国宝級の哀愁漂う角打ち
角打ち巡礼のルートは決まってはおらず、まずは神戸の中心からと、中央区の店から始めました。神戸駅界隈から三宮に戻ろうとして小さな角打ち山下酒店に伺いました。ご夫婦とも健康上の理由で店を安定して開けることに自信がないと、掲載には至りませんでした。残念ですが、このような情報もお伝えしていきます。
という訳で一気に和田岬に飛びました。和田岬へのアクセスは地下鉄海岸線、あるいはJR兵庫駅前から和田岬線(朝と夕方以降のみ運転)に乗る方法があります。健脚な方なら兵庫駅前から徒歩で行くことも考えられます。
今回、往きは地下鉄、帰りに和田岬線を利用することにしました。
和田岬駅に到着しました。近くに、その名も「みつびし」という飲み屋を発見。 さすがに神戸を代表する大企業の城下町です。
こちら日本の心を伝える「木下酒店」、昭和レトロか大正浪漫の角打ちに驚きます。店内は広くはありませんが一枚板の重厚な看板が目を引きます。しかも文字は右から左へと読むのですから、戦前の年代のものでしょう。天井を見れば電線が剥き出しで碍子も見えます。
三代目のご主人である木下正さんにお話を聞きました。大正10(1921)年の創業で今年98年を迎える老舗酒屋です。ちなみに神戸三菱造船所が発足したのが明治38(1905)年のことで、社名が三菱重工業株式会社と変更になったのが昭和9(1934)年ですから、ほぼ三菱さんと歩んできたことになります。
昔は、停電が多くこんなものを使ってましたとご主人に見せてもらったのは、ガス灯でした。今は使うこともないでしょうが、使用可能だそうです。棚も今は見ることもないような頑丈な造りです。こういう古いものが残っている木下酒店は国宝級の立ち飲みと呼んでもおかしくはありません。
場所柄、お客さんの殆んどは三菱重工の関係者です。このため店内に三菱重工の職人さんが作った造り酒屋のジオラマが置いてあります。出来具合もすばらしい。さすがは日本の技術を支える企業城下町のことはあります。午後4時過ぎ、ご近所の隠居さん達が集まり始めます。その後、午後5時を過ぎると三菱にお勤めの方が現れ、一層にぎやかになります。
国産コンピュータの草分け時の富士通に池田敏雄氏がいました。彼はコンピュータの巨人IBMに果敢に挑戦した天才技術者でした。その池田氏が部下を引き連れて作戦を練ったとんかつ屋が東京の大岡山にあった「あたりや」です。
業種は違えど、ここ木下酒店でも技術立国を支える技術者のコミュニケーションの場としての陰の役割を果たしてきたのではないかと思うと、感慨深いものがあります。ちょっと大袈裟すぎましたか。それも立ち飲み酒のせいかも知れません。
最後に店の将来のことをお聞きすると「子供達はそれぞれ仕事を持っているので角打ちは私で最後です」と。うーん、としか言いようがありません。皆様も気になる店がありましたら早めに足を運んで楽しんで欲しいですね。
神戸市兵庫区上庄通2丁目2-13
TEL 078-671-1269
営業時間 15:00~20:00(土曜日は15:00~18:00)
定休日 日曜、祝日