2021年01月26日(火曜日) 17:36 地域・まち

326億円の赤字見込み
新長田再開発の検証報告書が公開

阪神淡路大震災から26年。

現在も続いている新長田駅南地区の再開発を検証した報告書が神戸市のホームページで公開されました。

検証を通して明らかになったこと、そして、商店主らの声を取材しました。

 

神戸の西の副都心と位置付けられた新長田駅南地区の再開発事業。

甲子園球場5つ分と、西日本最大規模で現在、41棟のビルが立ち並んでいます。

震災から26年経った今も再開発は終わっていません。

 

【兵庫県震災復興研究センター 出口俊一事務局長】

「このシャッターが下りたままのこの状況をどうしたらいいのか。そこのところの切込みが必要だと思うんですね」

この再開発を調査してきた1人。兵庫県震災復興研究センター出口俊一さんです。

「なかなかお金の収支の問題、事業収支は出てこなかったですね」

有識者による検証が始まったことをきっかけに出口さんがこれまで情報公開請求をしても出てこなかった情報が明らかになりました。

神戸市が所有する商業床の6割が売れ残っていて、今後すべて売却できる想定でも赤字額が326億円。売れなければ、赤字は500億円まで膨れ上がります。

 

【神戸市都市局 吉田亮浩 再整備担当部長】

「地価の下落がかなり進んだこともありまして結果的には事業収支が悪化していった」

震災後、神戸市は11カ所の区画整理。そして、新長田と六甲道の市街地再開発事業を進めてきました。

当時、東の副都心と位置付けた六甲道駅南地区の再開発も。

 

【神戸市都市局 吉田亮浩 再整備担当部長】

「14億円の収支マイナスだったと聞いております」

六甲道の再開発は2005年度に完了しましたが、新長田の完了は震災から28年後となる2023年。事業完了を前に神戸市は有識者による検証を行い、1月25日、報告書が公開されました。

2020年8月、神戸市は有識者会議を発足。新長田の再開発を検証してきました。

座長を務めた兵庫県立大学大学院の加藤恵正教授は?

【兵庫県立大学大学院 加藤恵正教授】

「大きな目標というのはそれなりに達成された。

①近々に住まいを再生していく(被災者の早期生活再建)

②安全・安心のまちづくりをしていくということでおおむね達成されたと思うんですけど、その間、現在もなお課題が残っているのは事実だと思います」

 

1月25日に公開された検証報告書。まず争点となったのが2カ月という短期間で都市計画を決定したことについてです。

土地と建物を神戸市に売り、町を出ていくか、再開発ビルの区画を買い戻すかの選択を迫られた第2種市街地再開発事業。建築を制限できる2カ月の期間が特別措置法によって2年に延長されましたが、神戸市は2カ月での決定に踏み切りました。

検証報告書には、1日も早い生活再建が必要だった背景や住民との妥協点を探りながら進められてきた経緯が記されています。

【2020年12月 神戸市の記者会見 加藤教授】

「目的はこの事実をきちっと整理することで、市の決定についてこれが良かったか悪かったかという判断を私どもは行わない」

 

【2020年12月 神戸市の記者会見 久元喜造神戸市長】

「被災された方々に戻っていただく、そういうような住居、商業施設を緊急につくる必要があるというギリギリの判断をしたということだと思います」

また約20ヘクタールの再開発の規模も争点に。

中でも地下1階から地上2階まで、新長田と駒ヶ林駅を3層で結ぶ構想は人の流れを分散。行政内部でブレーキをかける者はいなかったと指摘しています。

【2020年12月 神戸市の記者会見 久元喜造神戸市長】

「私も副市長で来た時に(神戸市の職員から)神戸市が自慢の3層構造ですと紹介されたのを覚えていますから。(今後)新長田の駅前広場をつくる時に、3層構造はやめたほうがいいのではないかと言った。人の通行を分散することになるわけです」

 

再開発によってマンションが増え、居住(夜間)人口は震災前の1.4倍に。

一方で、商業床は半数以上が売れ残り、ケミカルシューズ産業がこの地域で再建できなかったことなど賑わいに課題が残ると指摘しています。

 

326億円の赤字については?

【兵庫県立大学大学院 加藤恵正教授】

「ここははっきりと赤字を問題にすべきだという視点。やはりこれだけの巨大な災害が起きて長期にわたる復興であるのでこれは致し方がないのではないかと。この辺りは議論が分かれた」

事業が長期化したことによって地価の下落や社会経済情勢の影響を受けたと判断。責任の所在は記されていません。

これに異を唱えるのが26年前、市と県の都市計画審議会で2カ月での決定に反対の意見陳述をした出口俊一さんです。

 

【兵庫県震災復興研究センター 出口俊一事務局長】

「当時、意見陳述をする時に都市計画の担当職員から 私たちに任せていただいたらいいんだと断言されていましたから、そしたらいい街ができるんですと。それほど自信を持っておられたのだと思いますけどね。それだったらそれなりの責任、私はあると思います」

 

報告書を見た商店主は?

【大正筋商店街で飲食店を経営する横川昌和さん】

「中身がなんにもない。これ中身なんにもない!失敗と認めてよ。失敗と認めたら我々もこんな文句言いませんわ。管理者も。いらんところにいらんもん持ってくるからや」

 

【兵庫県震災復興研究センター 出口俊一事務局長】

「費用のかかるまちをつくってしまった」

エレベーターや街灯の電気代など、下町時代には必要のなかった管理費が年間45万円(横川さんのお店)。固定資産税も震災前の3倍の45万円に。

 

【大正筋商店街で飲食店を経営する横川昌和さん】

「費用のかからないような下町が魅力のところに、費用のかかるような商業施設、お金をかけていないとここで商売できていないというシステムがここ(報告書)に書かれていないから」

再開発は残り3棟。2年後には看護や歯科衛生士などの専修学校のキャンパスが。

2021年3月末には地下街に卓球場が開業。

神戸市は地下街を魅力的に改装することと、駅前広場の再整備を計画しています。

 

【兵庫県立大学大学院 加藤恵正教授】

「神戸市に期待することは、せっかくできた再開発の建物を使いこなしていく。使いこなしてまちを動かすということに全力投球していくことが必要かなと」

報告書では、事業完了の50年後(2073年)に79億円の税収増と見込まれています。

神戸市はこの検証をどう生かし、新長田をよみがえらせていくのか手腕が問われています。

 

 

神戸市のホームページ(新長田駅南地区震災復興第二種市街地再開発事業検証報告書)

 

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