7月10日までに新型コロナワクチン接種後の死亡報告として医療機関や製造販売業者から報告があったのは、1780人です。これまで因果関係について認められた事例は1件もありません。ワクチンと死亡との因果関係は評価できないのでしょうか?その現状と神戸市の遺族を取材しました。
副反応疑い報告制度と健康被害救済制度
ワクチン接種後の副反応疑いについては2つの制度があります。「副反応疑い報告制度」は、ワクチンの安全性や因果関係について専門家が評価する制度です。「健康被害救済制度」は、被害を受けた人の救済、補償をするための制度です。
誰がどのように報告・申請をするのか?
副反応疑い報告制度では、医療機関かワクチンの製造販売業者が疑い事例として報告します。医師などが疑いありと判断した事例についてPMDA医薬品医療機器総合機構に報告。情報が整理された後、審議会で安全性や因果関係の評価が行われます。一方で、健康被害救済制度では、被害を訴える人が自ら市町村の窓口で申請します。その後審査されて、医療費・医療手当や死亡一時金などが支給されるかどうかが決まります。膨大な量のカルテなどを取り寄せて申請する必要があり、申請者にとって大きなハードルとなっています。
どれくらいの副反応疑い報告があるのか?
接種後の死亡事例として報告されたのは、7月10日までに1780人です。これまで因果関係が認められた事例は1件もありません。重篤な副反応疑いは、医療機関から7585件、ワクチンの製造販売業者から2万3436件です。厚労省によりますと、重篤な副反応疑いに関しては2つをまとめたデータがなく、一部は重篤ではない事例も含まれているということです。
健康被害救済制度 7月に初めて1件 死亡一時金が認定
続いては、健康被害救済制度です。これまでに3680件の申請があり、うち850件が認定されました。死亡一時金はこれまで認められていませんでしたが、7月25日、アナフィラキシーと急性心筋梗塞で死亡した90代女性の死亡一時金と葬祭料の支給が認められました。因果関係を評価するのは副反応疑い報告制度ですので、ワクチンと死亡との因果関係が認められたわけではありません。
ワクチン接種3時間後の死亡 神戸市の遺族の訴え
2021年5月28日に亡くなった73歳の女性。ファイザーの1回目のワクチンを接種して3時間後に突然亡くなりました。
女性の娘
「ワクチンしかないかなと思います。普通に数時間前はしゃべっていたし、それなのかなとしか思えなくて」
担当医:アナフィラキシーの疑い 病理医:推定・急性虚血性心不全
女性は、午後4時半にワクチンを接種し、帰宅。食事を終えて、午後7時ごろ、胸の苦しさから「横になる」と言ってベッドに向かいました。女性は「ゴー」という低い声を出しながら横たわっていて、女性の夫はかかりつけ医に相談した後、救急車を呼びました。病院に到着したころには女性の心臓が動いていませんでした。女性は高血圧と糖尿病の基礎疾患がありましたが、解剖によって死因は 推定・急性虚血性心不全と診断されました。
遺族「ワクチンが原因だと信じている」 病理医「証拠がなく言えない」
女性の夫
「打ったがために亡くなった。ずっとそれを信じていますからね。ほとんどの先生はこれが原因ですということがはっきりしていますけども、じゃあ証拠はどれですかと言われた時にない状況。だから言えないというようなことになっているわけですよ」
2022年6月に健康被害救済制度で死亡一時金を申請しましたが、1年が過ぎても全く音沙汰がありません。因果関係を評価する副反応疑い報告制度でも、専門家の評価は、情報不足などによって因果関係を評価できないとするγ判定でした。
女性の夫
「(解剖では)今出せるものとしてはこれしかないんです。これやと決めて結果が出ていれば、当然これが原因でこうなったというのは分かるが、そうでない限りはっきり書けませんと」
99%が情報不足などによって因果関係を評価できないとするγ判定
副反応疑い報告制度では、73歳の女性を含め、因果関係を評価できないγ判定が99%を占めています。
女性の夫
「納得いかないですよね。でも、原因は何かってワクチンしかない。それまで寝込んでいませんし、それまでちゃんと食事もしていましたし」
病理医が解剖して因果関係あり28件 すべて専門家はγ判定
厚労省の資料から5月13日時点の死亡報告事例1690人分の概要を調べた医師がいます。名古屋大学名誉教授の小島勢二医師です。1690人の報告のうち担当医が因果関係ありと報告した件数が112件。病理解剖された115件のうち28件は、病理医が因果関係ありと報告していましたが、すべてγ判定だったことが分かりました。
病理医が解剖して出した診断 「否定するには根拠が必要」
名古屋大学 小島勢二名誉教授
「病理の先生が解剖をしてこうだと診断したのに対して、それはそうじゃないよと普通の臨床医は言えない」
病理医が解剖で「アナフィラキシーの疑い」と診断した事例
解剖によって因果関係ありと報告されるもγ判定と評価された事例について見ていきます。1690人のうち13人が死因の報告に「アナフィラキシーの疑い」と記されていました。このうちワクチン接種1時間後に呼吸困難になり、亡くなった80代女性の事例です。
小島勢二名誉教授
「呼吸がおかしいと家族が言ってきたので往診したらその時にはもう心肺停止状態だった。気管挿管をして救命措置をして救命センターに送っていろいろ処置をしたんだけど残念ながら亡くなってしまった」
解剖によって病理医は、アナフィラキシーの疑いと診断しました。しかし専門家は?
