街の酒屋さん
JR和田岬線に乗って終着駅である兵庫駅に到着した。もっとも和田岬から兵庫駅の間に駅は一つもないのだが。この兵庫駅の北側にも、かつて角打ちが点在していたが、この十余年の間に街の様子も少しずつ変化をしている。酒屋経営の洒落た洋風居酒屋だったタヴァーン・ザ・カネサもいつの間にか廃業していた。
そのカネサがあった場所から道路を隔てて同じ兵庫区塚本通の七丁目に、いかにも街の酒屋さん風情の原酒店がある。
創業は昭和46(1971)年と比較的若い部類に入る酒屋さんであるが、もうすぐ半世紀を迎えるので老舗と言っても差し支えはない。二代目の原栄治さんが大学生の時に店を継いで二十年になる。「神戸立ち呑み八十八カ所巡礼」に登場した店主さんでは最も若い層だった。
立ち飲みは創業時から、しかも朝もやっていたが、時代とともにお客さんも変り、午後5時から9時までの営業となっている。ご近所にお住まいの方や仕事をされている5、60代の男性のお客さんが主流を占めていたのだが、年齢層が年ごとに若くシフトして、現在は40代中心になっているそうだ。立ち飲みスペースは、それほど広くはないがお客さん同士のサロンとしての役割が大きい。
原酒店と聞けば関西でホッピーがあまり知られていないときから、その普及に努めていたことを知る常連の方も少なくない。神戸市内では長田の水笠通にある森下酒店と原酒店くらいしか置いていなかったように記憶する。おそらく神戸で一番か二番目の、早くから扱っていたのだろう。
このホッピーという飲み物はビールが高くて飲めなかった時代の産物と聞いたことがある。ジョッキに焼酎を入れ、次いでホッピーを注いで飲むのだが、焼酎を「中」、ホッピーを「外」と言うようになれば、みなさんも十分なホッピー愛飲家だ。
話を聞いている間に、SNSで知り合った常連さんが姿を現した。世間は狭いものだ。原さんは「お友達のSNSで知って来られる方が増えています」とのことで、高齢者が多かった角打ちも徐々に若い方に受け入れられていると感じた。
せっかくなので常連さんに原酒店の良さを訊ねてみた。「店に来るというより店主さんに会いに来る感じ」「原さんは酒にすごいこだわりを持ってらっしゃる」「酒が日々刻々と変化をすることなど、楽しみ方を教えてくれます」と酒の強み弱みを教えてくれる店としての、“原酒店愛”がひしひしと伝わってきた。
暑い日だったので定評のあるキンミヤ焼酎をホッピーで割ったものとイワシ煮をもらった。カウンター上にはお母さん手造りのアテや缶詰が置いてあるので好きなものを選ぶことができる。ホッピーの飲み心地であるが、ビールのようであり、そうでもない。気になる方は原酒店に足を運んで味わっていただきたい。
酒屋を取り巻く環境は一段と厳しくなってはいるが、手をこまねいてばかりでは未来が開けない。原さんは焼酎ブームの世の中だけど、日本酒を飲んでほしいと、灘の中堅どころの大黒正宗の販売と普及に力を入れている。現在は大黒正宗のほか、雪彦山、池月、東長、白鷹悦蔵なども取り揃えている。
ということでホッピーの次は原さん一押しの大黒正宗を飲んでみた。最近の日本酒はフルーティーでいくらでも飲んでしまいそうで怖いなあ。
最後に、店をやっていて良かったことをお聞きした。「いろいろな方とお会いすることができます。お客様、蔵元などの良い出会いがあり財産になっています」と、特にプロレス団体「ドラゴンゲート」のプロレスラーの方とは家族ぐるみのお付き合いに発展しているそうだ。袖振り合うも多生の縁という言葉があるが、筆者も原酒店がお客さん同士を繋ぐ場になればと願う。