29年前の震災で番組が休止 放送されなかった神戸市須磨区の伝統行事「翁舞」

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1995年1月にサンテレビが取材しながらも、阪神淡路大震災の発生により放送されなかった、神戸市内の伝統行事の映像がありました。29年が経過した今、貴重な史料として初公開します。

この映像は、サンテレビが放送していた番組『ふるさとステーション』で、阪神淡路大震災発生のために未放送となっていたものです。

『ふるさとステーション』は、兵庫県内各地を文化人やタレントの皆さんが訪ね歩く紀行番組でした。

1995年1月12日と14日に、版画家の岩田健三郎さんが、神戸市須磨区の車大歳神社に伝わる「翁舞(おきなまい)」を取材。

1月22日の放送に向け、編集も終わっていましたが、17日に震災が発生。震災報道に対応するため、番組は休止となり、4月に番組が再開された後も震災前の映像を放送する状況ではなく、29年間お蔵入りしていました。

サンテレビは1995年以降、この翁舞を一度も取材していなかったことから、未放送の映像は貴重な史料となりました。

そこで、震災29年に合わせて、今まで眠っていた映像を初放送します。

1995年1月12日。この日は最終の稽古です。

★当時の保存会会長 岡肇さん

岩田さん「正月の毎年日にちは決まっていますか?」
岡さん「1月14日夜7時からです」
岩田さん「1月14日はお正月が終わりかかっている?」
岡さん「そうですね。この行事が済んでのあくる日が『とんど正月』といって『とんど』をします」

翁の面をつける「大夫」役の福田稔さんに、リポーターの岩田さんが舞を習いました。

1月14日。本番に備えて福田さんら演者が衣装を身に付けます。

岩田さん「大夫(翁役)をされますが一番の主役ですね?」
福田さん「そうです」
岩田さん「衣装を着けたらまた違いますか?」
福田さん「違います。衣装着けただけで緊張しています」

厳しい寒さの中、演者たちは舞殿で演奏と舞を繰り広げます。

翁の面をつけた大夫が天下泰平と五穀豊穣を祈ります。

少年が扮した露払いと三番叟。

大夫は最後にもう一つ、「父尉(ちちのじょう)」の面をつけて舞を奉納します。この場面を演じる翁舞は大変珍しいということです。

29年前のリポーター、岩田健三郎さんに映像を見てもらいました。

★岩田健三郎さん
「覚えてます、覚えてます。はい!覚えてます。下手やったんや。何回もこれ撮り直ししたんや」

スタジオでの収録が中止になったことについてたずねました。

★岩田健三郎さん
「地震のショックが大きすぎてね。とてもじゃないけど、スタジオに行かないとあかんとかいうことも吹っ飛んだんだと思います」
「いま映っていた方たち。踊っていた少年も含めて、どうしても年齢を見ますね。お元気なんだろうか?
もちろん(震災)被害を受けてる人たちなんですけど」

現在の神戸市須磨区車地区です。

この地域の震災の被害について、翁舞保存会会長の椿原勇さんに聞きました。

★翁舞保存会会長 椿原勇さん
「家の屋根瓦、この辺はもうみな飛んでしまってね。
屋根屋さんが、被害にあってるところの屋根を直していた記憶はあります。」
「本殿の土台がひび割れしたりとかいうことが実際に起こっているんです」

神社の本殿の土台に震災の傷跡が残ります。

翁舞は現在も継承されています。2000年には国の重要無形民俗文化財に格上げされました。

ことしも1月14日の本番を迎え、準備が進んでいました。

29年前に大夫を演じた福田さんたちに、当時の映像を見てもらいました。

★1995年の大夫役 福田稔さん
「こんなことしとったかいな、30年前。」
「思い出しましたね。懐かしいです。もうサンテレビさんが来られたの忘れていました」

ことし、大夫を演じる岡雅之さんは、29年前の保存会会長・岡肇さんの息子で、当時は笛の奏者として参加していました。

★ことしの大夫役 岡雅之さん
「実はあの時(1995年)、私が初めて翁舞に出させてもらった年なんです」
「(当時のお父様のインタビューを見て)あの後、6年後ぐらいに亡くなりましてね。
きょう、この後の本番で私が大夫をさせてもらうということで、一目でいいから見てほしかったな、見させてあげたかったのが本音です」

翁舞が演じられる舞殿は数年前に改修工事が行われ、きれいになりましたが、行事の存続は難しくなっています。去年は少年役の調整がつかず、翁舞は中止になりました。

★椿原さん
「子どもさんの役が。子どもがおらへんのですよね。昼間歩いても(子どもを)見かけることが少ないのが現状」

2年ぶりの翁舞。

今回から舞殿の演者は、木のいすに座る形式になりました。高齢者が増えたことへの対応です。

多くの住民が見守る中、新しい形の翁舞が披露されました。大夫の岡さんは、父への思いも込めて、舞を奉納します。

★岡雅之さん
「やはりホッとした感じです。
我々の代で途切れさせたらあかんという気持ち。きょう、特にそういう気持ちになりました」

震災にも負けず、継承されてきた車大歳神社の翁舞。地域の過疎化、少子化に合わせ、どう変化していくのかが課題です。

★椿原さん
「いかに翁舞を存続させていくかということが一番難しい。
今はもう男子の方ばかりなんですけど、女性も登用してはどうかという話も出てきてますので、さらに議論して検討して、何とか残していきたい」

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