20年前、地域の取材であちらこちらを回っていたときに耳にした、「薪(まき)で焼いているお好み焼き屋さん」。
食べてみる価値ありと、訪れたのは和田岬の「お好み焼き 高砂」。

【「お好み焼き 高砂」=神戸市兵庫区丁目】
狭い店内にぎっしりの客。その中で働くのが安田和子さん(70)、竹島八重子さん(62)、谷喜代子さん(51)の3人。
店内左手には鉄板を囲むように客が座り、黙々とお好み焼きを食べていた。その鉄板の火力が、ガスではなく薪なのだ。その熱量を物語る太い煙突が、天井へ伸びていた。

【窯から伸びる太い煙突も熱い】
阪神淡路大震災で店は倒壊。店をたたむしかない、と途方にくれていたが、馴染み客らの励ましで再開を決意。がれきの中から救出したのが、近くの造船所で作ってもらった鉄板と換気扇だったという。

【がれきの中から救い出した鉄板と換気扇】
この「高砂」を20年ぶりにのぞいた。
迎えてくれたのは店を切り盛りしている谷喜代子さん。お元気な71歳だ。取材で訪れた当時の話しをし、その後の様子を伺った。90歳を超えた安田さんも毎日顔を見せているそうだが、竹島さんは亡くなられたと。
メニューはすじ焼き、そば焼き、オムそば、豚玉などおよそ20品。

【あっという間に焼けるモダン焼き】
その中からチャンポンもだんを注文したが、あっという間に焼き上がった。薪を使うので火力が強く、さらに分厚い鉄板が熱を蓄えるのだと。

【鉄板に流れ焼けたソースの香りが、たまらない】
「冬はええけど、夏は暑くてあかんわ。お客さんも一緒や」と谷さん。
店で食べずに持ち帰る客が多いという。しかしこの鉄板のおかげで待たせることなく、まとめて焼くことができるのだそうだ。
強い火力で一気に焼くから、お好み焼きのおいしさは格別だ。
グルメレポート風に書くと、さっくりふわふわの歯触り。さらに、余計な水分が蒸発し、キャベツ本来の甘みが主張している、と。

【店の外に積み上げられた薪】
薪をくべる窯を見せてもらった。扉を開けると中は赤々と燃え、熱波が押し寄せた。この前に立ち、一日中お好みを焼くのは大仕事だ。窯から大きくせり出した煙突もかなり熱く、壁とのすき間を通るのも危険を感じるほどだ。

【窯の扉を開けると真っ赤な薪が見える】
ガスを利用するよりも燃料費は高くなるそうだが、先々代から続けてきた薪を使った焼き方を替えるつもりはない。体が動く限り焼き続けたいという谷さん。
まだまだおいしいお好み焼きを焼いてくれそうだ。次は鉄板の前がありがたい季節にお邪魔します。20年先に来れる自信はありませんので。
「お好み焼き 高砂」
神戸市兵庫区和田岬町3丁目4-9