兵庫県北部の但馬地域。5月、県立人と自然の博物館などでつくる調査チームがニホンイヌワシの巣がある山を訪れました。目的はイヌワシの生息確認です。
険しい山や谷に棲むとされるイヌワシ。果たして兵庫県内での生息は確認されるのでしょうか。
国の天然記念物二ホンイヌワシは全長およそ2メートル。生態系の頂点に君臨する「空の覇者」です。
しかし、年々その数は減り、国内の生息数は500羽ほど。絶滅危惧種に指定されています。県内では10年以内に姿を消すといわれています。
大型鳥類の保全を20年近く調査する布野隆之研究員は、兵庫県のイヌワシについてかつての豊かな自然が崩れ始めていることが、イヌワシの減少に関係していると訴えます。
兵庫県では人が森を管理して多様性ある豊かな自然を育んできました。しかし、当時畑だったとみられる場所も木がうっそうと生えるなど姿を変えていきます。
かつて15のつがいが確認されていたイヌワシも、今では2つのつがいにまで減少。絶滅の一途をたどる中、去年16年ぶりにヒナが誕生しました。
しかし、喜びもつかの間。ヒナは誕生が確認されてからわずか1ヵ月で姿を消したのです。
実は、巣立ちを前に同じように死んでしまったヒナの剥製が人と自然の博物館に保管されています。
人間の暮らしの変化とともにイヌワシの生息環境も大きく変わっていきます。
この日、布野さんはイヌワシの調査のため、巣がある山を訪れました。去年16年ぶりにヒナを見つけるきっかけとなった手書きの地図も必需品です。
地図を作成したのは、今回の調査チームのひとり、三谷康則さん。県内のイヌワシの観察を48年続けてきたベテラン研究員です。
調査は布野さんと三谷さんのチームに分かれて実施されました。布野さんたちのチームはイヌワシの巣を目指し、道なき道を突き進みます。
水が流れる沢を登り、イヌワシの巣にたどり着くも、巣にはヒナの姿はありませんでした。
人と自然の共生で支えられてきたイヌワシ。数を減らしながら、多種多様な生き物が息づく豊かな自然が失われつつあることを伝えています。