―高校の先生になりたい。アナウンサーを辞めて勉強する。
えっ…なんて!?
ABC清水次郎アナウンサーの決意を知ったとき、すぐに受け入れられるものではありませんでした。
言わずと知れた野球実況のエースであり、ABC看板アナの言葉。
一度聞いたぐらいで理解できるわけもなく。
理解できないの前に、信じられなくて。信じたくなくて。
夢と志、自分に対して正直で、悩んだ末の結論。
「トライ」。
なるほど。
……なんて私には到底思えなかった。
多くのタイガースファン、高校野球ファンがそうであるように、私は彼の大ファンだ。
声が好きで、熱い語り口が心地よかった。ラジオ実況では、その言葉豊かな描写で、見てもいないプレーが瞼に浮かんだ。
負けるような試合でも最後まで励ましてくれた。
個人ブログも書いたことのなかった私が、ある日突然、サンテレビのサイトで日記を書き始めることになった。中の人からは「好きに書いていい」と言ってもらったものの、私には何か「道しるべ」のようなものが必要だった。
そんなとき自然と思い浮かんだのが、清水アナの実況だった。
いつも力強くて明快、そして楽しい。
タイガースの勝敗に一喜一憂しながらも、必ず明日へと向かう言葉をくれた。
タイガースファンである前に野球ファンであり、相手チームへの敬意を忘れない。
道しるべなんていってちっとも近づけていないけど、そっちの方向には向いていたいと心に留めてる。
私にとって清水アナは憧れの存在。
でもこれからのタイガースに清水アナの声はない。
そんな・・・。
だから、
ざけんじゃねーよ!勝手に辞めんじゃねーよ!
と思った。それこそ勝手なんだけど。そんで乱暴者か。
だけど、22年のキャリアからの転身…不安がないわけがないだろう、と思うと心が痛んだ。
そして、大好きな野球実況ができなくなるのは、誰よりご自身が寂しいだろう、とも思った。
それらを乗り越えて叶えたい夢か…純粋過ぎるやろ…
でまぁ、結果、感情の整理のヘタな私はぐしゃぐしゃに泣いて、、寝ると。
―2013年10月13日クライマックスシリーズ
「甲子園球場にこのイニングを最後にしてはならぬと六甲おろしの大合唱が沸き起こりました。」
「マートンが出れば…マートンが出れば桧山です。
マートンが出ました!
9回裏2アウトランナー1塁!」
「22年間の想いではなく、今ここにあるのはこのバッターボックスへの集中でしょう。
人呼んで代打の神様、桧山進次郎!
現役最終章、クライマックスシリーズ9回の裏2アウトに、その打席が巡ってきました!」
「ライトへ上がったぞ!
桧山の桧山の桧山の、ホームラン!
22年間の想いをこめて、タイガースファンへの感謝をこめて、打倒巨人への希望をこめて、桧山進次郎の一振り!
ライトスタンドに消えた2ランホームラン!
だからタイガースファンはこの男を神様と呼んだ!」
この試合は、清水アナの実況でテレビ中継された。
同じあのホームランを、清水アナはネット裏から。私はライトスタンドから。
見えた景色は違うけれど、桧山の打席に入ったときのこととかおっしゃってたことが、自分の書いた日記とちょっとシンクロしてた。それだけで嬉しかった。初めて正解をもらえたような気がして。
「清水次郎アナ、教師目指しABC退社へ。」
報じた日刊スポーツさんと、スポーツニッポンさんの新聞を買いました。
二紙とも、妙な憶測を交えることなく、そして清水アナの偽りのない気持ちが丁寧に書かれた記事だと感じた。
努力の人、清水アナをよく知る腕のある記者さんで、そしてそれぞれ互いのことを尊敬し合った方なんだろうな。
そういう関係を築いてこられたのだ。
たぶんこれは、思ってる以上に多くの人が、清水次郎さんのファンだ。
これからの彼をたくさんの人が応援するんだろう。
私もめそめそ言ってないで、応援したいな。
少し時間が経って、やっと、そんなことを思ってる。
(まさかの経過報告)