第15回 私の記憶に残るあの試合① ~2016年7月30日 福留選手サイクルヒット~

中日 0 0 0 0 0 1 1 0 0 2
阪神 0 1 0 1 3 3 0 0 X 8

中継車Dをはじめてまだ3、4試合目だったでしょうか。一応勝ちパターンや負けパターンの中継も経験し、番組の進行というのは指示できるようになってきたつもりでした。ただ、この場面でこのカメラにどうやって撮ってほしい、とか、この映像を撮りたい!とかいう指示を出すことはなかなか遠慮してしまい、スイッチャーさんやカメラマンさんは「どういう風に撮ればいいのだろう。」と迷っていたのではないでしょうか。

そんな中迎えたのがこの試合です。この日は4番の福留選手が絶好調!2回ウラ、第一打席に吉見投手からライトへホームラン。4回の第二打席はセンターへシングルヒット。5回の第三打席はライトへタイムリースリーベースヒット!そして6回ウラ、2アウト満塁で迎えた第四打席、球場のボルテージは最高潮です!

もちろんみなさんはなぜ盛り上がっているのかお分かりですよね?このチャンスの場面で福留選手がツーベースを打てば自身13年ぶり2度目のサイクルヒット達成となるわけです。

ただし、中継車Dの私はその事実に完全に気付いてはいませんでした…。今でこそメモをつけ、試合の流れを理解しようとしていますが、当時は目の前の1プレーずつをどのように中継を進めていくかに必死すぎて、福留選手が3安打を打っていることも、サイクルヒットがかかっていることもその打席につくまで考えもしませんでした。

打席に入るときに②カメさんが電光掲示板の「今日の成績」を映してくれました。そこで「サイクルヒットがかかった打席やん!」と気づいたわけです。お恥ずかしい限りです…。しかもそれを実際映したのは1球目を投げた後、実況アナウンサーはコメントしていましたが、映像で見せるのが遅れてしまいました。そして2球目、打球はレフトオーバー!3点が入り福留選手は2塁へ!見事サイクルヒット達成です!
⑦カメさんの喜ぶお客さん、③④カメさんの福留選手の表情、⑤カメさんの「祝 サイクル安打」の電光掲示板、視聴者の方々も盛り上がっていたと思います。

虎ギャル応援日記より(リンクはこちら)

しかし、私にとっては後悔だらけの映像となりました。ここにディレクターの指示は反映されていないから、というか、ほとんど何も指示できていなかったからです。「サイクルヒット打った!すごい!どうしよ!」という感じだったのです。

福留選手がタイムリーを打ったということは重要ですが、それがツーベースなのかどうかでサイクルヒットかどうかが決まるのです。映像では何が必要だと思いますか?福留選手が二塁ベース上にいるということを映像で見せないといけません。ですが、実際に映した映像は、福留選手のアップの映像です。そこが2塁ベースかどうかわかりません。あと、3点タイムリーだったので⑥カメでのホームインの様子を映していましたが、3点目のランナーがホームインするまで時間があったので、そのときに②カメなどで福留選手の位置を見せることができたはずです。そこの指示も全くできていませんでした。

あと、福留選手のアップを長く映しすぎた、というのもあります。バチバチ映像を切り替えまくるのが良いわけではないですが、例えばこの日の対戦相手・ドラゴンズの大島選手はこの試合の10日前にサイクルヒットを達成していました。そして福留選手の偉業に拍手を送っていたのです。「最近大島選手もサイクルヒットを打っていたな。」と自分が気付いていれば、どこかで大島選手と福留選手を対比した映像を撮れていたはずです。そのあたりも私の考えの甘いところでした。お客さんや、他の祝福するタイガースの選手や金本監督を絡めた映像ももっと撮れたはずです。

いかに試合を「線」ではなく、その場しのぎの「点」で見ていたか…。このときの自分に会ったら問い詰めてやりたい気持ちです。技術スタッフさんは、中継が終わった後に撤収を行い、最後に反省会を行っています。ディレクターはあまりその場にはいませんが、せっかく良い映像をたくさん撮って下さっていたスタッフに、さすがにその日は申し訳ないと思い、撤収後まで球場に残り、最後の反省会に出て色々なご意見を伺いました。

長年『サンテレビボックス席』に関わり続けているスタッフでも、サイクルヒットの中継は初めてだったそうです。「もっとこんなことやあんなことができたのに。」という思いをみんな持っていました。そのときに言われた言葉は今でも忘れていませんし、その気持ちを大切にして今後も中継に臨みたいと考えています。

昨年、サンテレビ開局50周年を記念して「サンテレビボックス席展」が行われていました。そのときに「名場面集」と題した映像に、この試合の映像が使われていました。それを見て恥ずかしさや悔しさが沸き上がりました。次にいつこのような大記録に立ち会うことができるのか、そのときには気持ちのこもった映像を映したいです。
次回も「私の記憶に残るあの試合」と題して、次は時間管理を誤った結果、ある選手の活躍を映すことができなかったという私の後悔を書かせていただきます。お楽しみに!と言っていいのかわかりませんがお楽しみに!

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