2020年01月14日(火曜日) 14:23 地域・まち

【特集】「知らない世代」が伝える「リメンバー117」プロジェクト

阪神淡路大震災から25年。震災を経験していない人が増え、風化が懸念されています。
そんな中、震災を「知らない世代」が自分たちの視点で伝えていこうとする活動を取材しました。

「18歳、18歳」
「結構すごかったって」
「すごかったって聞いて」
「道徳の授業で教えてもらった」
「他のところだったら気にならないんですけど、実際に住んでいたところなんで興味はあります」
(兵庫県神戸・三宮の25歳以下の若者たち)

2019年1月1日時点で兵庫県の人口557万0618人のうち、25歳未満が占める割合は4分の1に迫る125万5936人。震災を経験していない「知らない世代」が増えることでも、市民の中で震災は遠い昔の出来事になりつつあります。
兵庫県はこの状況に危機感を強めています。

(兵庫県 復興支援課 西岡武則さん)
今後の災害に備える意識が1番大切かなと思って。継承されることで防災に対する意識が伝わっていく、広がっていくことが1番大事かなと思っています

県が2019年8月に始めた取り組み「リメンバー117」。
25歳以下の「知らない世代」たちが独自の視点で震災を取材して、経験や教訓を伝えようというものです。

メンバーは高校・大学・大学院生たち29人で、毎週1回の編集会議で県の広報担当者から取材方法や記事の作り方を学び、特設サイト「リメンバー117」に2020年3月まで随時記事をアップします。

(兵庫県 広報官 湯川カナさん)
自分にとって震災とは何なのか、風化させてはいけないものなのか。南海トラフ地震が来るかもしれない、どうやったら自分事として震災のことを捉えて、他の人にも伝えていけるのか、それぞれ実験するそういうメディアをつくっています。

姫路市出身で、災害とは無縁だからこそ小さな地震でも怖いという大学4年生の上利侑也さん(22)。「揺れが分からない。」という見出しで9月に最初の記事を書きました。

阪神・淡路大震災のような過去の災害等の事実や、防災を勉強させられていた。
正直言って、何もリアルは感じられない。事実を知るに過ぎないと考えてしまう。
だって、災害とは無縁な人生しか過ごしていないから。
起こって欲しいとも思わないけど、経験として、知っておきたいなとは思ってしまう。
なんか、期待しているようで、この気持ちは誰にも話せない。

「知らない世代」の気持ちを正直に記しました。

(大学4年生 上利侑也さん)
(阪神淡路大震災を知ったのは)小学校の防災教育ですね、毎年あったので。
日常をいきなり壊されたっていうところしか僕は強く印象を受けていなくて。それ以外はあまり深く入ってこなかったです。

震災後に生まれた人たちが震災を知らないこと、また、時が流れ市民が震災のことを忘れていくことについて、「知らない世代」はどう考えるのでしょうか。

「そういう(阪神淡路大震災の)ことは、頭の隅に入れておいた方がいいと僕は思ったりします」
「自分の命が関わってることだし、それで亡くなった人も実際いるわけだから」
「これから生まれてくる、もっと知らない子たちにも伝えられたらいいなみたいな」
「忘れたらだめなことかなって思います」
「南海トラフ地震来るって言われてるから、それに備えられるのではないかって。ある程度の情報量があったら、もしもの時に自分を守れるのでは」
「危険とかをどんな感じかを知らなかったら、用意することもないと思うので、知っておくのは大切かなと思う」
「伝えてほしいです、聞きたいです」
(神戸・三宮の25歳以下の若者たち)

神戸市長田区にある多文化・多言語コミュニティー放送局「FMわぃわぃ」。
関西学院大学のゼミ生たち「知らない世代」と共同で震災を伝える番組を制作しています。

山中速人教授は2019年、「知らない世代」の意識を探ろうと、県内3大学の445人を対象に調査を実施。

その結果、96%が「将来の防災に役に立つような教訓や知恵などについて語り継ぐ」ことを必要などと回答。一方で、「被災者の感情や思いの継承に力を入れるべき」という意見への支持は60%に届きませんでした。

「知らない世代」は、実用的な情報を求める一方、つらい悲しい話への関心はやや低いなど、情報を選ぶ傾向があるのではないかと山中教授は見ています。

(関西学院大学 山中速人教授)
伝えていくという自覚はあると思いますが、無意識的にどういう記憶を受け継いでいくのか、受け継ぎやすい記憶と受け継ぎにくい記憶があるのではないかと思います

山中教授は「記憶の選択的継承」と表現します。

(山中教授)
心のひだに触れるような深い悲しみだとかつらい記憶といった、ヒューマンタッチ(人間味)なものに対する、やや苦手な今の若者の傾向もあるのかなと思いました。

揺れを経験していない自分には震災は現実的ではないと、1本目の記事を書いた大学4年生の上利さんは、兵庫県三木市にある兵庫県広域防災センターで「あの日」と同じ震度7を疑似体験しました。

-揺れを「体験」して
(上利さん)足がなんていうか、感覚がないというか…(言葉にならず)

本当に、こんな状況で助け合いができるのか。
そもそも、自分の命は自分で守れるのか。
今まで鵜呑みにしていた防災の知識に疑問が出てきました

「知った」ことで考えが変わったと、2本目の記事につづり、発信しました。

クリスマスのこの日も遅くまで編集会議は続きます。
募金ボランティアに参加したことで、ルミナリエ本来の意味を考えた大学2年生の原郁海さん。

(大学2年生 原郁海さん)
震災のシンボル的なこととして、今一度、再認識し直すみたいな。ただ光を彼氏と見に来るのではなくて、そういう(震災という)背景があったことを思いながら、見られるようになったらいいなみたいな。

「防災グッズマニア」だという大学3年生の岡田敏和さんは、2泊3日で神戸市内の施設に避難所を想定して泊まり込み、防災グッズや非常食の体験を記事に。

(大学3年生 岡田敏和さん)
記事を読んでもらって、少しでも備蓄とか避難所生活ということに目を向けてもらったり、考えるきっかけになったらいいなと思っています。

(兵庫県 編集・デザインディレクター 有田佳浩さん)
それぞれが、それぞれの言葉で震災のことを考える、文章で表現するということで、本当に本人の意識も変わるし、読んだ方の心にも響くものが生まれると思いますし、生まれてきていると思っています。

日本各地で起こる災害では過去の経験や教訓が生かされず、防災や避難につながらなかったことが指摘されているほか、災害の風化によりボランティア不足なども懸念されています。

(上利さん)
揺れを体験してみたいところから入ったんですけど、最近になると伝えていくことこそが大事かなと思うようになりました。(震災の)話を聞いていなかったら何も教訓がないままで、もしかしたら死ぬかもしれない確率が、高くなるとだめだと。しっかり震災は伝えていきたいなと思います

もしも次に災害が起こった時、その中でも命を守り生きていくために。
「知らない世代」が、「知らない世代」の視点で伝えています。

 

LINE

あわせて読みたい

広告

広告

広告

PAGE TOP