小島勢二名誉教授
「(専門家の評価は)解剖したら喉頭浮腫が見られていると、そしてこの喉頭浮腫というのは気管挿管をした時の可能性はあるけどワクチン接種の関与は否定できない」
小島医師は気管挿管の傷か、アナフィラキシーによるものかを病理医が鑑別することは困難なことではないと指摘します。
小島勢二名誉教授
「コロナのワクチンの死亡例の剖検所見としてはどういうことが重要かという論文が出ている。ここではっきり書いてあるのは、アナフィラキシーの診断は、喉頭浮腫があればこれはアナフィラキシーと診断してもいいということ。これが医学的なコンセンサス(合意)なんですね。(専門家の評価は)ブライトン分類はレベル4だからこれはアナフィラキシーの診断は確信できないと」
※8月5日現在 専門家の評価コメントは「ワクチン以外の要因によって心肺停止に至った可能性も否定できないとしている」と内容が更新されている。
レベル4(十分な情報を得られず判断できない)なのか?
アナフィラキシーの評価は、ブライトン分類という指標によってレベル1から5に分類されます。レベル1から3はアナフィラキシー。レベル4は十分な情報を得られず判断できないことを意味します。小島医師は、レベル4と評価された事例のうちアナフィラキシーの疑いが強いものが多く含まれていると指摘します。
小島勢二名誉教授
「例えば、ワクチンを筋肉注射した後5分後に鼻水とかせきが出現。みるみる呼吸困難となり、息ができなくなってしまった事例。これはアナフィラキシーでしょうと。他の診断のしようがないというのが医師の中のコンセンサス。これをレベル4としているわけですね」
臨床試験ではワクチンを打った人と打っていない人に差が認められていない
厚労省は、ワクチンと死亡との因果関係について「現時点ではメッセンジャーRNAとの
因果関係があると結論づけることのできた事例は認められない。統計的に認められた疾患はない」としています。
小島勢二名誉教授
「ワクチンを打った人と打たない人とを比べてみて統計学的に有意にワクチンを打った人が多ければそれはワクチンとの因果関係があると言えるでしょうが、そうでなければこれは医学的には分からないというのが厚労省や専門家の先生が言われていること」
アメリカでは、ワクチンを打った人と打っていない人とを比較し、因果関係を統計学的に検証できる仕組みがありますが、日本ではまだ体制が整っていません。一方で、この方法だと頻度が少ない症例をとらえることは難しいと指摘します。
小島勢二名誉教授
「1億人打って100人起きたどうこうということで統計学的に有意差を出そうというのはもともと頻度の少ない病気に関しては無理な話」
偶発性の検証 ワクチン接種者で比較検証
小島医師が提案しているのは、期間を分けて症例を比較し検証する方法(偶発性の検証)についてです。
小島勢二名誉教授
「同じ方で打ったある期間、例えば接種した後1カ月の間とそれ以降と比べたら明らかに1カ月の方が高いだとか、そういうことで認めようということになるとこれはかなり変わってくると思う」
もしワクチンと死亡や症例との関係がなければ、グラフはなだらかになるはずです。しかし、ここで問題となるのが報告バイアスです。報告バイアスというのは、接種から日が経つほど、担当医が死亡例を報告する確率が低くなるというバイアスです。接種と死亡の因果関係を否定する専門家はこの報告バイアスがあるから「立証したことにはならない」と主張しています。一方アメリカでは、このバイアスを修正できるしっかりとした情報ネットワークがあるため、偶発性の検証によって「心筋炎と心膜炎」について統計学的な差が明らかになりました。
すべての死亡例を把握できればバイアスが解消できる
鈴村泰医師
「すべての死亡例を把握することができれば、報告バイアスは解消されます」
医療情報処理に詳しい鈴村泰医師は、
①国のVRSワクチン接種記録システムとマイナンバーを使うこと。
あるいは
②自治体が保有するワクチン接種台帳と住民基本台帳のデータを照らし合わせることで、
接種後に死亡したすべての人の接種日からの日数を簡単に調べ、バイアスなく統計学的に差があるかを明らかにできると主張しています。そして、報告バイアスを解消して、心筋梗塞や心不全、脳卒中など死亡報告の多い他の疾患についても差を調べてその結果を公表すべきだと訴えています。