姫路市の「見野の郷交流館」で開催中の作品展。昭和の日常を切り取ったジオラマ作品が並んでいます。笑顔に満ち溢れた人形たちは、今にも動き出しそうです。
これらを制作したのは、たつの市に住む人形作家のわたべみちこさんです。
こちらの作品は、去年、兵庫県内の美術公募展「県展」で県民賞を受賞した「花嫁のかどで」。華やかな着物をまとい嫁入りに行く花嫁と、それを見送る人たちの様子を表しています。
【人形作家 わたべみちこさん】
「全体的に2年かかってます。昭和時代の私にかかわった人たち、出会った人たちの顔を思い浮かべながら作っていった。
どうか幸せになって欲しいという、笑顔がいっぱいの花嫁の門出になっています」
作品展を訪れた人も、当時の生活に思いを馳せます。
【作品展を訪れた人は―】
「昔を思い出す。私らこんなだったもん、結婚するときな。みんな玄関の前で見とって。昔懐かしいのばっかりで何とも言えん」
会場には、現代社会の風景を表現した作品も。
コロナ禍で出歩くことができず、ベンチに腰掛け大口であくびをする高齢男性。その隣では、少し間をあけてもう一人の男性が退屈そうにしています。タイトルは、「毎日が日曜日」。言葉を交わすことはなく、のんびりとした時間だけが流れていきます。
【わたべさん】
「今は亡き夫と亡き父親がコロナ禍でこの世にいてたら、こういう風にどこにも行けずに、それぞれがものも言わずにぽつんとしてるんかな、毎日日曜日してるかなと思って、それを再現しました。
できるだけ細かい部分も手作りでやって、それをひとつひとつスリッパとか猫とか、細かいところに表現力を出したいなと思って、それで作っております」
わたべさんの作品の特徴は、しわのひとつひとつから、血管の一本まで作り込まれたその精巧さ。衣装や小物のほとんどを手作りするいうこだわりです。
作品は、たつの市にあるわたべさんの自宅で作られています。
使用するのは石粉粘土と呼ばれるもので、きめが細かく、滑らかな質感が特徴です。乾かしては微調整を繰り返し、思い通りの顔へと成形していきます。顔の形が定まったら、しわを一本一本入れていきます。
【わたべさん】
「気になるところはとことん突き詰めてやりますからね。ちょっとこのおじいちゃん、口がちっさすぎましたね」
わたべさんが人形作りを始めたのは、40年以上前のこと。元々は西洋人形作家として活動していました。
昭和の風景を作品にし始めたのは、あるきっかけがあったといいます。
【わたべさん】
「今から13年前に、私にとったらしんどい大変な病気をしまして、それで痛みと眠れない日々が続いた。だから、あまり人形も作るような状態じゃなくて、痛みとの闘いの日々だった。
そんなときにうとうとしてたら、朝方に昭和の夢を見たんですよね。きっとこれは、自分の好きな昭和時代を題材に人形を作りながら、病気とともに頑張れという意味だと思って、それで頑張ろうと」
痛みを抱えながらの作品制作。心の支えになったのは、18年前に亡くなった夫・喜信さんの言葉でした。
【わたべさん】
「しっかりした人で頼もしい旦那さん。厳しさもあるし優しさもあるし、そういう夫でした。
主人は亡くなる前に『自分の好きな人形を作って人の役に立て』『作品を見てもらって、自分も癒しをもらって生きていけ』というのが主人の遺言だったので。それで頑張ってきたんです。
これからそれで生きていけよという宿題を残されたかのような感じで。」
これまでに作った人形は100体以上。多くの人に見てもらえるようになりました。
【わたべさん】
「親戚を思い出して泣く方もいらっしゃるし、『笑顔になるわ』と皆さんも言ってくださって、私もやりがいがあったなと思って。
主人が言ったように『お客さんから励ましをいただいてやっていけ』というのはそのままなんですよ。だから、これからも頑張っていきたいなと思っています」
わたべさんは、これからも亡き夫・喜信さんの言葉を胸に作品を作り続けます。