若い女性客に人気&マグロが名物の立ち飲みの元祖
赤ひげ本店の次は少し南に下り、「立ち呑みの元祖」と呼ばれる世界長直売所本店を目指す。途中、左手には「元町ヱビス」が見え、その先には派手な看板の「魚河岸居酒屋えびす大黒」ができている。さらに「立ち呑み処大勝」、老舗の「八喜為」、「立って呑んでね福の神」と続く。
「東の浅草、西の新開地」とうたわれた街には、つくづく立ち飲みが似合うと思う。阪神淡路大震災を経て街の賑わいに陰りがないと言えば嘘になるが、ボートピアの手前のうどん屋の角を右に折れてしばらく歩くと世界長直売所本店がある。
創業したのは昭和42(1967)年1月15日、かれこれ半世紀以上になり、切り絵作家の成田一徹氏による「神戸の残り香」にも登場した名店である。
店主の岸田耕治さん、奥さん、息子の修志さん夫妻で店を切り盛りする。入り口の世界長と書かれた暖簾、震災にも耐えた馬蹄形のカウンターが老舗の看板。カウンターは創業以来何も手を加えていないという。腕の確かな大工さんの作ならではのことであろう。
午後4時に入店したのだが、すでに満席に近い状態で、さすがの人気。たまたま空いていた馬蹄形のカウンターの孤を描く処に席を取った。
刺身、焼き物、煮物、揚げ物と肴は何でも揃っていて値段も手ごろ。知り合いの神戸中央卸売市場の専門店から仕入れるマグロがこの店の名物である。運がよければまぐろハンバーグに出会うこともある。他にホルモンミックス焼き、(国産牛使用の)スジコンや豚足、冬場なれば牡蠣や〆に粕汁がオススメである。千円超えるものに黒毛和牛炙りがある。
まず大瓶ビールとマグロの串焼きをオーダーする。たまには麒麟を、と注文したがアサヒビール専門店と知る。マグロもよく出るようで串焼き、すき刺は売り切れ、というわけでマグロのフライを揚げてもらい乾杯する。
新開地の飲み処は、近くにボートピアがあるので、店内のテレビは常時、競艇を映し出していて、この店とて例外ではない。競艇がある日には約30人収容できる店も満員の状態で、お客さんの対応にきりきり舞いとうれしい悲鳴を上げているそうだ。
さて、昨年(2018年)、天満天神繁昌亭に次ぐ上方落語の定席の一つとなる神戸新開地・喜楽館がオープンした。その効果のほどを岸田さんに聞いてみた。「お客さんが増えたように思いますが、桂文枝師匠を始め落語家さんが来てくれるようになったのはうれしいですね。ほかにも若い女性客が多くなったことも」と店主の顔に笑みが溢れた。
ビールも空いたのでホルモンミックス焼きと看板酒の世界長を冷やで追加した。このホルモン焼きと世界長が見事なハーモニーを奏でてうまい。筆者は一年中あるおでんから豆腐と大根を、カメラの福田さんは、近くのお客さんが美味しそうに飲んでいたチューハイセットを更に追加。
焼酎と氷が入ったジョッキと地元の兵庫鉱泉所が製造しているマスコットがカウンターの上に差し出された。ホッピーのようにジョッキにマスコットを注ぎステアして飲むのである。味は如何だったか、出来合いのチューハイと違うに決まっている。
お客さんに聞いてみました。「有名やし何でも美味しい。東山市場を歩いてると大将に出会うので、つい声をかけてしまう。ここは本当にええ店や」と。奥さんにも昔の話を聞いてみました。「おばあちゃんが愛想は要らないと言ってお客さんを選んでましたわ。この辺り、ガラ悪かったしね」と懐かしそうに創業時のことを話してくれましたが、今は新開地まちづくりNPOなどの努力が実り、女性も安心して来れる街になったように思われる。
実際、ある日に立ち寄ったところ、新開地まちづくりNPOが主催した新開地夏の社会見学会の女性10人限定「夜も楽しいザ・シンカイチツアー」の一行と出会った。店主こだわりの澤の鶴「吟醸ひとはなぐらす」とマグロのトロに舌鼓を打っていた。新開地の立ち飲みが華やいだ一瞬である。1人では入りにくい女性にも楽しんでほしいと門戸を開く店主の心意気がいい。
「いい酒とマグロ料理を召し上がって下さい。今日のオススメは何かと声を掛けて下さい」と、一見さんにも優しい店主岸田さんが待っている。ぜひとも新開地の立ち飲みを味わって欲しい。
神戸市兵庫区新開地3-4-29
TEL:078-575-4757
営業時間 平日 15:00~21:00
土曜、祝日 12:00~20:00
日曜休