日本三大産地のひとつとして加古川市の靴下製造は日本一の技術を誇ります。しかし近年は海外との価格競争の影響で製造会社の数は激減。そんな中、日本一の靴下の魅力を知ってもらおうと、加古川の老舗メーカーが新商品開発に挑みました。
大阪の商業施設4階にあるアパレルメーカーseed one styleを訪れる男性がいました。
カラフルな靴下を手にする田中一成さんは、加古川の靴下製造会社の常務。実はこの靴下は田中常務の数奇な運命によって誕生した奇跡の新製品なのです。
この山とグライダーの刺繍に込められた靴下誕生の秘話とは….。
遡ること3カ月。加古川市の田中さんの会社で、デザイナーの籠谷裕美さんと娘の美桜さんとを交えて新商品開発の会議が開かれていました。
(籠谷裕美さん)
こんなパッケージを考えてみました。箱が小さすぎると思ったけど開けたら2足が並んでいます
籠谷さん親子はデザイナーとして高砂市出身のアーティスト花花の衣装やジャケットなども手掛けます。このデザインの発信力に期待して「女性が男性にプレゼントできる靴下」をイメージしています。
(娘・籠谷美桜さん)
絵はこちらで使われている機械や作業風景が見えたらいいなと思って。でもかわいらしくなりすぎないようにリアルさを入れました。
良質な綿が収穫されていた加古川で靴下製造が始まったのは1886年(明治19年)。田中繊維の創業は1921年でことしはちょうど創業100年の年。田中常務は6代目を担っています。
靴下は、円形に並んだ200本以上の針で立体的に編み上げられます。プログラムされた200本もの針は複雑な模様や文字まで描くことが可能。
(田中常務)
これが一般的な男性の足なんですけども、こういうふうに履かせたときにこれにぴったりフィットするようにものづくりをしています。
こういうところにゆるみがあると履き心地がよくないので、この部分であったりこの部分であったりをぴったりフィットするように作っています。
仕上げは縫い目に合わせて手作業で針を通します。熟練の技が求められるこの作業。縫い目がかさばらず、足へのストレスが軽減されます。
この技術力に支えられ、加古川の靴下生産量はかつて日本一を誇り、今でも紳士物の靴下生産量ではその座を守っています。しかし…。
(田中常務)
この辺りで約300社あったと聞いてます。今で50社程度になっているので6分の1まで減ってます。
海外との価格競争に窮する現在。この窮地を救おうと兵庫県中小企業団体中央会も商品開発を支援します。
(兵庫県中小企業団体中央会 巽さん)
この加古川だけでなく兵庫の靴下製造業は世界的にクオリティが高い。
海外製品に淘汰されているが実際に足を入れてみたら違いが分かると思うので、県の担当者としては発信していきたかった。
打ち合わせが終わり、アトリエでは籠谷さん親子が最後の仕上げに取り掛かっていました。ここで登場するのが山とグライダーです。
田中繊維の創業と同じく100年前の1921年、渡辺信二という若きパイロットが加古川の高御位山から手作りグライダーでの飛行を成功させます。なんと渡辺信二パイロットは田中常務の妻・あやさんの大叔父でした。
材料は揃ったようです。あとはイメージを形にするだけ。
(裕美さん)めっちゃいい。
(美桜さん)山のほうがいい?
(裕美さん)山のほうがいい飛んでるかんじ。山と飛行機っていうのはめっちゃいいと思います。
こうして完成したのが飛行機と山の左右で刺繍が異なる靴下、「グライダーリブ」です。
色彩豊かな10色は売れ行きも好調で初日に12足が売れました。田中常務も満足そうです。
(田中常務)
もう一度原点に帰って物作りを見直していかなければいけない。やっとここまで来たので是非この靴下をできるだけ多くの方に見ていただいて、履いてその良さを実感していただきたい。