第19回 私の記憶に残るあの試合⑤ ~2019年8月10日 大山選手のサヨナラホームラン~

広島 0 1 4 0 0 0 0 0 0 5
阪神 0 2 0 0 0 1 0 0 3x 6

昨シーズンは20試合以上中継車Dを務めさせていただきましたが、個人的に2019年で一番衝撃的かつ記憶に残る試合はこの試合です。開幕戦からずっとタイガースの4番を務めた大山選手が106試合目にして4番を外れ、「6番・サード」での出場となりました。このシーズンは何があっても矢野監督は大山選手を4番で使い続けるだろう、と思っていたのは私だけではなかったと思います。やはり打線の顔である「4番」が変わることはチームにとって大きいことでしょう。

スタメンが発表されたのが試合開始のおよそ40分前です。試合開始2時間前の打ち合わせでは西勇輝投手をフィーチャーしつつ、期待の4番である大山選手についてこの日の解説の岡田彰布さんにお話いただこう、という話をしていました。もちろん西投手のピッチングに注目するのは変わらずですが、この試合は大山選手と、この日のオーダーの決断をした矢野監督をフィーチャーしようと思いました。

『サンテレビボックス席』のオープニングテーマが流れている30秒間の映像というのは、実はその日の中継車Dのメッセージが強く表れています。その日注目すべき選手や人を映しています。試合が始まると、プレーがどうなるのか予測不能なのですが基本的にはその時間はまだ試合前です。試合前だからこそ、注目の選手たちをじっくりと映すことができるのです。

大山選手が4番を外れた、というのが一目でわかるのは、スコアボードに載っているオーダーを映すことです。「大山」の表示からズームアウトすれば6番の位置に大山選手の名前があることはわかります。ただし、この30秒間にはテレビには『サンテレビボックス席』のタイトルや対戦カード、番組のスポンサー名の表示がありますので、文字に文字を重ねてしまっては見づらくなります。その30秒間にそれを映すのはやめようと思いました。

オープニングの最初のカットは大山選手の表情のアップからに決めました。これを撮れるカメラは③カメ・④カメ・⑤カメです。次に撮りたい矢野監督の表情が撮れるのは①カメ・③カメ・④カメ・⑥カメ(甲子園では⑦カメ)です。サードの守備位置にいる大山選手を正面から映せるのは⑤カメと③カメです。一番近いのは④カメです。このときに私が思ったのは、例えば「⑤カメで大山選手、④カメで矢野監督」と映しても普通だな、ということです。「1カットで二人を見せたい。」と思い、④カメの大山選手表情のアップ→ズームアウトして矢野監督へカメラを振る→ズームして矢野監督へ、の1カットだけで30秒にしようと思いました。

ただし、試合前には④カメの位置からは矢野監督の前に多くの選手やコーチたちが被っています。タイミングがよければ可能ですが、そうなった場合に京セラドーム大阪では③カメの位置からベンチの中が見えるので、③カメさんにフォローに回っていただきました。個人的には横顔のアップが見えるこのカメラ位置は好きです。監督を映せば、より選手を見守っているような感じに見えるからです。

18時になり中継が始まりました。④カメさんが大山選手から矢野監督へ向かい、ズームしていきます。やはり被る位置に色んな選手がいました。ということで、③カメさんの映像に切り替え、そこで30秒が経ちました。30秒が終わると、そのあとは球場のスーパーを載せるため、球場の広い映像になりますが、この試合では②カメさんに「大山」の文字が6番にあるスコアボードを映していただきました。そこからもしばらくは大山選手や矢野監督の表情を撮りました。視聴者の方々にもいかにこのことが大きいことかを印象付けていただいたと思います。

試合はとんでもない結末が待っていました。9回ウラ、二人ランナーを置いて打席には6番の大山選手。解説の岡田さん曰く「どの打順でもこういう場面で回ってくるんですよ。」と、やはり大山選手はそういう選手なんだなと思っていました。⑦カメさん(甲子園での⑥カメ)がレフトのポールからズームアウトして大山選手へ。これはホームランを期待したカットです。その次の球に反応した大山選手、打球は右中間へ!見事なサヨナラホームランとなりました!

喜ぶ矢野監督、笑顔でベースを駆け抜けてチームメイトに手荒い祝福を受ける大山選手、喜ぶファン、「こうなればいいな」と思っていたことがピタッとはまった中継でした。オープニングからのストーリーが全て良いフリになったわけです。一塁線上に並んでいる大山選手が映りました。チームメイトにかけられた水を手で拭いながら「やったー!」と言ったように見える大山選手の姿を見て中継車の中で泣きそうになりました。いや、涙を浮かべていました。このカットだけで今日の試合を表現できたはずです。

野球は筋書きのないドラマです。そうそう思ったとおりの試合になるはずがありません。だからこそ感動するのですが、思ったとおりに試合が動いたときにはゾクゾクします。いよいよ今シーズンも開幕日程が決まりましたが、このような選手の喜ぶ姿をもっとたくさん見たいですし、その姿を視聴者の方々にもたくさんお届けできればと思います。

次回も「私の記憶に残るあの試合」として、「平成最後の日の試合」を取り上げたいと思います。次回で「私の記憶に残るあの試合」はとりあえず最後となります。このコラムもいよいよ第20回!まだ他の競技の中継や、『熱血!タイガース党』などの番組の話もあるのにこんなに書いてしまっています…。引き続きお楽しみに!

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