ふるさと納税で数々の不適正な事務処理や違反が明らかになっている兵庫県洲本市についてです。市議会で議員がふるさと納税に関して質問した発言の記録(議事録)では、至る所で「・・・」の文字が見られます。いわゆる黒塗りの議事録を取材しました。
洲本温泉の利用券を筆頭に、ふるさと納税で基準を超える高額な返礼品を贈っていた洲本市。2022年5月1日から2年間、制度の対象から除外されています。
【市の第三者調査委員会 河瀬真委員長】
「温泉利用券については、調達費を下げるための偽装というふうにしかとらえられない」
このほかにも洲本市が返礼品の温泉利用券を発行し、イベントでばらまいたり、返礼品のおせちが市民に無料で贈られたりしました。
【河瀬委員長】
「行政としてはありえない」
2022年3月、洲本市議会はふるさと納税問題調査特別委員会を設置。この問題を追及するのが市民の代表でもある市議会のはずですが…。洲本市の議会事務局は、2022年5月ごろ、市議らに対して一般質問でふるさと納税の発言を控えるように伝えました。
【洲本市議会 濱野隆議員】
「ふるさと納税の質問はしてはいけないと言われた」
-議会事務局の方からふるさと納税の発言はするなと
「はい」
その背景について、当時、議長だった小松茂議員が語りました。
【小松茂議員(当時議長)】
「調査特別委員会を設置し、そこに調査を付託したわけです。まず、一義的には調査特別委員会が調査を行うべきものという認識です。現在特別委員会で調査中だから、この問題については取り上げないでほしいという要請をいたしました」
【濱野議員】
「調査特別委員会は調査特別委員会。議会で質問することになんら制限される理由はない」
2022年9月、洲本市は、弁護士や大学教授ら外部のメンバーによる第三者調査委員会を設置しました。現時点で3割基準や地場産品基準違反など373品の返礼品に違反があったことが明らかになっています。
市議らは、その後、ふるさと納税の問題について市議会で問い質しますが…。
【企画情報部長】(当時)
「第三者調査委員会で調査対象となっているため回答は控える」
市議らの質問に対して真摯に回答しない洲本市。これに対して市の第三者調査委員会は、2023年1月、遺憾の意を表明しました。
「答弁を控えるよう伝達したことは一切ない。市民らには知る権利がある。真摯に誠実に回答していただきたい」と。
【小松議員】
「第三者調査委員会で調査をされている時に、『調査してくださいね』ってお願いをした我々が根掘り葉掘り聞くのもいかがなものかと。第三者委員会としては本会議で一般質問をしないでくれとは話していないという指摘がありましたので、オープンにしたわけです」
第三者調査委員会が遺憾の意を表明する前の2022年9月と12月の市議会の議事録です。ふるさと納税問題についての濱野議員と久保議員の発言では、至る所で黒塗りにあたる「・・・」の文字が並びます。
この議事録について、地方政治に詳しい関西学院大学の森脇俊雅名誉教授は?
【関西学院大学 森脇俊雅名誉教授】
「相当大きな削除がなされているということで、よほど認識の違いというか、あるいは追及する側の発言に問題があったのか、あるいはそれを好まない発言と見たのかですね」
サンテレビは、議事録が削除された2人に話を聞きました。
【濱野議員】
「事務局長が鉛筆で線を引いたものを持ってきました。それがもう大量」
【久保哲二議員】
「ふるさと納税問題について一切しゃべったらだめだというような行為も言論の自由を奪っている」
議事録の作成や配布については議長に権限があります。
【森脇名誉教授】
「洲本市議会会議規則第87条に『秘密会の議事、並びに議長が取消しを命じた発言については掲載しない』とあります。不適切であるとか間違っているということで取り消しを命じたものは閲覧用の議事録に掲載されていないと」
削除の理由について小松議員は?
【小松議員】
「地方自治法第132条の規定『議会または委員会において議員は無礼の発言をしてはならない』という規定があります。お二人の発言の中にそういう無礼の発言に相当するものがあったという判断をいたしました」
サンテレビは、2023年6月に情報開示請求を行い、いわゆる黒塗り部分について調べました。
【小松議員】
「濱野議員は個人を特定する形で犯罪行為が行われていたかのような発言。久保議員についてはふるさと納税問題調査特別委員会の結論を無視し、あたかも何もしていないかのような発言を議場でされた。そういった部分が無礼の発言と私は認識しています」
しかし、濱野議員が指摘した職員の不正の一部はその後発覚します。議事録が削除された半年後の2023年3月、魅力創生課の元課長が返礼品の不適正な事務処理をしたなどとして停職6カ月の懲戒処分となりました。
【濱野議員】
「うーん。(削除について)これおかしくないですか?私が拒否してもどうせ削除するんでしょう?」
濱野議員の発言の中には事実誤認があった点、現時点では断定できない内容も存在しました。
【濱野議員】
「(誤認があったことはあった?)そうですね。はい。12月議会の懲罰に関してはすぐにそれは私のミスですので、訂正させていただきますよというお話はいたしました」
また、久保議員の発言で「ベテラン議員が寄ってたかって新人議員をいじめている。差別的行為のある市議会」と記されていましたが、小松議員が無礼と判断した特別委員会に関する発言は、消された9月の議事録では確認できませんでした。
※12月議会の議事録で「議会のふるさと納税問題調査特別委員会も現在何も活動していませんが、果たしてそれでいいのか。第三者調査委員会と並行して、議員なりに調査をしてもいいのではないかと、そのように思っております」という記載がありました。この部分は議事録から削除されていません。
【久保議員 】
「不手際があった部分についてはね。それは削除してもええと思ったんだけども、全部削除するという話だったので。それはちょっと僕は意に反するなと思って断ったんです。そしたら懲罰動議をかけられた」
ふるさと納税の問題の議会での発言をめぐり、濱野議員と久保議員は、2度にわたって懲罰動議がかけられ可決。陳謝や出席停止の懲罰が科せられました。
【森脇名誉教授】
「結構重い処分だなと。その議員たちだけがなぜそんなに重い処分を受けているのだろうか」
なぜ議事録を削除をしたのか? 小松議員が答えられない部分も複数ありました。
-「副市長に県から出向を入れたらどうか」の発言が消される理由が分からないが?
【小松議員】「うーん…」
-これは小松議員が判断し消した?
【小松議員】「そうです」
-例えば「魅力創生課の廃止を強く求めます」それも黒塗りで隠れている。こういった意見としては議事録に載せても問題はないと思うが?なぜ消されるのか?こういったものを消していると何も言えないし、何も議事録に載せられないんじゃないかと思う。議長の私的な考えが入っているのでは?
【小松議員】
「うーん。私的な考えが入っていると指摘をされれば、かもしれないとしか申し上げようがないです。正直」
議長判断で次々と議事録が削除された洲本市議会。YouTubeの議会動画やケーブルテレビでの放送も該当箇所が削除されたり無音になったりしたということです。森脇名誉教授は、「自由で闊達な議論が議会のあるべき姿。洲本市議会はそれが失われていると言わざるをえない」と指摘します。
【森脇名誉教授】
「洲本市議会全体としてふるさと納税の今回起こった経過をちゃんと突き止めてですね、改革改善をしていくというそういう姿勢をもっと示す必要があるのではないかと思います」
懲罰動議の出席停止処分について濱野議員は、2023年1月に兵庫県の斎藤知事に対して取り消しの審決を求める申請を行い、現在、結果を待っている状態だということです。