なぜ学び続ける?精道小学校の震災学習

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阪神淡路大震災を学び、語り継ぎ続ける小学校があります。なぜ経験していない震災を学び、語るのか?自らに問いながら取り組む震災学習を取材しました。

元気に遊ぶ子どもたちの傍らに、ひとつの碑があります。刻まれているのは、かつてこの芦屋市立精道小学校に通っていた8人の児童の名前です。

1995年1月17日。早朝に発生した未曽有の大地震は6434人の命を奪いました。精道小学校がある校区では、通っていた1年生から6年生の児童8人と保護者6人を含む156人が犠牲となりました。

【地震で長男と長女を亡くした 米津勝之さん】
「命を受け継ぐものとしてできること、それは何か。漢之と深理が生きてきた存在を伝えることではないかと思う。」

亡くなった児童たちを忘れないために、精道小学校では1年生から6年生までの全校児童が震災学習に取り組み、毎年1月17日には学校が主催する追悼式を開いています。

【精道小学校 教諭 井口知奈美さん】
「追悼式を6年生が進めることにより、命の大切さや人と人のつながりの大切さを語り継ぐ機会とする目的で進めていきたいと思っています。」

精道小学校の学習教育を担うのは、学校が独自に置く「防災担当」の教諭です。今年は、去年異動してきた井口知奈美さんが担当することになりました。井口さんは1993年生まれ。震災を経験したものの、記憶には残っていません。

【井口さん】
「どう伝えると子どもたちの心に届くのか、残るのか、真剣に一緒に考えていけるのかというところは、すごく不安というか悩みがあります。
記憶がない自分、経験をしていない子どもたちと同じ目線で一緒に勉強していってる。」

11月、ことしも震災学習がスタートしました。中でも最高学年の6年生はこれまで重ねてきた学習に加え、この2か月間で集中的に震災について学び、ひとつ下の学年に伝えます。亡くなった児童のことを忘れない精道小学校が続けてきた取り組みです。

この日、6年生の児童たちは遺族の米津勝之さんから話を聞きました。米津さんは、震災で精道小学校1年生だった長男の漢之さん(7)と幼稚園に通っていた長女の深理(5)さんを亡くしました。

【米津さん】
「なんで自分だけ生き残ったんだということが大きな後悔としてあって、そこから感じたことは、これからどうしたらいいねん。
子どもはいなくなってしまって、家は全部潰れてしまった。どうやってこれから生きていこう。生きていって何したらいいんだ。(この先)笑えることがあるのかと思ったりもしました。」

【児童】
「話をすることはどう思っているのか。つらいのか、つらいけれど伝えたいのか。」
【米津さん】
「一緒の部屋にいて自分だけ助かってしまった。子どもたち2人は亡くなってしまった。そこをじっくり喋ろうとすると、ひょっとしたら喋れなくなるかもしれない。
漢之とか深理が生きていた時のこともよく覚えているから、思い出してもすごく悲しくもあり、思い出せることがうれしいこともあるんだけれど、そこは結構複雑。」

【米津さん】
「(ランドセルは)1月17日に学校に行こうと準備をしたままになっている。でも震災で学校に行かなかったから、削ったままの鉛筆がここに残っている。」

震災の記憶がない井口さんは、学び伝える理由を何度も自問自答し、この授業を迎えました。

【井口さん】
「これからの学習の中で、子どもたちが大事にしたい思いとか、自分の思いを持っていくために、どういう言葉が出てくるのかなと考えて、問いかけ方をメモした。
こちらが押し付けで代々やっているから、語り継ぐ会をしないといけないという形で進めたくなくて。自分が主体となって伝える活動をしてほしい。」

児童たちにも、なぜ震災を学ぶのかを考えてほしいと問いかけます。

【井口さん】
「どういったことを5年生に伝えたいか?」
【児童たち】
「5年生にも伝えるけれど、自分の中でも忘れないことが大切だと思う。」
「語り継いで終わりではなくて、そこから対策することで自分の命も守れるし、他の人の命も守れるんじゃないかと思った。」
【井口さん】
「今から行う阪神淡路大震災の学習の中で、失われた命や被災者の思いをしっかり考えて、語り継ぐことで自分の生き方を見つめ直す。
こういうことをこれからの学習課題にして進めていくということでいいですか?」

震災を知らない子どもたちと教諭はこれから何を学び、伝えるのか。学習はまだ始まったばかりです。

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