52年前の2月2日、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する国際条約=ラムサール条約」が採択されました。豊かな湿地を保全することを目的としたこの条約には、兵庫県では唯一、豊岡市の円山川下流域と周囲の水田が登録されています。
豊岡では、長年、湿地を生息地とするコウノトリの保護が続けられていて、その活動の中心にあるのが「兵庫県立コウノトリの郷公園」です。
主任研究員の出口智広さんに現在の保護活動の状況を聞きました。
【出口さん】
「2005年の放鳥開始から順調に数が増えていて、17年経って(野外個体が)300羽を超えたという状況です」
国の特別天然記念物に指定されているコウノトリは、極東地域にだけ生息する水鳥で、かつては日本全国に分布していたといいます。
しかし、年々数を減らしていき、1971年、日本での野生のコウノトリは絶滅しました。
【出口さん】
「兵庫県では捕獲して数を増やそうと取り組もうと思ったんですけど、20年、30年というつらい歴史があったと聞いております」
豊岡市でコウノトリの保護が始まったのは1950年代のこと。はじめは餌となるドジョウの放流や、人工巣塔の設置などで野生の個体を増やそうと試みましたが、思ったような結果は出ず、1965年、捕獲した野生のつがいを人工飼育で増やそうという取り組みが始まりました。
しかし、捕獲されたつがいは、当時使用されていた農薬に含まれる水銀の影響を受けていて、生まれたひなが長く生きることはありませんでした。
そこで旧ソ連のハバロフスクから野生の幼鳥を6羽譲り受け繁殖させる新たな計画がスタートしました。絶滅から14年が経った1985年のことです。
懸命な飼育の甲斐もあり、4年後、一組のつがいが元気なひなを生みました。人工飼育を開始してから20年以上が経って、兵庫県で初めて繁殖に成功した瞬間です。
それからは毎年順調にひなが誕生し、2005年からは飼育していたコウノトリの野外放鳥も始まりました。
現在、国内では野外と飼育、あわせておよそ400羽に達します。しかし、数が増えるにつれ起こる問題があると出口さんは言います。
【出口さん】
「数は増えているんですけど、生まれた子供が繁殖に至る前に死んでしまうケースが非常に増えています」
コウノトリはなわばり意識が強く、また、1年で4羽ほどのひなを生むため多くの餌を必要とします。そのため、新たな生息地を求めて市の外に飛び立っていったコウノトリが、感電の危険性がある電柱の上に巣を作ったり、防獣フェンスにぶつかって死んでしまう事故が確認されているといいます。
【出口さん】
「豊岡にしか良い環境がなければ過密になってしまい個体同士の摩擦が増えてしまいますし、外の方では良い環境がなくて事故で死んでしまう。なかなか今難しい状況」
現在はさまざまな研究機関や自治体が協力して課題を解決するため委員会が設立され、コウノトリが生息できる餌が豊富な自然環境の再生や、人工巣塔の設置などが全国各地で進められています。
コウノトリの保護活動のその先にあるものとは。
【出口さん】
「もともとコウノトリの野生復帰の目指しているところは、コウノトリだけがいればいいわけじゃない。人とコウノトリが暮らしていた環境を戻すということがゴールだと思う」
日本各地で人の暮らしと共存し、巣を作り、繁殖する。コウノトリの郷公園が目指す「真の野生復帰」はまだまだ先の話です。
コウノトリが再び日本中の空で羽ばたくその日まで、保護活動は続きます。