人工内耳のベーシスト 仲間とともに新たな夢へ

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ことし5月、雲ひとつない青空の下で開かれた「しそう森のバザール」。新型コロナウイルスの影響で3年ぶりの開催となったこの日、ひと際会場を熱気で包んだのが、ロックバンドの「Bamboo Lily(バンブーリリー)」です。

Bamboo Lilyは宍粟市を中心に活動し、2018年からは宍粟市の観光大使として地域振興に貢献しています。

そんなバンドのベースを担当している、ヘアバンドがトレードマークの男性・内海恵介さん。内海さんは「進行性感音性難聴」という聴覚障害を患っています。

(内海さん)
ほんまに久しぶりなので、ものすごく楽しかったですね。それに向けて練習も一生懸命頑張ってきて。満足できる内容ではなかったですけど、とにかく楽しかったです。ほんと楽しかったです。

内海さんはベーシストでありながら、普段は大工として働いています。

内海さんは、幼いころから「か」や「は」の「あ段」が全て同じに聞こえるなど音が聞き取りづらく、成長するにつれて悪化していきました。

(内海さん)
会話となったらなかなかついていけないみたいな。聞き取りにくいみたいな。
小学校の聴力検査ではボタンを押した記憶はないなと。でも、あまりその時は普通に話はしていたみたいなので、親もそんな深刻ではないかなみたいな。

内海さんは兄の影響で、中学生の時にベースを弾き始めます。

聴覚障害と診断を受けたのは高校1年生の時でした。補聴器をつけ始めましたが、父親もつけていたということもあり、抵抗感はありませんでした。

(内海さん)
めちゃくちゃ聞こえました。びっくりするぐらい。いままでそれだけ聞こえてなかったんかみたいな感じで、とても聞こえましたね。片耳だけだったんですけど、その時は。

高校卒業後は父親の背中を追い大工として働き始め、持ち前の明るい性格で仲間からも慕われています。

(大工仲間 小池直也さん)
仕事関係で知り合って、僕が困っとったときに一番に助けてくれた恩人というか先輩というか。
(大工仲間 西塚勇貴さん)
何するにも本気ですね。まじめに真剣に取り組んでいる人です。ねえ、内海さん?
(内海さん)おう、よう分かっとる。
(西塚さん)
いろんなことを教えてくれるので、結構ためになりますね。

父と2人で作ったこの工房の奥には、バンドの練習ができるスタジオもあります。

Bamboo Lilyは地元の音楽仲間で2016年に結成。宍粟市の祭りやイベントに積極的に出演し、ワンマンライブも行うなど、活躍の場を広げていきます。

しかし、バンド結成から3年が経った2019年、難聴が進行してますます聞こえづらくなり、内海さんは手術をして「人工内耳」をつけるという大きな決断をします。

人工内耳とは、頭に埋め込んだインプラントから蝸牛へ信号を伝え、脳が刺激を音として解釈する仕組みです。

(内海さん)
「聞き取れる」ということがすごく魅力的で。いまよりも聞こえるなら聞き取れるなら、これはもう選択するしかないでしょみたいな感じです。迷いはなかったです。

(Bamboo Lily ボーカル 森田圭さん)
バンドとしては存続の危機に関わる危機やったね、あれは。人工内耳したところでバンドができるかどうかも分からんかった。
でも、恵介の生活がバンド以外のところで大きく変わるんだったら、もうやらん手はないだろという話で。

手術のあと、現在の生活になるまでおよそ2年かかり、現在もリハビリは続いています。

人工内耳にしてから人の声が聞き取りやすくなり、会話もスムーズにできるようになりました。しかし、バンドの演奏ではこれまで聞き取れなかった高音のシンバルやボーカルの声が入ってくるようになり、逆に自身が奏でるベースの音が聞こえなくなりました。

-ベースの音が聞こえなくなってしまったことに対しては?
(内海さん)
いや、もう上等ですよ。聞こえるようになるまでやりますよという感じ。
基本的にプラス思考なので。
だから神は僕に試練を与えたみたいな。そんなすんなり聞こえさせねえよみたいな感じ。

(森田さん)
人工内耳をつけて初めて俺の声を知ったって言ったもんな。こんな歌声で歌ってたんやって(言われて)びっくりしたもんね。
恵介って演奏できればいいっていう節あったやん。演奏できれば楽しいからそれでいい。それがここへきて初めて恵介がバンドとしてこれがしたいということを言い出した。それは俺らにとっては嬉しい話。

人工内耳は音を拾う装置を磁石で装着するため、激しい運動で落下する欠点があります。内海さんは試行錯誤の末、バンドの演奏中はヘアバンドをして落下を防いでいます。

(内海さん)
やっぱり音楽していると頭振ったりとかするので、その落下防止でヘアバンド。僕のチャームポイントみたいになってもうたね。

内海さんはいま、自分と同じ境遇の難聴の子どもたちに何かできないかと、誰でも簡単に音楽を楽しむことができる楽器の制作を進めています。

さらにBamboo Lilyでは、国からの支援がなくて補聴器も人工内耳もつけられない、世界中で困っている難聴の子どもたちのためにチャリティーライブを計画。ことし7月には観覧無料のワンマンライブを行う予定で、会場には募金箱を設置します。

(森田さん)
恵介が人工内耳をつけてできるようになった、このバンド活動の俺らもびっくりしておもしろい経験をさせてもらった。
これをいま耳が聞こえにくくて困っている子らも、同じようなびっくり体験、おもしろ体験をしてくれるようにつながっていったらおもしろいね。

障害と向き合い、自ら決断した道を信じて。内海さんは新たな夢を胸に、これからも仲間とともに走り続けます。

(内海さん)
人工内耳外すと何も聞こえないので。やっぱり聞こえない子どもたちの気持ちは僕が一番分かりますから。それを想像したときになにかできることはないかなというので、カホン(楽器)を作ったりとかチャリティーライブをしたいなとかを目標にしています。

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