誰も経験したことがない異常事態。
「試合がないもん!」「今できて何になるんだろう」
もがき、苦しみながらも走り続ける二十歳のランナーに小林祐梨子さんが迫りました。
4月1日にオープンした「小野希望の丘陸上競技場」。全天候型の400メートルトラックを備え、東京オリンピックの聖火リレーで小野市のゴール地点になる市民の夢が詰まった施設です。
「おはよー」
やってきたのは陸上女子中長距離の東京オリンピック代表候補田中希実選手、20歳。小林さんと同じ小野市の出身です。
高校時代は駅伝の名門、西脇工業のエースとして活躍し、大学進学後、「豊田自動織機トラッククラブ」に所属。コーチを務める父、健智さんと二人三脚で力をつけてきました。
そして去年、初めて世界選手権に出場すると5000メートルで日本歴代2位のタイムをマーク。東京オリンピックの参加標準記録も突破し、他の種目でも自己ベストを連発するまさに「飛躍」のシーズンでした。
「拍子抜け。信じられない」
勢いをもって迎えたオリンピックイヤー。ところが。
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により開幕戦となるはずだった2月の国際大会が中止に。
それでも、田中選手は暖かいニュージーランドに渡って調整を続け、今シーズン最初のレースで好タイムを記録。逆境の中、順調なスタートを切りました。
「手応え。4月にドーン」
しかし、沖縄や兵庫県内で合宿を重ねていた3月、東京オリンピックの1年延期が決定。出場を予定していた試合も全て中止や延期となり、大きな試練に直面しました。
「本音聞いてみたい」
史上初のオリンピック延期。
陸上女子中長距離で初出場の期待がかかる田中希実選手は、北京オリンピック代表の小林祐梨子さんに素直な胸の内を語ってくれました。
「五輪目指してやってきたわけじゃない」
「大会ないから自分の力が分からない」
「五輪より大会ないことがショック?」
「今年なら(五輪代表の)確率高かったけど…」
父でコーチの健智さんは-。
「直近も最終目標も見えない」
「日本記録でモチベーション維持してる」
「日本記録更新」を合言葉に、地元小野で再出発を切った田中親子。レベルアップを図るため、連日厳しい練習メニューに取り組んでいました。
ところがこの日は、強風に加えて一般利用者が多く、自分のペースで走ることがなかなかできません。そして。
「無理、無理やで」
「逆境に対応できないと」
「試合と言うけど試合がないもん」
練習を中断し、引き上げてしまいました。
「葛藤している。血がつながってる分難しい」
10分後、練習を再開した田中選手。
集中力を高めて自分を追い込み、最後まで走りきりました。
「上出来、できたやないか」
「精神的に強くなりたい」「スタートラインに立つのがしんどい」
「田中選手から聞きたいことは?」
「練習できなくて不安になることは?」
「自分のリズムで出し切るのがラク」
先が見通せない中、自分と向き合う二十歳のランナー。
「自己ベスト狙えるように準備」
真の強さを求めて走り続けます。