第14回 サンテレビボックス席ディレクターの裏側は?⑩ ~中継車ディレクターのお仕事~

2016年6月18日、甲子園球場でのタイガース対ホークス、デーゲームの試合が私の『サンテレビボックス席』中継車ディレクター(以下中継車D)としてのデビュー戦でした。スポーツ部へ異動となって3年目のことです。それまで100試合以上本社DやFDを担当して中継車Dの声もインカムを通じて聞いており、中継の流れも分かっているつもりでした。もちろん先輩ディレクターからもアドバイスをいただいておりましたが、当日の試合前には「どうしたらいいんやったっけ?」とか「できるんかな…。」とか緊張から来るネガティブな思考だらけだったのを覚えています。

それだけ中継車Dの責任というのは大きいわけです。視聴者の方々がご覧になる映像はすべて中継車Dとスイッチャーの責任で選んで映っていますし、カメラマンが何を映すのか、というのも中継車Dの指針によって撮って下さっています。どのタイミングでCMへ行くのか、いつ効果的なリプレイVTRを出すのか、いつ中継を終わらせるのか、などすべてディレクターの裁量です。

「ディレクター(director)」というのは「管理者」や「監督」など指導者を意味する言葉です。その語源は「ディレクション(direction)」からくるのですが、「方向」を意味するこの言葉、まさに「番組を方向づける」役割がディレクターには求められるのです。

先輩ディレクターから『サンテレビボックス席』の中継車Dをするにあたっては、以下の原則を教えていただきました。

①スコアブックを書ける中継を!

プレーボールからゲームセットまで中継する『サンテレビボックス席』。スポーツ中継の鉄則である「起承転結」をしっかり見せることにこだわっています。全投球を見せ、どこにボールが飛んで、どういう結果になったのか。これが分かるものにしよう、というのが大原則です。CMがイニング間にしか入らないのもこのためです。となると、ホームランのあとにリプレイVTRを多く入れすぎると、次の投球が始まってしまうので、それには気をつけないといけない、というのもあります。

②主語はタイガース!

サンテレビの視聴エリアはご存じのとおり兵庫県と大阪府全域が中心となっています。タイガースファンが圧倒的シェアを占める地域柄、もちろん私も20年以上のタイガースファンです。相手チームへのリスペクトは忘れないうえで、タイガースの攻撃時は打撃を中心に、守備のときは投手や守備の話を中心に行います。勝っていれば「もっと!」と盛り上げますし、負けていても咤激励できるような映像づくりが求められます。

③とにかく声を出せ!

スタッフはそれぞれ色々なところにいます。8台のカメラの映像など、全ての情報がわかっているのは中継車の中にいるディレクターだけです。今どういう状況なのか、何を映したいのか、どう中継を方向づけていくのか、というのは中継車Dのインカムの指示が非常に重要です。常に声を出し続けて、指示する必要があります。タイガースがピンチのときには「〇〇投手がんばれ!」というだけでもそのように盛り上げた映像を撮ってくれます。

もちろん他にも色々ありますが、これらが口酸っぱく言われたことです。基本的なことですが、今でも自分が中継車Dをしていて迷ったときには、この原則を思い出すと、中継を立て直すことができます。

話は戻ります。私のデビュー戦となった試合はメッセンジャー投手と千賀投手の投げ合いでした。試合前の打ち合わせでは、両先発を軸とした中継にしよう、という話をしたことを覚えています。
そのとおり両投手とも素晴らしいピッチングでした。3回表にホークスの今宮選手のセーフティスクイズで先制されますが、それ以外をメッセンジャー投手は完璧に抑え、8回を投げて4安打1失点9奪三振の好投です。しかし、千賀投手もすごかった…。8回を2安打無失点13奪三振の大活躍…。9回もサファテ投手に抑えられ、0対1の完封負け。試合時間も2時間29分と超ハイペースでした。

ヒットも少なく、両チームチャンスがなく非常に中継としては盛り上げづらい試合でしたが、ピッチャーがとても素晴らしかったので、彼らをフィーチャーするだけで、息詰まる中継が表現できたとは思っています。ただ、得点など映像のパターンを表現する場があまり無かったですし、負けゲームのため試合が終わればあっさりと中継を締める、ということもあり、先輩からも「ええ試合やったけど、中継車Dとしてはあんまり勉強にならん試合やったな。」と笑いながら言われたことを覚えています。

そこからは中継車Dのローテーションにも入り、いくつか試合を担当させていただくこととなりました。はじめは緊張しかありませんでしたが、今では「もっと中継車Dの試合が増えたらいいな。」と思うようになり、中継車Dの仕事は非常に楽しいです。
ただ、今でもそうですが、「今日の自分は完璧やったな!」と思う試合など1試合もありません。いつも中継が終わった後や、VTRを見返すときには「なんであれに気づけなかったんやろ…。」「もっとこんなんできてたやん!」とか反省ばかりで自己嫌悪状態に陥ります(笑)。日々精進ですね!これからも頑張ります。

次回からは「私の記憶に残るあの試合」と題して、中継車Dを務めるにあたって思い出の試合をいくつか紹介させていただきます。とは言え私の反省ばかりになってしまいそうですが…。こういう目線での試合の楽しみ方もあるんだな、と参考になれば幸いです。お楽しみに!

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