ヤングケアラーの大学生 うつ病の母を支えた時間と思い

  • X
  • Facebook
  • LINE

「母親と子どもの関係性がなくなったように思えた瞬間が何回もあって、そういうところはなんか孤独感というか、すごいしんどかった」

大阪府内の大学に通う原田伊織さん(20)。精神疾患を抱える母親を支えてきましたが、去年7月、母親と離れて暮らす選択をしました。その決断に至るまで多くの葛藤に苦しみました。

現在はシェアハウスで生活しながら、「ヤングケアラー」の当事者として支援する側の活動をしています。

両親は原田さんが2歳のときに離婚。母親と2人の兄と姉の4人兄弟で、生活保護を受けながら暮らしていました。

母親がうつ病と診断されたのは、原田さんが高校1年生になったとき。そのときすでに年の離れた兄と姉は家を出ていて、母親とひとつ上の兄と3人で暮らしていました。

【原田さん】
「最初はご飯の時間が相談事とかお母さんの話を聞く時間みたいなのに変わって、それが1ヵ月くらい続いた後に、気付いたらご飯終わったあとも延長戦していて。だんだん日がたつにつれて一緒に話す時間が増えていった。話し相手として必要とされる時間が夜中まで増えていったみたいな感じでした」

高校の学費を稼ぐためのアルバイトは月に100時間を超え、疲れて帰宅すると、夜通し母親の声に耳を傾ける日々。次第に学校も休みがちになりました。

【原田さん】
「『もっとみんな一緒にお母さんの話を聞いてくれたらいいのに』と思うことはたくさんあったんですけど、『なんで自分がやらないと』みたいなのはあまりなくて。自分がやるのはどこか当たり前になっていて、プラスで誰かやってくれたらうれしいなみたいな感じでした。
お姉ちゃんは子どもができたりとか、それぞれの問題を抱えていたので、なんかいま相談できるタイミングじゃないなと思ってあまり相談できなかった」

大人に代わって家族の世話や家事、介護などを担う子ども・ヤングケアラー。日本では、厚生労働省が2020年度に中高生を対象に初めて全国的な調査を実施しました。

その結果、中学生は17人に1人が、高校生は24人に1人が「世話をしている家族がいる」と回答しました。

原田さんは高校3年生のときに学校の授業で「ヤングケアラー」という言葉を知りました。その授業をきっかけにヤングケアラーの支援をしたいと思い、詳しく調べていく中で、自分の経験と重なる部分が多く、「自分自身がヤングケアラーかもしれない」と気づいたと言います。

【原田さん】
「ニュース記事に出ているのが結構重たいケース、1日8時間も会話していますみたいなケースが多くて。それくらいまではいってないし、でも精神疾患を持つお母さんの相談相手だしみたいな。最初はヤングケアラーですと言っていいのか、ヤングケアラーとして相談窓口に行っていいのか分からなかった」

原田さんの生活を大きく変えたのは、松村史邦さんとの出会いでした。松村さんは、知的障害や身体障害のある人たちの働く場所の提供や介護派遣を行う福祉団体の理事長です。2人は尼崎市内で行われた地域交流イベントで初めて顔を合わせました。

【松村さん】
「家を出られないと言っていた。最初、泊まりに行くのも不安だって言って『どうしたん?』みたいな話で。それはでも分からないからやってみたら良いよって言って、やってみたらあかんかったかどうか分かるからやろうよと言って誘ったと思う」

原田さんはいま、松村さんから紹介を受け、2人の若者と一緒にシェアハウスで生活しています。そのひとり、宮﨑あゆみさんは、夜間定時制高校に通う若者の支援を行うNPO法人で働いています。一緒に暮らし始めておよそ半年。原田さんに変化がみられました。

【宮﨑さん】
「『最近どう?』みたいなことを家で話すんですけど、それが今まで無かったからうれしいって言っていたのを聞いて。自分の話を聞いてもらうよりもお母さんの話を聞いていたというのもそこで聞いて、本当に苦労してきたんだなというか、それを踏まえていま活動していることは本当にすごいなと思いましたね」

家を離れたいまでも、母親とは定期的に連絡を取り合い、体調の変化を気遣っている原田さん。それでも、母親と離れたことで自分の気持ちと向き合う時間ができ、ヤングケアラーの当事者でありながら支援する側としての活動を始めました。

支援団体「NPO法人 ふうせんの会」の運営に携わり、同じような悩みを抱える若者に寄り添っています。ことし2月には、尼崎市内で自らの経験を語り、「ヤングケアラー」という言葉が広がるいま、必要な支援の在り方を訴えました。

【原田さん】
「ケアはなくなればいいわけじゃないというので、僕の場合、もう途中から『ケア』というのは『母との時間』みたいな感じでほとんど一緒の意味になってしまったので。いま『ケアをなくそう』みたいな動きがありますけど、ケアがなくなると僕と母の時間は全部なくなってしまう。
そうなると本当にそれが子どもにとっていいことなのかというと分からないんですけど、僕は良くないと思うので、過度になっている負担は取り除きながらも、親子関係や家族関係がうまくいくような関係を新しくつくるということが必要だなと思っています」

【講演会を聞いた女子大生】
「矛盾だったり複雑な部分が存在するので、実際の方の話を聞いて、どのような支援が必要か、またその人にあったような個人個人にあった支援ができるような人になっていきたいなと思いました」

「ヤングケアラー」と一言で言っても、抱えている悩みは家庭によって全く違う。人との出会いを経て、原田さんは自分らしく生きる一歩を踏み出しました。

【原田さん】
「充実してますね。ヤングケアラーになったり支援されていたりすると、楽しいことをやっていてはいけないのかなと思ったりする。
そうじゃなくて、ヤングケアラーの部分に関してはいろんな人に助けてもらいながらも自分のやりたいこともやって良いんだよと。僕もいろんなやりたいことをやっているので、そういうのがなにかしらの形で伝わったらいいなと」

おともだち登録するだけ! LINEでニュースを読もう! ともだち登録をする 毎週配信(月・火・金) 1回で8記事をダイジェスト形式で配信。