神戸市灘区に聴覚障害者の男性が店長を務めるバーがあります。言語の壁を乗り越えようとする男性の思いを取材しました。
御堂丸浩隆さんは聴覚障害があり、耳が聞こえません。
これまで兵庫県が飲食店などに出していた時短要請に応じてきましたが、全面解除されたこの日から、9カ月ぶりに通常営業を再開します。
神戸市灘区にあるBar poepoe(バー・ポエポエ)は、2018年にオープンしました。
御堂丸さんが店長を務め1人で店を切り盛りしています。
【御堂丸さん】「まずは僕の耳が聞こえなくてやっていけるのか 来店したお客さんとちゃんとコミュニケーションが取れるか不安がいっぱいありました」
バーで働くことを夢見ていたものの、耳が聞こえないことを理由に断られ諦めかけていました。御堂丸さんの背中を押したのは、常連客として通っていたバーのオーナー・大野高さんでした。
【御堂丸さん】「『お前ならできる』と言われてうれしかった。でもやっぱり不安もあった」
【オーナー・大野さん】「僕としては一緒に仕事をやり続けていくうえで一番大事な部分。仕事に対しての気持ち、まじめさが一番買った部分ではあった」
店に立つことを決意した御堂丸さんは大野さんの店で2年間下積みを経験し、どのようにお客さんと関わるか、働きながら学んでいきました。
【オーナー・大野さん】「結構表情がストレートに出てくるので手を挙げてもらったり身振りや指をさしてもらったりという注文方法の方が良いのかなと自然に少しずつ変わっていったような感じ。自分流のやり方みたいなのを少しずつ経験の中で載せていってくれるのかなと思うので きっかけをパスできてよかった」
オープン後、軌道に乗ってきた店を襲ったのが新型コロナウイルスの感染拡大でした。
2020年4月に初めて緊急事態宣言が発令された兵庫県では新型コロナウイルスの情報をより早く、多くの人に伝えようと知事の会見に手話通訳を導入しました。
県のインターネット放送局「ひょうごチャンネル」でリアルタイムで視聴できるようにしています。
しかし、発信される多くの情報の中から、御堂丸さんが自分の店に関わる情報を得ることは容易ではありませんでした。
【御堂丸さん】「いつも緊急事態宣言の制度の内容がギリギリに決定する。それに合わせて僕たちも動かないといけないのが大変でした。自分から情報を取りに行ってわからなかったらオーナーに聞いてみたり個人時営業をしている人に尋ねてみたりして情報を取っていました」
様々な制限や苦労を乗り越えた御堂丸さん。
通常営業を待ちわびた常連客が顔を出してくれました。
ポエポエを訪れるお客さんの多くは耳が聞こえる人たちです。どのようにお客さんとコミュニケーションを取るか正解はなく今でも迷い、悩むことがあると言います。
【御堂丸さん】「お客さんが聞こえる人同士で話している。僕は内容がわからない。お客さんの会話に僕が入りたい。入れてくれ~というジレンマ」
口の動きを読み取ったり、ジェスチャーや表情を駆使したりして御堂丸さんは全身全霊でお客さんと話します。
【常連客の男性】「しんどかったこととかも店に来ると忘れられる。全部吸い取ってくれるお店だと思っています」
【常連客の女性】「紙なり口なり表情なりで結構読み取ってくれるので全然私たちと同じというか、なにも思ったことはないです。ここに来ると普通の人と喋るよりオーバーリアクションになったり感情豊かになる。伝えようと思う」
御堂丸さんの思いはお客さんたちにも伝わっています。
【御堂丸さん】「耳が聞こえる、聞こえないにかかわらずみんなで楽しく集えばいいと思う。死ぬまでずーっとこの店を続けていきたい」
障害があっても、なくても。伝えたい気持ちさえあれば言語という壁を乗り越えていける。御堂丸さんはそう信じています。