安藤優也と新井良太の最後の勇姿。

〈10/10 阪神 6-1 中日 (甲子園)〉

:石崎
:ジョーダン

先発はメッセ。
8月10日の巨人戦で足を骨折、今季絶望と思われたその翌日、メッセは全体ミーティングに顔を出し、「CSまでに復帰する」とチームメイトに伝えた。
メッセはその言葉通り、本当に戻ってきた。
9月27日の甲子園でのファーム戦で復帰。そして今日、自身の最低限のモチベーションであろう規定投球回までの「あと4イニング」をクリアした。
「開幕投手になる」と公言し、そしてその言葉通り、メッセの先発で始まった2017年のタイガース。
143試合目にもメッセがいてくれて嬉しい。
本当に骨折してたの?と聞きたいぐらい素晴らしいピッチングだった。

今日は、安藤の引退試合。…と、もうひとり。
『新井良太引退』
朝一番に飛び込んできた文字は、目を覚ますのに充分過ぎた。
兄・貴浩を尊敬してやまず、豪快なフルスイングも、ひたむきな練習態度も、お兄ちゃんそっくりで、いつもその背中を追いかけてきた。
そして聞いているこちらが恥ずかしいぐらい兄貴自慢をする。そんなときの良太はとても誇らしげで、声もちょっと大きくなった。
なのに、兄貴より先にやめちゃうってどういうことだよ。

安藤が引退を発表したときは、正直「やっぱりそうか」と思った。今季、一度も一軍に安藤の姿がなかったからだ。
若手最優先。安藤はチームの方針をよくわかっていた。わかってくれているから、というのは使う側のエゴであり甘えでしかないのだけど、安藤がそれを理由にすることはなかった。自分の限界だと言い切った。
優しくて、強い人だ。

もう随分前のことになるけど、いつかの記事で衝撃を受けた。
不振で2軍落ちした安藤に、手紙が届いた。
そこにはたった1行―
「安藤、お願いだから、もうずっと2軍にいてくれ」。
安藤はこの手紙をずっと持ち歩いていたというのだ。
心無い、ファンかどうかもわからない人間の、そんな手紙を、悔しさを、忘れないために。

私は安藤ほど、ひどい野次や罵声を浴びた選手を他に知らない。
それを期待の裏返し、なんていう都合のいい言葉で濁す人もいたしそういう記事も読んだけど、そんなもん知るか。応援出来ないなら黙ってろ。投げる前から「ええー!」って、そんなバカな話あるか。登場曲を掻き消すほどのブーイング。「安藤頑張れーっ!」って声出した方が空気読めてないって空気、ここは甲子園じゃないのか?

プロ野球選手だから結果が全てだ。
けれど打たれても応援したい、それが私にとっての安藤という選手だった。

今日、安藤の名前がコールされると、甲子園が拍手と歓声に包まれた。
金本監督がマウンドで待っている。
大きな仕草で出来るだけ明るく振舞った。そうだ、金本監督だって、いや、むしろ金本監督こそ辛いはずなのだ。かつて共に闘った戦友を自身の采配で送り出さなくてはいけないのだ。
マウンドを囲んだのはこの日走者一掃の3ベースとソロHRを放った大山であり、アウトひとつをとった安藤と交代したのは、まだ19の誕生日がきていない若い才木だ。
チームは目に見えて変わった。
だから安藤は引退するのだ。
フルスイングしてもスタンドへは届かなかった良太も同じだ。
タイガースは闘う集団だ。明日へと進んでいかなきゃならないのだ。

けれどこの日ばかりは、甲子園は優しさに満ちていた。
なんでこの回から安藤が出てくるってみんな知ってんの?待ちきれない様子で安藤!安藤!って。
なんで次の代打に良太が出るってみんなそんなに早くわかるの?「良太」のプラカード配るの手際良すぎる!
辛かったあの日の空気なんてどこにもなかった。
甲子園を一言で語れないのはこういうところだ。

安藤が1球1球投げるたび、良太がバットを振るたびに起こった拍手。
「安藤ー!」の声は、野次ではなかった。
安藤がホームランを打たれても、それもなんだか安藤らしくてみんな突っ込んだり笑ったりして。石川やるな!プロ初HRおめでとう!
安藤には頑張れー!とみんな声援を送った。

この日甲子園にやってきたファンは、安藤と良太にありがとうお疲れ様を言いにきたのだ。
二人に、聞こえたかな。

安藤!
良太!

どうしようもなく寂しいよ。
ふたりとも確かにこの甲子園で輝いた選手。
今までタイガースを支えてくれてありがとう。
本当におつかれさまでした。

そして鳥谷!
兄弟みたいに仲良しの良太を、泣かずに見送ったね。頑張っておどけたりして。
そうそう!1000四球は偉業だよ!どさくさに紛れて何をシレッと達成してんのよ!おめでとう!

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