西宮市の阪神東鳴尾駅。駅から続く一本道に、「まなちゃんの八百屋」があります。
店長を務める野草真菜さん、22歳。発達障害と重度の知的障害があります。地域に愛されお店は4年目を迎えました。
【兄・惣太さん】
「バナナはイチ・ゴー・ゼロ、ブロッコリーがニー・ゼロ・セロ…は?」
【真菜さん】
「350円です。おーきに、450円です」
【お客さん】
「350円やろ(笑)」
2年前は元看護師の母・美千代さんと3つ上の兄・惣太さんとでお店を切り盛りしていましたが…。
【母・美千代さん】
「最近、私が全然(八百屋に)行ってない。お兄ちゃんからは『お母ちゃん来んといて』って」
自立のため、いまは美千代さんの姿はありません。看板娘として数々の仕事をこなす真菜さん。言葉数も増え、やりとりもスムーズになりました。
【真菜さん】
「きょうからアボカドが入ってきています。いらっしゃいませ。マカロニサラダに入れて。おいしいの、ダイエットサラダに」
焼き芋を包む作業です。できない場合は、感情を乱さずやり直し。それでもできない場合は、周りに助けを求めることができるようになりました。
美千代さんは、自分ですること・人に頼ること、どちらも身につけてほしいと話します。
【美千代さん】
「生きていくっていうことは、自分でできることは自分でしないといけない。
手伝ってもらう、その基本を彼女は分かって、色んな方と接していってほしい」
美千代さんは放課後等デイサービスなどを7年前から運営しています。この日は児童が好きなテレビ番組の設定で療育を行いました。
美千代さんが用意したのが、支援グッズ。立ち入り禁止の場所に目印を置き、視覚支援で環境を整備します。
【美千代さん】
「(周りが)困った行動は(本人が)困っている行動。周りの環境を整えることで、その子がその子らしく笑顔で暮らせるというところを分かった」
視覚支援の工夫は自宅でも。
洗面所には真菜さんのために歯ブラシやタオルの写真を用意。「見える化」で所定の場所に戻しやすくしています。お風呂にはシャンプーのイラスト。髪の洗い忘れを防ぎます。
さらに、ハンカチやバッグはカゴに入れるだけ。すべてワンアクションでできるようになっています。
髪もボタンひとつで乾かせます。脱ぎっぱなしの靴も、視覚支援のおかげで簡単に揃えることができるようになりました。
真菜さんには、一人暮らしをしたいという長年の夢があります。そのため、料理づくりや買い出し、洗濯物の取り込みなどをヘルパーと行っています。
さらに、障害のある人が通うグループホームでバーベキューを行うなど、週1回の食事を行っています。グループホームという選択肢も視野に入れることで、自立の可能性が高まります。
【グリーンネックレス 徳岡紗佳さん】
「おひとり気に入っている方がおられて、その方がおられると作業所の話とかお仕事の話をメインによくされています」
小中学校を通常クラスで過ごした真菜さん。多くの苦労を経験しました。
【美千代さん】
「障害が重いとか軽いとかということではなくて、こういう環境で育てたいという家族の思いのもと支援していく必要があると思って」
2年前の取材では、記者のふとしたひと言で学生時代の辛い経験を思い出し、感情を乱すことがありました。この日は取材が続くとスッと別室へ。ひとりで静かに気持ちを落ち着かせる姿に、この2年の月日の重さを感じさせました。
就学や就労など、真菜さんに寄り添い、親子で信じた道を歩んで来た22年。
【美千代さん】
「(子育ての)やり方間違ったかなとか、これで良かったんかなとかいうのは日々あった。ここ最近は穏やかに真菜ちゃんと暮らせている。やっと手ごたえもつかめてきた」
周囲の理解と支援で輝ける。真菜さんは自立に向けて、少しづつ前に進みます。
【真菜さん】
「OK~」