酒の見識の高さに加え、ホーローのバットに盛られた肴が旨い
先週から、かつて「ええとこええとこ新開地」とうたわれた湊川新開地に来ております。酒のシマダを出て南下すると2019年8月13日に開業した兵庫区役所の新庁舎が見え、湊川公園に繋がります。
湊川新開地は、1905年(明治38年)、旧湊川を埋め立てた跡地に生まれました。そのため湊川公園から南へ続く商店街は、なだらかな坂になっています。一大歓楽街となった新開地のその繁栄ぶりは、林喜芳著「わいらの新開地」(神戸新聞総合出版センター出版)に譲ることにして先に進みます。
湊川公園の傍に古びた建物があります。どうやらホテルだったようで、その一階に立ち飲みの聖地・新開地を代表する世界長はあります。大きな字で世界長と書かれた暖簾に老舗の歴史を感じます。湊川公園の前に位置することから、いつしか公園前世界長と呼ばれるようになったと思われます。
大阪で仕事をしていた若い頃に立ち飲みは経験していますが、筆者が神戸で最初に入った立ち飲みの店が、おそらくこの世界長だと記憶しています。
天気予報の通り、雨が降る午後6時、店に灯りがともります。シャッターが開き、マスターが看板を定位置に置き、暖簾を掛けました。この瞬間を待っていたかのようにお客さんが店に入ります。筆者らもそれに続きます。開店してまもなく、店内は埋まりました。
さて、大阪出身で東京在住の知人と、新開地立ち飲みツアーをやったことがありました。4、5軒ハシゴしましたが「酒、肴、雰囲気、建物、ロケーションのすべてにおいて公園前世界長が一番良かった」と知人は絶賛しました。料理が大皿ではなくバットに盛られていたことも、たまらなく良かったそうで、バットに盛られたナポリタンを注文しなかったことを今でも悔やんでいます。彼にとっては、このバットは新開地の立ち飲みの象徴となっています。
神戸在住の筆者は幸いなことに気が向けば、いつでも公園前世界長に来て、ホーローのバットに盛られた品々を味わうことができます。これは考えてみれば、大変幸せなことであります。
酒は日本酒、ビール、焼酎と揃っています。マスターは酒に対する見識が高いことで常連客から一目置かれています。
まずアサヒスーパードライの瓶ビールと大根の煮物をもらった。福田さんが蓮根を追加した。名物ナポリタンがなかったのはちょっぴり残念であるが、それは贅沢というものであろう。10年以上前になりますが、酒のシマダに寄った際に、お隣の常連さんと親しくなって、他にどこへ行くかと問うと「鮪のトロを食べに下の公園前世界長まで行きます」と返事が返ってきました。酒だけでなく肴(料理)に対してもこだわりがある店で、今度はトロを注文してみたいと思ったものでした。
奥の冷蔵庫の扉の上に酒の銘柄を書いた紙を貼っているので、今回はその紙が見えやすい場所に立ったのでした。筆者は名前が覚えやすい岩手県喜久盛の「北上夜曲 生原酒」、福田さんは群馬県高井の「巌 特別純米ひやおろし」をチョイス。北上夜曲の瓶はレトロ感溢れるラベルで、ちょっと酸が強くすっぱい、しかも原酒なのですぐ効く感じでした。この酒は復刻版でラベルはイラストレーターの吉岡里奈さんが手がけたとか、奥が深いなあ。一方、巌はフルーティーですっきりした味わいで何杯でもいけそうで怖いですね。
料理ですが、鰯のフライが登場したので迷わず追加。福田さんは「日之出桃太郎」や「なす」も頂きましたかね、記憶が怪しくなってます。
たまたまお隣に二人連れの常連さんがおられたので公園前世界長の魅力について伺うことができました。
「手に入り難い酒がリーズナブルな値段で飲めるほか、酒に合った料理も楽しめます」と。一言でいうと「オリジナルのリズムがある」と付け加えられました。いやあ、随分と通っておられる風で、的を得た言葉、すべてを包含していると感じました。
神戸の立ち飲みの店の壁にはなぜか世界地図や日本地図が貼ってあります。この店も例外なく貼ってあります。旅する者への羅針盤の役目なのだろうかと世界地図に目をやった。
両親の後を継いだ仲のよい兄弟が、伝統を守りながらひっそりと経営している、こういう店はそうはあるまい。日本酒好きには堪らない名店です。
酔いもまわってきました。新開地商店街沿いの店の巡礼を続けましょう。
神戸市兵庫区新開地1-3-26
電話不詳
営業曜日、時間
火曜日 16時~20時50分
水曜日 18時~21時
金曜日 16時~20時50分
日曜日 16時~20時50分