板通りで、揚げたては美味しい。ビールとよく合う。ビールの次に麦焼酎の水割りももらったなあ。

途切れなくお客さんがやって来る。「いつものビール?」と店長は声をかける。聞けば常連さんの150人くらいは最初の酒がわかるとのことである。恐れ入りました。
ガラスケースの中は、毎日来るお客さんもおられるのでと、少しずつ品を変えているそうで、こう言う心使いも魅力の一つなのだろう。

店長から「ゴリラの顔見てみる?」と店の3階に案内してもらった。ゴリラのコンタ君と初対面、立呑み赤ひげ本店がオープンする前からいるらしい。ちなみに赤ひげ関係者以外に見せるのは今回が初めてのことで光栄だった。1階に下りてから、焼き鳥盛合せ(280円)、ムール貝(190円)やチューハイ(240円)などを追加。いくら飲み食いしたのかもう記憶の外であった。やはり安くて旨いせんべろ酒場となれば仕方ないですね。

店をやっていて嬉しかったことはと問うと、「客層が良くて、いいお客さんに恵まれています」と店長の顔がほころんだ。まさに店長やスタッフも明るい方ばかりで、本当にオススメのB面の街・新開地の立ち飲み処だ。そう感じる理由は、別の常連さんが教えてくれた。「わしは食べたことないけど、賄いが凄いで」の、”まかない”にもあるのかも知れない。地域一番の安い店をいつまでも続けて欲しい。

(筆者注)レコードの表面(A面)にヒット曲が収められているのに対して裏面(B面)は付けたしであった。このレコードの表裏の関係になぞえて、B面の神戸こそ味わい深いもので本当の神戸がある。

「立呑み赤ひげ本店」
神戸市兵庫区新開地3丁目4-17
TEL:078-577-4429
営業時間 11:00~23:00
月曜休(祝日の場合は営業、翌日休)

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