多くの祭りが廃絶や存続危機 貴重な伝統行事を登録制度で守る

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12月4日、三木市の金物神社で行われた、伝統行事「鞴(ふいご)まつり」。金物のまち・三木で、鍛冶職人らが長年受け継いできました。

境内の古式鍛錬場で披露されたのは、古式装束の職人が風を送る「鞴」で火を起こし、熱した鋼を大づちや小づちを使って鍛錬する「火入式」です。

この行事は、兵庫県が去年創設した登録無形民俗文化財の第1号に選ばれました。

【三木工業協同組合鋸部会 光川大造さん】
「この伝統的な『鞴まつり』をつないできていただいた先輩たちに本当に感謝している。実際に火入式をやらしてもらって、その思いがすごく深く感じました」

登録無形民俗文化財の制度ができるきっかけになったのが、兵庫県が41市町の協力を得て2017年から3年間かけて行った「祭り・行事調査」です。

調査の結果、県内には「鬼追い」や「とんど」など、地域に根ざした祭り・行事が、およそ4500件あることがわかりました。しかし、すでに廃絶したものが全体の1割の453件。存続の危機にあるものが205件あり、状況が分からないものも1600件を超えました。

【兵庫県教委文化財課 臼井信哉さん】
「何十年何百年と継承されてきたお祭り・行事ですが、地域コミュニティの減衰による影響などから、非常に消滅の危機に瀕しているようなお祭り・行事がいっぱいあることが調査の中から分かった。そういったものを手を打っていけないか、なんとか手助けしていけないかということで、今回こういった登録制度というものを創設することになった」

このような無形民俗文化財を守るため、これまでは国・県・市町による指定制度がありました。

11月末にユネスコの無形文化遺産登録が決まった、南あわじ市の「阿万の風流大踊小踊」は、国指定の文化財です。指定されるとさまざまな手厚い補助を受けられますが、学術的な評価を求められ、現状の変更を厳しく規制されるため、地域を代表する有名な行事に限られています。県内では、国・県・市町の指定をすべて合わせても300あまりです。

兵庫県の登録制度は指定制度を補完するもので、厳格な調査は行わずに幅広く行事を選定して、行事の記録や用具の補修で一部に補助を行い、無形民俗文化財保護の間口を広げます。第1号には、「鞴まつり」など5件が選ばれました。

祭り・行事調査の調査委員長を務めたのが、園田学園女子大学の大江篤学長です。

【園田学園女子大学 大江篤学長】
「登録文化財はどちらかというと社会的な価値ですね。地域にとってまちづくりにどれだけ大事だとか、地域の方々にとってアイデンティティの核になる愛着を持っているとか、そういうところを重視した価値づけというか、評価をしているというところです」

三木市の「鞴まつり」で鍛冶職人の先導役を務めた、古式鍛錬技術保存会の実行委員長・魚住徹さん。魚住さんたちの保存会では、まつりの時だけでなく、金物神社で毎月1回、古式鍛錬の公開実演を続けてきました。

【三木金物古式鍛錬技術保存会 実行委員長 魚住徹さん】
「古式鍛錬のむずかしさ、伝統というのをどうやって来た方にアピールしていくか。また、第1号としての威信というか『こういうことだな』とご理解いただくために、我々は身を引き締めて再度今から頑張っていきたいなと思っています」

登録文化財に選定されたほかの行事はこちらです。

新温泉町居組の「精霊船流し」。お盆行事として毎年8月16日に行っています。精霊船と男女二体の大きな人形を、初盆を迎えた家や地区の有志が協力して制作。完成した船には地域の人たちが花や提灯、供え物を飾り付け、焼香を行った後に海へと送り出します。

同じ新温泉町諸寄の「精霊船流し」。毎年8月15日のお盆行事で、精霊船に提灯を掲げ、焼香の後に船で曳航して湾内を巡ります。

朝来市山東町の三保地区で毎年12月に行われる「圓圓和」。子どものけんかを発端に亡くなった2人の母親を神としてまつった大明神に供え物をして、男の子たちが「えんえんわー」と叫んでお参りする行事です。

小野市の黍田町で毎年1月3日に行われる「ハナフリ・ゴツキ」。ハナフリは、町民が集う大歳神社で、自治会長がわらの束に松をくくりつけた「ツト」を両手に捧げ持ち、町内の安全などを祈って左右に振ります。この後、町民たちは毘沙門堂まで移動し、参拝をした後に樫の枝でできた「ゴ」と呼ばれる棒でお堂の床をたたきます。これがゴツキです。ハナフリとゴツキが一連で行われるのは珍しいということです。

【黍田町自治会 平尾豪会長】
「285年も続いている行事なので絶やさないようにね、子どもたちにちょっと覚えていってもらわないとあかんかなという試みでやっています」

黍田町自治会では、行事を継続していくため、「子ども教室」を立ち上げ、使用する道具や食事の作り方を子どもたちに伝えています。

園田学園女子大学の大江学長は、無形民俗文化財を残していくために、登録制度は有効だと指摘します。

【園田学園女子大学 大江篤学長】
「民俗文化財というのは生活の推移を知るということなので、昔のものがそのまま良いというわけではなくて、今の人たちにとって意味があるものになっていくというふうな保存。だから保存だけではなくて、保存・活用していけるというところですね。
特に登録文化財制度というのは、そっちを重点に置いているというところが重要と思います」

 

 

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