■民間主導の3アリーナ
2025年春に開業する1万人規模の「神戸アリーナ」(仮称)の運営会社が2月3日、同じく民間主導で進められている「TOKYO A-ARENA」(25年秋開業予定)と、アリーナを含めた「長崎スタジアムシティプロジェクト」(24年9月開業予定)の運営会社とで、オンラインによる3者トップ対談セミナーを開催した。
各アリーナはそれぞれ、Bリーグの西宮ストークス(ことし神戸に移転)、アルバルク東京、長崎ヴェルカの本拠地となる。
3社長は民設アリーナのコンセプトや活用法などを巡って熱く語り合った。その概要は以下の通り。(敬称略)
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■はじめに
渋谷順:
(神戸アリーナの運営会社「One Bright KOBE」社長)
日本ではまだアリーナビジネスのモデルが確立していない。
私たちは試行錯誤の連続で準備に取り組んでいる。
まず東京の計画概要から説明してください。
■東京/壁のないアリーナ
林邦彦:
(TOKYO A-ARENAの運営会社「トヨタアルバルク東京」社長)
スポーツ、モビリティ、サステナビリティを重点テーマに進めている。
建設予定地は東京のウォーターフロント・青海。ことし5月か6月に着工し、開業は25年10月。
最大収容人員は1万人を予定している。
スポーツ観戦については、下段席を増やして、より近くで観戦できるようにし、
壁のないアリーナを目指した。
スポーツ観戦だけでなく、ショールームやデザイン展示会などビジネスにも使える。
またアリーナ外は海に面した“ファミリーパーク”として、家族やグループで楽しめる場として活用したい。
■長崎/小規模イベントも対応
岩下英樹:
(長崎スタジアムシティプロジェクトの運営会社「リージョナルクリエーション長崎」社長)
ジャパネットグループが開業する同プロジェクトは、長崎の中心市街にサッカースタジアムとアリーナ、オフィス、ホテル、商業の複合施設を建設する。
行政の施設は公平性の観点からできているが、私たちは100%民間なので、トガる所はトガるのが強み。
アリーナは、バスケより音楽やエンターテイメントの方が数は圧倒的に多いかもしれない。6000人規模だが、可変型なので小規模なコンサートやディナーショーなども対応可能。屋上には3×3(3人バスケ)やフットサルのコートがある。またヴェルカのクラブハウスが隣接し練習風景も見れる。
開業まであと1年半ぐらい。いよいよ迫ってきた。
■神戸/突堤をパーク化
渋谷:私たちのアリーナは神戸港の再開発の一環として突堤に建つ。世界的にもないだろう。
バスケットの試合は年間30~40日。音楽ライブは80~100日を想定している。その他、法人やイベントなど
ニーズの把握をしている。
アリーナが建つ第2突堤全体がパーク化されるので、アリーナが年間100万人強、パーク全体で300万人の来場を見込んでいる。
街づくりとアリーナが一体となった取り組みを進めていく。
■稼働率どう上げるか
渋谷:ではディスカッションに移る。事前にいただいた質問で多かったのは、「バスケ試合のない日はどうするのか」。
林:平日イコール不採算日という考え方はない。コロナ禍で時間の使い方が大きく変わった。平日も来てもらえる社会になっていく。
岩下:バスケが年間30試合。あとは大小コンサートや展示会。またアイスショーもいいと思う。アリーナ単体で50%以上は稼働させたい。
渋谷:私たちは初年度稼働率70%以上を目標にしている。公設アリーナなら観客をめちゃくちゃ入れなくても大丈夫だが、民設は投資企業へのリターンもあり、稼働率をいかに高めるか腐心している。
岩下:アリーナ単体ではなく、周辺と連携してトータルで稼働していくことが大事だ。
■使命感を持って
渋谷:アリーナが地域とどう共生するのかという質問も多かった。
僕の意見を言うと、こんご人口が減っていく中で、私たち自身が街づくりの主体者にならないとアリーナビジネスは成立しない。街が元気になることが、イコールこのビジネスがうまくいくこと。相当な覚悟がいる。
岩下:長崎市は人口流出がトップクラスだ。スポーツを通じて、長崎の若い人に“長崎で生きていくことはいいな”と思ってもらうことが、人口を増やすきっかけになる。
渋谷:いつも「ウチが失敗すると、後から民設アリーナをやろうという人はみんな諦めるよね」と話している。使命感として、絶対成功させなければという気持ちになる。
林:青海有明は期待とはうらはらに開発が進んでこなかった。羽田空港の航路が近いので高いマンションが建てられず住民がいない。単発のイベントでは人が来るが、イベントが終わると荒野に戻る。ここにアリーナなど建物を作って、根差したプロジェクトを推進することが発展に寄与する。あとは敷地内でのモビリティ=“動き”“運ぶ”を街の人たちとやっていきたい。
岩下:ハコだけ作って終わると失敗する。ソフト・コンテンツが大事だ。
■先を見て投資
林:海外では、地球環境を訴えるアーティストが、CO₂をボンボン排出するアリーナで興行すると、主張と相反していると言われる。地球環境にやさしいとアピールできるアリーナにしたい。
渋谷:しかし建設費が高くなる。判断が難しくないか。
林:多少高くても投資した方がいいと、どの時期に分かるか。開業前に分かると“レ・ミゼラブル”だ。足元を見ないで、先を見ることは、こうしたプロジェクトではついて回る。
渋谷:素晴らしい。僕は目の前の収益が気になって仕方ない(笑)
■試行錯誤をシェア
岩下:目指すところは3者同じ。失敗できない責任がのしかかっている。24年の開業を楽しみにしてほしい。
林:民設アリーナが日本にできると知ってほしい。我々はBリーグで試合は戦っているが、協業していかないと(いけない)。つぶし合いからプラスは生まれない。
渋谷:冒頭に言ったが、アリーナビジネスはまだ未成熟だ。試行錯誤の知見をみんなでシェアして、横の連携を取っていきたい。
(浮田信明)