10杯目「リカー&フーズむらかみ」

「From KOBE」情報発信の心意気は今も

兵庫区大開通には西脇商店のほか、7丁目の川崎酒店や1丁目の石本商店があります。また神戸高速大開駅を降りて西へ向う途中にも芋田酒店がありました。いつしか廃業されていました。順序が前後しますが先に中道通9丁目にあるリカー&フーズむらかみを訪問することにします。

リカー&フーズむらかみの創業は昭和元(1925)年で、ご主人の村上裕一さんは三代目に当たります。
店は震災で甚大な被害でしたが見事に再生されました。その奮闘記は「むらかみ」のホームページに詳しく書かれていました。村上さんはかつてホームページで次のように思いを綴っておられました。

「もっと街が復興してほしい」「もっと神戸に人がきてほしい」という思いから、ホームページのテーマを「神戸の地元の商品をもっと知ってもらいたい!<From Kobe>にしました」。地元にありながら、意外と知られていない商材や、規模は小さくともいいものを造っている蔵を紹介し、そして何よりも、「お客さんに喜んでもらいたい」という思いで日々商いをしております。

「神戸の地元の商品をもっと知ってもらいたい」とホームページで情報発信されている姿に、同じ神戸で生活する者として元気をもらいました。そして11年前、筆者はこういうお店の取り組みが神戸に賑わいをもたらしてくれる気がしますとコメントしました。

村上さんが「From Kobe」に込めた思いは、現在神戸市が進める「BE KOBE」のさきがけだったのではないでしょうか。

今回訪問する際に、あのホームページがないことに気づきました。その理由を聞くと「もう、そう言う時代ではなくなりました」と奥様が小さな声で呟きました。個人の店がホームページを作成するための言語であるHTMLを覚え、タグという命令を打ち込み、魂も注ぎ込んだ情報発信の時代ではなくなったということに衝撃を受けました。なお現在ホームページはありませんが、facebookはあります。

わずか10年ほどの間に、物の販売も大手のネット通販にのみ込まれ、今やスマホで電子決済する状況になっています。酒屋を取り巻く環境が激変してしまったのです。嘆いていても解決しません。このコラムの目的は(消え行く運命にある)角打ち文化を知ってもらい、角打ちがある間に楽しんでもらいたい。それがお店の存続につながれば、ということなのです。

むらかみの配達先には業務店が残っていますが、個人宅はほとんどないそうです。一方、神戸はお好み焼き文化が今なお息づいている街で、地ビールならぬ地ソースの会社が少なくありません。むらかみでは今もブラザーソース、ばらソースを地方の業務店に送り続けており、「From Kobe」をしっかり守っておられます。

さて、最近はあちこちの店で見かけますが、むらかみでもワンコインサービスがあります。まずは生ビールとアテのセットいただきます。今日のアテは、たこ焼きをメインにしたもので洒落た感じです。

アテは、奥様手造りの本日のオススメ、冷たいもの、一品もの、揚げもの、その他(めざし、エイヒレ、するめ等)とホワイトボードに書き切れないほど沢山あります。もちろん、乾き物もあります。時々子供さんが姿を現します。街の駄菓子屋として機能しているのだと納得します。

かつての高齢なお客さんが持ち込んだ椅子が残っており、椅子ありの立ち飲みですが、近所の常連さんや、仕事帰りの方が立ち寄られます。時代とともに、高齢者はトコロテン式にいなくなり、お客さんもすっかり入れ替わったそうです。

筆者らは開店とともに入ったのですが、時間が経過するとともにお客さんも増え賑やかになってきました。長田から引っ越してきたお客さんから、六間道の角打ち永井酒店が再開したとの情報をいただきました。角打ちは人との出会い、地域との出会いの場であるとつくづく思います。そしてお客さんの後ろの壁に兵庫県の地図と日本地図が張ってあります。神戸の角打ちならではの風景と思われます。

日本酒に移りましょう。酒屋さんには看板酒があって、むらかみでも太田酒造の道灌を扱っておられました。それも昔の話で、今は全国の銘酒を置いてます。その中から筆者は香住鶴の夏の涼風 生酛純米、カメラの福田さんは特別純米棚田(長野の蔵元)をチョイス。冷酒はフルーティー、美味しいですね。

酒に合うアテとしてクリームチーズ酒盗(200円)とチジミ(280円)を追加します。いずれも美味です。この日は後の取材がなかったので、ついつい長居をしてしまい、しそ焼酎ソーダ割り、芋焼酎ラオウまで飲んでしまいました。

リカー&フーズむらかみですが、極秘情報を入手できました。ここでオープンにしちゃうから秘密でもなくなってしまうのが残念です。
月に一回、日本酒サービスデーがあり、高くて手が出なかった銘柄が安く飲めるそうです。日は決まっていなくて大体土曜日が多いそうですが、常連になると早く情報が得られそうです。また5のつく日は生ビールや樽ハイボールが安く提供されます。

村上さんに今後のことをお聞きしました。「あと何年できるかなあ。どこかと戦う気はまったくないです。今つながっている業務店や角打ちに来てくれるお客さんを大切にしたいですね。若い方の中にも角打ちに興味を持ってくれているのが嬉しいです」と。
創業百年まであと少しです。その日が迎えられることを祈っています。

「リカー&フーズむらかみ」
神戸市兵庫区中道通9丁目6-5
TEL 078-575-8018
営業時間 16:00~20:00頃まで
定休日 日曜、祝日休

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