刑法39条は、刑事責任能力を完全に欠く、心神喪失者の行為は罰しないと定めています。
今回、検察が上告をせず、男性の無罪が確定したことについて、刑事訴訟法が専門の渡辺修甲南大学特別客員教授に話を聞きました。
渡辺教授
「今回の地裁、高裁の判断は最高裁が示している責任能力の有無に関する専門的知見を法律家が見ていくこのやり方から見た時に、全く問題がないものと検察官としても認めざるを得なかったとすると、上告しても最高裁としてはこれを覆すことはないと判断したものであって、あえてただ上告するための上告を避けたという意味では賢明な選択だと思います」
犯行当時、「男性が心神喪失状態にあった疑いが容易に否定できない」とした判決に関しては次のように述べます。
渡辺教授
「今、心の状態が病気かどうか判断するのではなく、いわばタイムマシンに乗ったような感じで犯行した時の心の状態はどうだったのかを診断するというのは大変難しいことではないかと思います。
ただ、それについても、専門家の間で一定のやり方、診断方法が蓄積されてきているのでしょう。おおむね誤りのない判断材料を法律家に提供できる準備はできているのだろうと思いますし今回もそのような判断材料に基づいた裁判所の判断だったかと受け止めております」
今後の男性の処遇はどうなるのかについては、
渡辺教授
「今回の事件に限って言えば、まだ統合失調症を完治していないように見受けられますので、裁判所としては検察官の申し立てに従って医療観察法という別の制度に基づいて、基本的には治療に向けた処分を続けていくことになるだろうと思っています。
その上で、その後も地域連携センターなどとタイアップして、地域に上手に戻っていってもらってこういうことが起きないようなシステムに入って生活する、そこに道をつなげていく法律制度が整っていると思います」
また、渡辺教授は心に悩みなどがあってもこういった事件にならないよう、社会全体が抑止力を強めていくことが大事だとしています。