2022年05月16日(月曜日) 11:52 報道特集・ドキュメント

難病・脊髄小脳変性症と闘う芦屋のアーティスト

幾重にも重なり合う花びらの奥行。可愛らしいカエルが支えています。

幻想的な森の風景。蝶が舞い力強く生い茂る草木に生命力を感じます。

満開の桜の中で躍動するメジロからは春の喜びが伝わります。

描いたのは芦屋市在住のアーティスト・吉原菜保美さんです。

-作品に蝶は多い?
(吉原さん)
蝶は多いですね。バタフライエフェクトという言葉があって、小さな羽ばたきがやがて大きな波を作るという考え方が好きで創作活動を続けている

吉原さんは6年前から難病と闘っています。

(吉原さん)
最初は精神的なものと違うかと言われながら。でも日常に歩くのもちょっと変だし、なんか自分で思ったように動けない。
こういう先生がいらっしゃるから行ってみたらと言われて、先生が初見で「小脳変性症だから認定下すよ」と言われて。

吉原さんの病名は「脊髄小脳変性症」です。どんな病気なのか主治医を訪ねました。

(高塚クリニック 高塚勝哉院長)
脊髄小脳変性だから小脳の変性疾患で、原因が不明だけれど段々とそこの細胞が死んでいく。それが変性疾患やね。

小脳が萎縮する病気で難病に指定され、国内の患者数は3万人を超えます。実際に吉原さんのMRIの画像を確認してみると、健常な人には見られない小脳の萎縮によるしわがはっきりと映っていました。

(高塚院長)
症状としては麻痺があるわけではない。運動麻痺があってぶらんとなるわけではないが、スムーズな運動ができない。失調と言って目指す場所にいかない。
脊髄小脳変性症は非常にゆっくり進行する病気ですから、転んで骨折して寝たきりになるまではけっこうちゃんと生きられる。

主な症状は歩行時のふらつきや、手の震え、ろれつが回らないなどです。病気になる前の吉原さんは、真っ黒に日焼けするまでテニスを楽しんでいました。

(吉原さん)
去年に比べたら歩くのが長い時間歩けないし、家の中も何かにつたってないと転倒する可能性が高い。
あとは大学で服飾関係の方だったのでデザインとか色彩論とか(習った)。運動はできなくなるけど絵好きだったよなと思って、そこからもう一度絵を始めた。

吉原さんにとって転倒は寝たきりや命に繋がる危険性があり、日常生活にも細心の注意が必要です。

4月、花見に出掛けました。

誘ってくれたのはハンドメイド教室や販売会を開催しながら女性の社会進出を支援するクラス神戸の奥谷佐和子さん。奥谷さんの生徒だったこともあり、個展開催や作品の販売などを手伝ってくれています。

吉原さんは小さい坂や段差などがある不慣れな場所は歩くのに支えが必要です。

(吉原さん)これかわいい。
(奥谷さん)
これかたまってるからピンク色なんかな?咲いたら白くなる?
ポートレートで撮るから(後ろに)ひかんとって、私の顔が大きくなるから。ちょっと暗くない?
(吉原さん)加工したらいけるよ。

自由に出歩くことができない吉原さんがイメージでスケッチすると、こんなことも起きてしまいます。

(奥谷さん)花びら1枚足りない。
(吉原さん)
そう!イメージで最初描いててちゃうわと思って見たら5枚だった。

(吉原さん)
結構きょうとかも手が震えるんですね。真っすぐ線が引けないから細かいストロークで動かしていく感じですね。
日々できることとかこうしたいということができないことが必ずあるのでそこで葛藤はしてます。でも工夫しようとかできることがあるはずと思って、結果的にできなかったことができる喜びがある。

アーティストとして活動する傍ら、吉原さんは主婦として夫や子どもの食事などもこなします。

(吉原さん)
料理好きですね。20数年おせち料理と(家族の食事)を作ってます。
空中戦は結構大変です。前に焼けたチーズケーキを落としたことがあります。

公園から戻り、手作りのケーキでティータイム。

(奥谷さん)うれしい。
(吉原さん)いただきます。チェリーがいい感じ。

吉原さんの心の変化を、奥谷さんは静かに見守ってきました。

(奥谷さん)
思うように体が動かないということで、立ち止まってしまったり涙ぐんだりうつむいてしまったりということもずっとそばで見てきた。
今やっと受け入れてその中でできることを見つけ出してきてるんだなと。今までで一番きれいだなと思います。

蝶を描く吉原さんの絵にはこんなメッセージが込められています。

(吉原さん)
みんながプラスの考え方をもって力を振るわせていくと、マイナスなことにはならないのかな。
小さい羽ばたきを自分としてはしていきたい。それがたまたま絵で表現しているだけ。

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