【特集】阪神淡路大震災で家族4人を亡くした 葛藤の日々

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  • 岡田哲也さん

  • 震災で犠牲となった岡田さんの家族

  • 学生の指導に当たる岡田さん

震災の記憶と向き合うまでに長い時間がかかった人がいます。
西宮市で被災し、家族4人を亡くした男性の27年を取材しました。

部員たちに必ず伝える「あの日」の記憶

関西大学バレー部監督の岡田哲也さん。
非常勤職員を務めながら、週6日ほど女子チームを指導しています。毎年、部員たちに伝えることがあります。あの日の記憶です。
【岡田哲也さん】
「生き残った人は『よかったね』と言われるのはすごくつらくて実は罪悪感しかない。自分だけが2階にいて、姉とか自分の部屋あるけど下で寝てて朝地震が起きて家がつぶれて2階がそのまま空間が残って真下に落ちた。自分が殺したみたいな思いがある」

家族4人の死 生きているのは罪を背負うため

岡田さんは26歳のとき、西宮市で被災しました。
最大震度7を記録する激しい揺れが襲い、木造2階建ての自宅が、全壊。1階にいた父、直之さん(当時56)と母、初江さん(当時53)、帰省をしていた姉の和代さん(当時31)とめいの里紗ちゃん(当時1)、4人が亡くなりました。

【岡田哲也さん】
「震災の時一緒に死んだ方が絶対楽やったと思って、死ねたらよかったのにとずっと思っていた。自分の中で死のうという風に思っていたが死ねなかったのは自分が、もっとつらい人生を生きていかないといけない。罪を背負わないといけない。そういう人間なんだと感じていた」

バレーボールに打ち込み 次第に生まれた葛藤

震災から1カ月後、勤めていた住宅関連会社で再び働き始めますが、
一人になる度、涙を流す日々を送ります。
そんな中でも、悲しみを忘れられる場所がありました。岡田さんが関西大学を卒業後に作った、OBのクラブチームです。
バレーボールとの出会いは、幼稚園に入る前。ママさんバレーをしていた母、初江さんの影響で始め、以来、コートに立ち続けてきました。しかし、次第に葛藤が生まれます。
【岡田哲也さん】
「バレーは単純に楽しいし好きはあるけど、楽しいことや好きなことをやっている自分がダメ。許してはいけないと思ったりとか、頑張ることがだめと思っているし、でも頑張らないと周りには迷惑かけるし」
声をかけてくれたチームメイトに迷惑をかけてはいけない。そんな一心でバレーボールを続けますが、苦しみは募るばかりでした。

幸せになっていいのか自らに問うた日々

岡田さんに転機が訪れたのは、震災から9年目の2004年。小さな地震が起きたときでした。涙が止まらなくなり駆け込んだ職場の医務室で、看護師にある言葉をかけられました。
【岡田哲也さん】
「1人で抱えて頑張ってきたんやねと言われた。自分が生きていくべきなのか幸せになっていいのかそんなことしか考えていない期間やったけど違う視点を持てた」
看護師の言葉で、救われたような気持ちになったという岡田さん。
今度は、同じように悩む人を支えたいとカウンセラーの資格を取り、
心の健康をサポートする立場になりました。
しかし、震災から20年が経った2015年、岡田さんには、まだ葛藤がありました。
【岡田哲也さん】
「自分の中で自分のことを許していいのかまようところはあるけど
でも幸せになろうと思っているので自分を大切に今は精いっぱい生きている

バレーを通して得たかけがえのない存在

あれから6年。岡田さんは、母校・関西大学で、学生アスリートがパフォーマンスを発揮できるようカウンセリングやメンタルトレーニングを担当しています。

一方、葛藤を抱えながら続けてきバレーボールでも、 技術面・精神面を支える立場に。2019年には、関西大学の女子チーム監督に就任しました。

【学生は】
「いつも親身に相談に乗ってくれる。練習中はおとなしくやってくださる。試合中は『いいよいいよ』と盛り上げてくれる」
「自分にとっては家族みたいに感じている。向こうにとっては家族ではないと思うんですけど、なんとなく自分にとっては一人一人人生幸せになってほしいなと思う」

大切な人を失った岡田さんに、今は、家族のように思えるかけがえのない存在ができました。目標に向けひとつになって進むことが幸せに繋がると、2019年、西日本大学選手権では、チームを歴代最高の3位に導きました。

「後悔のない人生を歩んでもらいたい。」
そんな思いから、必ず部員たちに伝えるのが震災の経験です。
【岡田哲也さん】
「生き残ったが助けてない、助けられへんかったが現実的には助けてない自分が殺したみたいな思いがある。じゃあまた明日ねと言っても明日会えるかどうかわからないのが現実。だから悔いが残らんようにしっかりやってほしい。今というのを大事にしてほしい」

【学生たちは】
「毎日楽しく練習ができることも当たり前じゃないと思ったらもっと頑張れる気がしていい機会だなと思う」
「そういう話聞けるのってすごい貴重な体験やと思うし、きいたことは自分の世代や次に伝えられるように考えていけたら」

震災の記憶とともに思いを伝えた日、学生からも、岡田さんに届けたい言葉がありました。
【学生からの手紙に書かれた言葉】
「岡田さんとなら目標を達成できます。これから1年よろしくお願いします」

大切な人を失い、かつては拒み続けた「幸せ」。
震災から27年たった今、ひとつの質問を投げかけました。
ー今、岡田さんは幸せですか?ー

【岡田哲也さん】
「はい、幸せですね。みんなが喜んだりとかそういうの見られるというのも幸せやし、それだけではなくて社会で頑張ろうと思って卒業する姿を見て、そのあとも幸せになってくれるんやろうなというところが見られたり感じられるのがそれがすごく幸せな。許せる許せないとかじゃなくなってきたかもしれない。自分がバレーやっていることとか幸せに過ごしていることが喜んでくれてるんじゃないかと思う」

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