14歳や15歳の中学生たちが段ボール400箱分の物資を集めた
5万人以上が亡くなったトルコ・シリア大地震から4カ月が過ぎました。内戦が続き、支援が困難なシリアの子どもたちに物資を送ろうと奔走する中学生たちがいます。段ボール約400箱分。一大プロジェクトとなった被災地支援を取材しました。
人道支援に政治は関係ない!
西宮市に住む中学3年生の森下紗良さん(15)。友人たちとともにシリアの被災地支援のボランティアに取り組んでいます。
森下さん
「もともと貧困問題とボランティア活動に興味があったんですけど、踏み出せずにいたので身近な人が支援活動をするって聞いて参加したいなと思いました」
森下さんが通っているのは、全国屈指の進学校 奈良県の西大和学園中学校。教室のろうかにはずらりと段ボール箱が並んでいます。これらはすべて中学生たちがシリアの被災地支援のために集めた物資です。その量は、段ボールおよそ400箱分もあります。
中嶋玲さん(14)
「衣類など生活必需品に加えてコンセプトとして、子どもへの支援ということを念頭に置いているので、玩具や生理用品などを譲っていただいています」
支援のきっかけはシリアの生き埋めになった子どもたちの動画だった
中学3年生の森孟子さん(14)は有志団体M.P.S(Make people Smile)を立ち上げ、活動を続けています。支援を始めるきっかけは、SNSで地震によって生き埋めになり助けを求める姉妹の動画を見かけたことでした。
森さん
「自分を召使いにしてもいいから自分と自分の妹を助けてくれって言っているその姿が。自分たちは何もしなくても、助けを求めたらちゃんと助けられる国に住んでいるのに。生まれた国や場所の違いで命の重さが違うというのも変ですけど、違うのっておかしいなって思ったので。この子たちを絶対に助けたいって思いました」
最初は5人でスタートした活動も次第に協力者が増え、現在は22人に。物資の調達や広報などそれぞれが担当に分かれて活動しています。
M.P.Sで資金調達を担当する森下さん。芦屋に住む大伯父に支援を呼びかけるメールを送りました。
大伯父に支援を呼びかけるメールの一部
「多くの人が、中学生がわざわざ自分たちで支援活動なんてする必要はないんじゃないかと言うと思います。ですが、『支援の届きにくいシリアの子どもたちに同年代である中学生が主体となって支援を送る』これは私達にしかできないことだと思っております。この活動が成功すれば、現地の子供たちに希望を与えられるだけでなく、『中学生でも成功させられた』という事実がシリア支援へのハードルを下げることにもつながるでしょう。難しいお願いだということは承知しておりますが、ご検討のほどよろしくお願いいたします」
大阪の企業で会長を務める大伯父を中心に協力してくれる企業が増えて、予想を超える金額が集まりました。
森下さん
「大阪北ロータリークラブの方々からの支援で70万円ほど。企業様から100万円いただけて」
さらに生徒たちは、東大寺の南大門前で街頭募金を行い、約50万円を集めました。
M.P.S広報課チーフ 中嶋玲さん
「少ない時は5人くらいで多い時は10人ほどで東大寺などで募金を行っていました。たくさんのご支援をいただいて本当に感謝しています」
物資の調達については、生徒たちが分担して約300社の企業にメールを送りました。
森下さん
「メールを送る時に直接会って話すときに相手の目を見て自分が強調したいところを強調して話せると思うんですけど、メールだから文字だけで自分の熱意とか思いを伝えなければいけなくてそれが大変でした」
このうち30の企業や団体が活動に賛同。園児から高校生を対象にした衣服やタオル、生理用品、勉強道具、おもちゃなど段ボール400箱分の物資が集まり、学校や教員の協力を得て保管されています。企業からは、本当に中学生がやっているのか?詐欺ではないかといった問い合わせが寄せられたそうです。
森さん
「中学生なのでメールをさせていただいたときに本当にこの団体が信頼できる団体なのかっていう疑問が学校に寄せられてきた際は、学年部の先生を中心とした5人の先生方にサポートしていただいている」
お金ではなく、物資を直接届けようと考えましたが、送り先は、内戦が長引くシリア。国内で支援に乗り出した団体をリサーチし、非営利団体サダーカ・イニシアチブ代表で東京外国語大学大学院教授の青山弘之教授にたどり着きました。
東京外国語大学 大学院・総合国際学研究院 青山弘之教授
「被災した地域の中にはアルカイダが支配している地域だとか、トルコが占領している地域とかがあって、一筋縄ではいかない。誰に連絡したらいいのか。支援をしてもそれが法律に反することになってしまうとか様々な障害があってなかなか手が出せない。そういう地域でした」
生徒たちは、どこへどのように物資を送るかなどを青山教授に相談。人道支援に政治は関係ないと支援に取り組む生徒たちに心を打たれ、青山教授はトルコやシリアの大使館などに協力を呼びかけました。
東京外国語大学 大学院・総合国際学研究院 青山弘之教授
「政治的な立場に違いというのがこういうところで如実に表れてしまうと、結局最終的には支援しないという形で終わってしまうんだけども、それってやっぱりちょっと違うだろうと。人道の原点を教えてくれるような活動をしていて、私も動かされた大人の1人なんですけども。本来困っている人がいる時、自然災害に直面した時に、どういう風にそれ以前のいろいろなしがらみを解いて行動すべきかというのを模範として示してくれている」
シリアには現地のNGOを通じて物資が供給される予定で、現在青山教授は、協力してくれる航空会社や国際宅配業者を探しています。
中学生の支援について在京のシリア大使館は?
「こんにちは。シリア大使館代理大使のナジブ・エルジです。シリアは過去12年間、テロや他国の経済制裁によって国民生活が不安定な状態でした。さらに2月6日の大地震で何千人もの犠牲者、建物、インフラ等が破壊しました。日本は直ちに支援物資を送ってくださったり、日本国民のみなさまが大使館に寄付をくださりました。奈良県西大和学園の中学生のみなさまが地震で被災したシリアの子どもたちを支援しようと物資を集めてくださったこと、日本の若い人たちのモラルの高さに感動しました。5月初旬私は西大和学園を訪れ、校長先生や生徒の皆さんとお会いし、集めてくださった物資をどのようにシリアまで輸送するのかを協議いたしました。最後に素晴らしい支援活動をしてくださった西大和学園の生徒の皆さまに感謝を申し上げます。ありがとうございます」
1つの動画から始まった被災地支援。準備ができ次第、シリアに向けて物資を発送する予定で、今後は国内の子どもの貧困問題やトルコへの支援を検討しています。
森さん
「まずはシリアから支援をしようと考えています。次はトルコの支援をしようと考えているんですけど、それも私たちなりの形でやりたいと考えていて、例えば日本を代表する作品でアラビア語に翻訳されているジブリ作品を『ニューシネマパラダイス』という映画のように上映することで子供だけでなく町全体に希望と笑顔を与えられるんじゃないかなってそういうことも考えています」