ゆあぺディア~私とセンバツその⑩~

「いつもテレビ見てますよ」
いまだに、“笑顔”で語ってくれた表情が目に焼き付いています。

それは、2000(平成12)年の秋季近畿高校野球大会1回戦でした。翌年のセンバツをかけた大切な大会。
この日の会場は、甲子園球場。兵庫県代表が1日で3校登場するとあって、ワクワクした気持ちで取材に行きました。第1試合から、
神戸国際大附―滋賀・近江、神港学園―和歌山・南部、姫路工―市和歌山商(現・市和歌山)の3試合。

冒頭の声を聞いたのは、第1試合が終わって、取材の輪が解けた直後でした。
当時、まだアナウンサーとして、3年目。「熱血!タイガース党」がスタートして2シーズン目。
いきなりで、ビックリして、でもメチャクチャ嬉しくて・・・。
「えっ、あ、ありがとう。甲子園出られるよう頑張ってね。応援してるわ!」
一瞬でその選手のファンになりました。

その選手とは、神戸国際大附の坂口智隆選手。この時、丸刈りの高校1年生、16歳。背番号「1」のエースでした。チームとして、初の近畿大会。土壇場9回に逆転して、初戦突破。当時の地元紙には「見えた初の甲子園」とあります。

その年の秋季兵庫大会でも、準々決勝の三原(現・淡路三原)戦でノーヒットノーランを達成するなど、
県内注目の選手・・・だったようですが、勉強不足でした。

神戸国際大附は、上記の近畿大会でベスト4。翌春、創部以来初めての甲子園出場が決まりました。

2001(平成13)年、第73回大会。21世紀枠が新たに設けられた大会。21世紀初の大会。
坂口選手はエースとして、センバツの舞台に挑みました。

山梨・市川との1回戦。3回表に神戸国際大附が2点を先制。“エース坂口”も7回まで相手打線を1点に抑え、2-1でリード。初出場で初勝利が見えてきた8回裏に試練が待ち受けていました。

市川の先頭バッターは、2番の村松選手。二塁打で出塁して、ノーアウト2塁。
続く3番の名取選手は送りバント、打球は坂口投手の目の前に。
捕球後、反時計回りに体を回転させ、三塁へ送球・・・まではよかったのですが、
大きく逸れて、悪送球となり同点。その後、2本の安打で逆転を許し、マウンドを先輩の小野投手に譲ります。

「甲子園?いっぱいお客さんも入っていて(21000人)楽しかったですけど、魔物が住んでいました(笑)
あの8回です。悪送球の瞬間、魔物と目が合いました(笑)」

結局、神戸国際大附は初陣を勝利で飾ることはできませんでした。

私はテレビ観戦でしたが、坂口選手の“笑顔”がとても印象に残っています。ただ笑っているんではないんです、とにかく「野球が大好きなんや!そして楽しいんや!」という気持ちが伝わってきたんです。それは、初対面の時と、全く変わりませんでした。

「僕のモットーは、“全力プレー”“全力疾走”そして、“笑顔”です!」
新庄剛志(阪神、日本ハムなどで活躍)さんに憧れたという少年時代。
理由は「どんなプレーをしても絵になる選手だったから」

私は高校時代、坂口選手の試合を1試合だけ実況しました。
この年の夏、兵庫大会の準決勝、東洋大姫路戦です。
私にとって、前年夏の「関西学院高等部―津名」戦に次いで、人生2度目の高校野球中継でした。
試合は2-1で東洋大姫路が勝利し、春夏連続の甲子園はなりませんでした。

翌年のセンバツも逃し、残るチャンスは1度。2002年の夏。
準決勝の市立尼崎戦、9回に5点差を逆転するという劇的なサヨナラ勝利で、初の頂点まで1勝。
しかし、決勝で、この年のセンバツで優勝、のちにプロ入りする選手を2人(現ロッテ大谷投手、元日本ハム尾崎選手)擁する報徳学園の前に、最後は力尽きました。

2003年にドラフト1位で大阪近鉄バファローズに入団。球団合併後、2005年からオリックスへ。
その後、自由契約となり2016年から東京ヤクルトへ。16歳の少年は、ベテランの域に近づく35歳に。今年で、プロ入り18年目の春を迎えました。

高校1年生の秋に初めて出会って以来、20年近く、毎年のように取材をしてきました。
球場で会えば、必ずモットーの“笑顔”を見せてくれます。

2009年7月7日、自身の誕生日に本塁打を放って、私がヒーローインタビュー。
2016年3月30日、ヤクルト移籍後に私が初めて見た試合で、“全力プレー”の三塁打、気迫のヘッドスライディング。
2018年7月13日、プラスワンでオールスターゲームに選出され、かつての本拠地・京セラドーム大阪での大歓声。

数え上げれば、思い出はキリがありません。

昨年はケガもあって、不本意な成績に終わり、今年にかける思いは特別です。
「見とってください!」
今年のキャンプでも“笑顔”で語ってくれました。

そんな坂口選手に、母校の校歌の一節を送ります。
「行く手にはあふれる希望」あるのみ!

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