元魚屋の店主が営む、魚が安くてうまい立ち飲み
神戸角打ち巡礼は今回で24杯目になります。順調に進んでいるように見える巡礼ですが、住宅地である東灘区に入ってから、その困難さが目立ってきました。「神戸立ち呑み八十八カ所巡礼」を出版してから11年、この間の酒屋を取り巻く環境の変化と店主やお客さんの高齢化が一層進んだということを思い知らされる日々であります。
どういうことかと言いますと、住宅地に多く見られるアテが乾き物か缶詰主体の角打ちには、ほとんどお客さんが来なくなりました。例えば魚崎の大木酒店や阪神住吉のアワノ商店が該当します。また青木の永田屋のように面識のある店主が亡くなり代替わりした店も取材そのものが難しくなっています。筆者とカメラの福田さんが、元気なら100店を目指そうと思っているところに暗雲が垂れ込め始めています。
悩んでいると、このコラムの読者であり、阪神電車公認パートナーブロガーである”ぱぱりんさん”から「阪神住吉駅前に元魚屋の店主が営む、ええ立ち飲み(*)がある」と教えていただき、今回の訪問となりました。有難いことで、渡りに舟とは、このようなことをいうのでしょう。
前置きが長くなりました。この「立ち呑み処まる」ですが、筆者が神戸ぶらり下町グルメでお食事処ことぶきを取材していた10年以上も前に発見して気になる存在ではありました。
現在、まるを経営する元魚屋の窪田雄大さんに話を聞きました。「18年ほどこの店を経営していた先代から、店を継いでくれないかと打診されたのです。でも50代になってからの飲食店経営なので不安はありました」と経緯を説明してくれました。店を引き継ぎ2018年12月18日に開店、ほぼ1年が経ちました。
窪田さんが店で提供する日本酒や定番メニューは先代のものをほぼ踏襲し、これに加えて元魚屋として仕入れルートがある魚メニューを充実させている。酒は白鶴と菊正宗のそれぞれのブランドに、ビールと焼酎その他チューハイやハイボールもある。気になる魚料理は本日のオススメに書いてあるが、刺身盛り合わせ6種、活けタコ3種盛りが480円とお値打ちだ。鳥取産松葉カニボイルハーフ2,400円と、立ち飲みなのかと疑うようなものもある。
ぱぱりんさんの友達も揃ったところでサッポロ赤星で乾杯。大ビンは500円とうれしい価格です。料理は本日のオススメから、まず刺身盛り合わせ6種をもらった。次いで活けタコ3種盛を追加した。ビールも進む。さらに播州産カキフライ450円とビールも追加しました。他にも注文しましたが失念しました。
ビールばかりお代わりしていたのですが、日本酒好きの福田さんが白鶴まるを注文した。この店の名前にもなっている”まる”(白鶴まるとは無関係と聞いたが)を初めて飲んだ福田さんは「昔の日本酒の味がする」と。
店主の窪田さんは言う。「元魚屋なので魚の目利きはあるし仕入れルートも確立している。でも料理人ではない」。料理に一抹の不安があるかのように語っていたが、この日味わったカキフライや出し巻き玉子はおいしかった。冬に欠かせないおでんもうまそうだった。料理が良いのに日本酒が2銘柄しかないのはもったいない。もうちょっと増やして欲しいと願う常連さんもおられるのではないだろうか。
店内はテーブルが2つにカウンターが3ヶ所あります。午後5時に開店しますが仕事帰りのサラリーマンですぐいっぱいになるようだ。先代の店では土曜定休にしていたが、それはもったいないと土曜日も午後5時から開けるようにしたそうである。
取材時は30分早めに開けていただいた。ところが我々より先に店に入るお客さんの姿を目撃してしまった。この日は30分早くから開くとどこかで知ったのかと思ったのだが、そうでもないようだ。このお客さん、開店を一刻も早くと待っていたのかも知れない。人気の証である。
窪田さんからはご苦労も聞きましたが割愛させていただき、お客様へのメッセージを最後にお伝えします。
「元魚屋としてお安く提供しお客さんに喜んでいただいてます。来店されたお客さんが他の人を紹介してくださるし、店に来られる客筋が良くてトラブルもありません。わずか1年の経験ですが、ありがたくて、うれしいですよ」と。この言葉の中に、元魚屋としての矜持がよく表れている。魚好きな方はぜひ足を運んでください。
なお、”まる”の隣で予約のみの魚屋、魚処将丸も営んでいることを付記しておきます。
(*)筆者注
「酒屋の一角で酒を飲む」と言うのが本来の角打ちの定義ですが、前にも説明したように、今回の「神戸角打ち巡礼」ではゆるく関西で言うところの立ち飲みも含めます。
神戸市東灘区住吉宮町1丁目6-11
TEL078-811-5517
営業時間 17:00~22:00
定休日 日曜、祝日