清水圭介選手(左)と岡崎慎司理事(右)
岡崎慎司理事
初練習で汗を流す清水選手
20年前の“衝撃”
今から約20年前、筆者は放送席で驚愕した。
“PK3連続ストップ”。
高校サッカーの県大会でこんなことが起こるのか…。
その主役は、滝川第二2年、清水圭介だった。
第84回全国高校サッカー選手権兵庫大会の決勝は、滝川第二FW・森島康仁(元C大阪など)、関西学院高等部MF堂柿龍一(元C大阪)という世代別の日本代表を要する両チームの対決となった。
試合は予想通りの接戦となり、ともにゴールネットを揺らすことができないまま、0-0で延長戦を終了。
兵庫大会史上初の「決勝PK決着」となった。
冒頭の話に戻る。
関西学院のキッカーが蹴ったシュートをすべて、清水は止めた。相手のミスキックは一本もなかった。
すべて、読み勝ちである。
“いずれ、このキーパーは、必ずトップレベルにたどり着く”と確信した。
順風満帆だった高校時代
兄・秀平さんは、第77回大会の選手権で、滝川第二が兵庫県勢初となる国立進出を果たした時の正GK(初戦の山梨・韮崎戦、準々決勝の栃木・佐野日大戦はいずれも秀平さんの活躍もあり、PK戦勝利)。
その姿を、目に焼き付けた弟・圭介(当時・小学4年生)がサッカーと向き合い、GKを志し、滝川第二に進むのは必然とも思えた。
入学早々レギュラーを獲得し、夏の総体で全国デビューを果たす。
選手権には、3年連続で出場。先述の2年時の全国では、優秀選手に選出。
高校3年時には、高円宮杯で全国の頂点にも立ち、卒業後はJリーグ・大分入り。
端から見れば、順調に見える歩みにしか見えなかった。
ただ1人、本人を除いてー。
「意外と順調に行きすぎて・・・。今振り返ると、プロに入るまでに、もっと苦しんだ方がよかったと思います。プロになって気づかされたというか、もっと挫折を味わったりとか、若い時にそういう経験をしていたら、もっともっと活躍できたんちゃうかなと」
立ちはだかる“壁”
清水自身が振り返ったとおり、Jリーグ入り後は、想像以上に苦しい日々が続いた。
大分、京都、C大阪・・・、その行く先々で、大きな壁が立ちはだかった。
乗り越える術を、清水は持ち合わせていなかった。
「西川周作選手(大分時代)、菅野孝憲選手(京都時代)、キムジンヒョン選手(C大阪時代)など
素晴らしいGKが身近にいました。(出場機会は多くなかったが)近くでその方々からとにかくいい部分を学んで、ずっと第一線で活躍する秘訣を勉強する日々でした。結局、僕は、J1で活躍できなかった。
そこでプレーし続けることができなかったというのは、自分に足りなかったものがあったと思うので…」
18年間で、J1通算15試合、J2通算202試合。
昨年は、C大阪(J1)でリーグ戦出場はゼロに終わった。
現役も終盤を迎え、必然的に、自分自身の未来と向き合う時間が多くなる。
「僕自身、やっぱり最後は、地元でやりたいという気持ちが強くなっていたんです」
岡崎慎司からの電話
そんな時、一本の電話が入る。
場所はドイツから、声の主は元日本代表で高校の2年先輩・岡崎慎司だった。
「圭介、ウチで5年以内にJに行こう!」
予想もしないオファーだった。
岡崎が指す「ウチ」とは、自身が理事を務める「FCバサラ兵庫」である。
所属する関西サッカーリーグ(1部・8チーム)は、仕事との両立を前提に昇格を狙うが、いわゆる地域リーグで、J1を国内1部とすると5部にあたる。
2023年に誕生したトップチームは、初年度が6位、2年目の昨年は5位という成績で、当面の目標はJFL昇格である。
現役のJ1選手が移籍となれば、異例のこと。
ちなみに、清水にはJ1クラブからのオファーもあった。当然、生活もかかっている。
「やっぱりそこは悩みましたね。少しでもレベルが高いところでやりたいという気持ちもありましたから。でもそれだけがすべてじゃないところで…」
選択肢を何度も頭で回転させながら悩む日々。
その中で、岡崎からの「5年以内にJへ」という言葉が、脳裏から離れない自分に気づいた。
“よしっ、地元で花を咲かせよう!”
確固たる覚悟ができた瞬間だった。
“カテゴリーは関係ない
2025年1月16日。清水の姿は、神戸市西区の専用グラウンドにあった。
この日、チームは初練習。
「このチームでまだまだ成長したいと思っています。JFLに上がるためには、毎日のトレーニングをどれだけ100%で出来るか、これがすべてだと思います。みんなと同じ方向を向いて、頑張りましょう!」とミーティングで挨拶をし、約2時間汗を流した。
「合流の印象ですか?若いんで、みんな年齢が(笑)一回りくらい違う選手がいますし、若いので元気よくワイワイする雰囲気はあると思うので、ちょっとずつ、ですね」
チーム発足3年目のシーズン。まだまだ発展途上ではあるが、だからこその“ノビシロ”も、清水の使命感につながっていく。
「やっぱり年齢的なところも含めて、チームを引き上げていかなければならない。足りないところをサポートしながら、厳しさもトレーニングやゲームで伝えていって、引っ張っていきたい」
どんなカテゴリーだろうと関係ない。
“純粋に試合で活躍して、自分の価値をもう一度、高める”
36歳の挑戦は、まだ始まったばかりである。
★清水圭介(しみず・けいすけ)
1988年11月25日、兵庫県・加古川市生まれ。36歳。ポジションはGK。
滝川第二高では、1年生からレギュラーとして活躍。3年連続で全国高校選手権に出場。
2年時には、大会の優秀選手に選出された。卒業後、Jリーグ・大分に入団。
その後、京都・C大阪などでプレー。J1通算15試合、J2通算204試合に出場。183センチ、75キロ。