第18回 私の記憶に残るあの試合④ ~2019年4月25日 近本選手・9回に逆転3ランHR~

阪神 2 0 0 0 0 0 0 0 3 5
DeNA 0 0 0 1 0 1 1 0 0 3

9回表でタイガースが1点ビハインド、この状況でベイスターズはクローザーの山崎康晃投手がマウンドへ上がります。通常こういった展開ではCMが明けた最初の映像はタイガースの選手を映して巻き返しに期待、というような雰囲気にすることが多いです。

この日は横浜スタジアムの試合で、もちろん勝利を信じたベイスターズファンの「ヤスアキジャンプ」が見られました。あれは山崎投手のルーキーイヤーだったでしょうか。夏場の横浜スタジアムでの試合で山崎投手が出てくると、球場から地鳴りのような声援が起こり、ヤスアキジャンプが始まりました。放送席でFD業務をしていた私は「こんなすごい応援があるのか!」と驚いたと同時に感動した記憶があります。

名実ともに球界屈指のクローザーとなった山崎投手と、この応援を強調して見せることで、もしこの試合で山崎投手からタイガース打線が得点することができればそれはすごいことなんだ、というのを視聴者の方々にも分かっていただけるだろうと考えました。また、なかなかアウェイの球場まで応援へ行けない方々には「ヤスアキジャンプってすごいんだ。」というのを体感していただきたいという思いもありました。「主語はタイガース」であるサンテレビボックス席の中継からするとイレギュラーな映像ですが、CM明けしばらくは山﨑投手とベイスターズファンばかりを映し、そこからタイガースの選手を映しました。

そんな山崎投手からタイガース打線はチャンスを作ります。2アウト1・3塁で迎えるバッターはルーキーの近本選手、この日は2安打2四球と全打席出塁していました。「せめて同点に!」と思っていた2球目、近本選手のレフトへの打球はそのままスタンドイン!見事な逆転3ランとなりました!

ルーキーが試合をひっくり返す殊勲打を放ち、タイガースファンは狂喜乱舞です!ベンチの矢野監督もホームランの瞬間に拳を振り下ろし喜びを爆発させました。渾身の「矢野ガッツ」③カメさんが捉えてくれていたので、スタンドインの次の映像は矢野監督へ、その後は当然喜びながら2塁を駆け抜ける①カメさんの近本選手の映像、⑥カメさんの喜ぶタイガースファン、③カメさんのこの日好投した先発の岩田投手のガッツポーズ、④カメさんの3塁を駆け抜ける近本選手、そして②カメさんの撮ったホームインの瞬間、④カメさんと③カメさんで3塁ベンチにハイタッチへ向かう近本選手たちが映ります。そして⑤カメさんの打たれた山崎投手のリアクション、最後に④カメさんのチームメイトとハイタッチする近本選手、というカット割りになりました。

昨年「サンテレビボックス席展」へお越しいただいた方はご存知かもしれませんが、ホームランをタイガースの選手が打った時の基本的なカット割り、というパネル展示がありました。そこにはスタンドインしたら打った選手、その後打たれた投手、そして喜ぶお客さんやベンチ、そして打った選手のホームイン、という流れが展示されていたかと思います。

ホームランの瞬間、当然セオリーとして打たれた山崎投手のリアクションを⑤カメさんが抑えてくれています。場合によってはそれまで好投していたベンチのピッチャーなども④カメさんが撮ってくれます。このホームランに関しては私が連絡線で伝えたのは「ベイスターズの選手は撮らなくて大丈夫」ということでした。ルーキーの近本選手が試合をひっくり返すホームランを打ったことが非常に大きなことだと感じていたからです。とにかく近本選手のリアクションや、喜ぶタイガース側のリアクションを映すべきだと思ったのです。

近本選手のホームインまで打たれた山崎投手をはじめとするベイスターズ側の映像は一切映しませんでした。ベンチでハイタッチをしている間に数秒山崎投手を映しただけです。

この試合の後、色々な意見をいただきました。「あのカット割りでよかった。」と言ってくれる方もいましたが、「山崎投手を9回の冒頭にあれだけフィーチャーしたのだから、そのピッチャーから打ったんだよ、というのを強調するためにもっと早めに映すべきだった。」という意見や、「ずっと喜ぶ近本選手が見たかった。ハイタッチしている間も山崎投手のリアクションを挟まずにずっと近本選手の映像でよかったんじゃないか。」という意見もいただきました。

これまでのコラムに何度も記していますが中継に正解はありません。しかし、このカット割りに関していうと、「ベイスターズの選手は撮らなくて大丈夫」と言ったのなら、リプレイVTRを流すまでベイスターズの選手は撮らなくてよかったのではないかと思います。途中でこのケースのように山崎投手を映すのならもっと早めにリアクションを抑えるべきだったのではないかとも考えています。はっきりとどちらか極端でいいので、そういうカット割りが良かったのではないかと今では思っています。

こういう話し合いも普段スタッフの中では行われています。個人的にはものすごく勉強になりますし、楽しい時間です。誰もが100点の中継など無いとは思いますが、その100点を目指して今シーズンも議論を深めていきます。

どうでしたか?ちょっとマニアックすぎて話についていけない方がおられたら申し訳ございません…。次回も「私の記憶に残るあの試合」ということで、昨年初めて4番を外れた大山選手のあの試合について書かせていただきます。お楽しみに!

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