神戸角打ちの原点
神戸の立ち飲み処を巡っていて、赤松酒店の名を挙げる店主や常連客が多いことに驚かされる。それだけ業界や酒徒に親われていることの証なのだろう。
その赤松酒店は、南京町の中華料理店「民生」のある通りの路地を、ひょいと入ればある。特別変わっているでもない普通の酒屋の佇まいである。
昭和10(1935)年の創業とのことで、もう84年の歴史を誇る老舗である。南京町界隈は今でもバーが残るが、かつては外人バーで賑わったところである。赤松酒店も外人バー10軒くらいに毎日配達していたと聞いた。また浜に近いところから、港湾の仕事に従事する人々が仕事帰りに酒場に繰り出していたのであろう。おそらく赤松酒店も、そのような労働者で賑わっていたに違いない。
ある日の昼下がり、昼間から常連さんで賑わっている、いつもの光景がある。
ご主人の赤松功一さんは、
「以前は早めにさっと来て、さっと帰ってました。そういう港湾関係のお客さんが減って、今は早い時間はリタイヤ組、夕方からはサラリーマンの方が多くて、閉店も夜十時になりました。大丸も遅出になりましたね」
と、酒屋を取り巻く環境が大きく変化していることを教えてくた。
「酒屋は後継ぎがいないし、今の時代に合わない。酒屋と立ち飲みを切り離した店づくりが必要ですが、そういう店が少ない」と嘆いた。実際のところ、赤松酒店も後継ぎがいないのである。
酒屋の経営について何もかも熟知している赤松酒店のカウンターには、所狭しと手作りのアテが並ぶ。後ろの棚にはコンビーフなどの缶詰も勿論ある。一人客は自然とカウンター席に着き、片足をひょいと足台にあてがう。グループの場合は、テーブル席を利用すればよい。
生ビールと神戸らしいアテ、ホワイトアスパラと焼き豚をもらった。生ビールを飲み干してニッカの水割りとジャコおろしを追加した。するとマスターがたっぷりと大根おろしをかけてくれた。それだけで、赤松酒店の良さがわかるというものである。
コンビニやディスカウントストアの出現や後継者難で酒屋の存続が難しい時代だからこそ、いつまでもあって欲しい憩いの場だ。一人客もグループ客も和気あいあいとして、南京町は今宵も更けてゆく。
「赤松酒店」
神戸市中央区栄町通1-2-25
TEL 078-331-6634
営業時間 9:00~22:00
日曜、祝祭日休
広辞苑では「酒を枡で飲むこと。また、酒屋で買った酒をその店内で飲むこと」とある。四角い枡に注いだ酒を、その尖った角から飲むことが語源とされる。神戸で「立ち飲み」と呼ぶように、関東や北九州では「角打ち」と呼ぶ。
今回の巡礼は「角打ち」の文化を守り続ける地域への思いをはせながら、巡ってみたい。
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